はじめに
IBMは2026年9月24日、SAP環境のアプリケーション管理サービス(AMS)を、人が主導する運用から自律的なAIエージェントが担う運用へ移行させる際に、企業が満たすべき条件を論じたコラムを公開しました。本稿では、この提言の要点と実践面での考え方を紹介します。
参考記事
- タイトル: From AI pilots to autonomous AMS: The enterprise readiness test for SAP
- 著者: Dharma Atluri
- 発行元: IBM (IBM Think)
- 発行日: 2026年09月24日
- URL: https://www.ibm.com/think/insights/from-ai-pilots-autonomous-ams
関連記事



要点
- IBMは、SAP運用におけるAI活用の到達度を「導入しているか」ではなく「どこまで自律的な判断を任せられるか」で測るべきだとしている
- CIOが確認すべき準備度として、SAP基盤・データ・プロセス・ガバナンス・人員体制・事業価値測定の6項目を提示している
- AIエージェントの関与度合いを、情報提供から自律運用まで5段階の成熟モデルとして整理している
- 自律型AMSを支えるコンポーネントとして、IBM Consulting AIOpsやICAMSなど複数のサービスを組み合わせて提供している
詳細解説
自律型AMSは「運用モデルの転換」
IBMはまず、自律型AMSを単なる自動化の延長ではなく、運用モデルそのものの転換と位置づけています。従来の自動化があらかじめ定めたルールに沿って動くのに対し、エージェント型AIは状況を捉え、計画を立て、複数のステップにわたる作業を目的に沿って実行できる点が異なるとしています。
具体例として、買掛金業務における例外処理が挙げられています。IBMによれば、AIによる支援では担当者が例外を調査する作業を助けるにとどまりますが、エージェント型のシステムはあらかじめ定められた範囲内で、例外の検知・調査・解消までを独力で完了できるとしています。本稿としては、この違いこそが「AIを使っているか」と「AIにどこまで任せられるか」を分ける境界線だと考えています。
本稿としては、この転換はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)からエージェント型AIへの移行という文脈でも理解できるのではないかと思います。RPAは決められた手順を忠実になぞる技術であり、手順自体を変更する判断は含んでいませんでした。エージェント型AIが「計画を立てて実行する」とされる点は、この制約を越えようとする試みだと受け止めています。
CIOが問うべき6つの準備度
IBMは、自律型AMSへの移行に先立ち、CIOが自問すべき論点を6つに整理しています。元記事の構成に沿って、各項目を箇条書きで示します。
- SAP基盤の準備度: クリーンコアの状態とAPIの整備状況が土台になる。カスタムコードや技術的負債、アーキテクチャの複雑さが、AIに任せられる範囲を制約する
- データへのアクセスと品質: エージェントがトランザクションデータ、ログ、監視情報、ITSM(ITサービスマネジメント)、構成情報、ナレッジソースにアクセスできる必要がある。データが最新かつ整合していることも条件になる
- プロセスの準備度: 既存の手作業の引き継ぎや回避策は、そのままでは自律化に適さない場合がある。IBMは「非効率なプロセスにAIエージェントを追加するだけでは、非効率そのものを自動化してしまう」と指摘している
- 自律的な意思決定のガバナンス: どの行動を独立して実行してよいか、どこで承認を要するか、委任してはならない判断は何かを定める必要がある。責任の所在と、判断を後から取り消す仕組みも整備の対象になる
- 人とAIの運用体制: ガバナンスを担う「フォワード・デプロイド・アーキテクト(FDA)」、実行を統括する「フォワード・デプロイド・エンジニア(FDE)」、両者と専門知識を組み合わせた「フォワード・デプロイド・ユニット(FDU)」という体制が示されている
- 事業価値の測定: インシデント解決の速度、再発件数、リリースの安全性、自動化率といった成果指標に加え、技術的負債の削減や、より付加価値の高い業務にどれだけ人員を振り向けられたかも測る対象になる
本稿としては、この6項目のうち特に見落とされやすいのはプロセスの準備度だと考えています。SAP標準機能の範囲内で運用が完結していない企業ほど、手作業の慣行がAI導入後もそのまま残ってしまう可能性があると思います。また、ガバナンスの論点については、AIのリスクは切り離せないという考え方をIBMは以前示しており、今回の「自律的な意思決定のガバナンス」という項目も、この延長線上にあると読めます。
自律性を測る5段階の成熟モデル
IBMは、AIエージェントがどこまで業務に関与するかを、5段階の成熟モデルとして整理しています。段階が進むほど、技術・プロセス・データ・ガバナンスの基盤もより強固なものが求められるとしています。
- AIアシスタンス: AIが情報や推奨案を提示し、実行は人が担う段階
- 組み込み型ワークフロー: 定型業務の中に、定義済みのタスクとしてAIが組み込まれる段階
- 委任されたアクティビティ: エージェントが独立して業務を実行し、例外だけを人が扱う段階
- 協調するエージェント群: 複数のエージェントが連携し、複数ステップのプロセスを一つのものとしてオーケストレーションする段階
- 自律運用: プロセスが自ら組成・実行され、人は例外対応に専念する段階
本稿としては、この成熟モデルの価値は「今どの段階にいるか」を測る物差しになる点にあると考えています。特に日本企業の場合、組み込み型ワークフローの段階に留まっている組織が多いのではないかと思います。
また、この5段階は連続的なグラデーションであり、企業のすべての業務が同じ段階にある必要はないと考えられます。定型的な監視業務は自律運用まで進める一方、例外対応が多い業務は委任されたアクティビティの段階に留めるといった、業務特性に応じた使い分けが現実的な出発点になるのではないでしょうか。
既存の組織体制とどう噛み合わせるか
IBMは、AIエージェントを既存の事業構造に統合するほど効果が高まるとしています。具体的には、顧客・サプライチェーン・基幹システムといった業務ごとの「アプリケーションスクワッド」、SAP運用・DevOps・テストなどの「共有プラットフォーム」、そしてコンプライアンスのガードレールを提供する「一元的なガバナンス」という3つの層を挙げています。
本稿としては、AIエージェントを既存の組織構造とは別に特別な取り組みとして立ち上げるのではなく、この3層構造にどう位置づけるかを先に設計する方が、後々の運用がしやすいのではないかと考えています。日本企業の場合、SAP運用を情報システム部門と事業部門とで分担しているケースが多く、アプリケーションスクワッドという発想はこの分担を再整理する契機になり得ると思います。特に、共有プラットフォームの整備が遅れている組織ほど、エージェント間の連携がうまく機能しない可能性があると考えられます。
IBMが提供する自律型AMSのコンポーネント
IBMは、自律型AMSを支える自社サービスとして、以下の組み合わせを紹介しています。
- IBM Consulting AIOps: 監視とITSM(ITサービスマネジメント)をつなぐ運用インテリジェンス
- IBM Consulting Application Management Suite for SAP(ICAMS): 運用とテストの領域でエージェントを実行する基盤
- IBM Bob: コードの分析と改善を担う、AIを活用したエンジニアリング機能
- IBM Context Studio: 企業固有の文脈とナレッジを扱う機能
- IBM Consulting Advantage: オーケストレーションとガバナンスを担う層
これらを組み合わせることで、人による監督を保ちながら段階的に自律性を高めていくというのが、IBMのアプローチだとしています。一方で本稿としては、複数のコンポーネントの組み合わせが必要になること自体が、自律型AMSの実現には相応の投資と体制整備が前提になることを示していると考えています。これらはIBM自身のサービス群ですが、他ベンダーの構成でも監視・実行基盤・コード分析・ナレッジ管理・オーケストレーションという機能分担そのものは共通して必要になると考えられます。特定の製品名よりも、この5つの機能を自社内でどう分担させるかという観点で読み替えるのが実務的ではないかと思います。
まとめ
IBMが示す6つの準備度と5段階の成熟モデルは、AIエージェントをどこまで業務に任せられるかを見極める指標として整理されています。自律型AMSへの移行は一足飛びには進まず、段階的な取り組みになると考えられます。AIエージェントの説明責任については、IBMが提唱するトレース層の設計思想も過去記事で紹介していますので、あわせてご覧ください。
