はじめに
IBM Thinkは2026年9月21日、コンサルティング業界でAIエージェントを活用した少人数チームへの移行が広がっていると報じました。本稿では、IBMが今年5月に発表した「Forward Deployed Units」という体制を中心に、コンサルティングのチーム編成や料金モデルがどう変わろうとしているかを紹介します。
参考記事
- タイトル: AI is tightening consulting teams—and raising the bar for who’s on them
- 著者: Sascha Brodsky
- 発行元: IBM Think
- 発行日: 2026年9月21日
- URL: https://www.ibm.com/think/news/ai-tightening-consulting-teams-forward-deployed-units
関連記事



要点
- IBMは2026年5月、少人数の専門家チームがクライアントと直接働き、作業の一部をAIエージェントに任せる「Forward Deployed Units(FDU)」を導入したと発表している。
- Gartnerの調査では、複数の事業部門にわたってAIをスケールできた組織はわずか22%にとどまる一方、85%の部門責任者が2026年のAI投資拡大を計画しているとしている。
- IBM Institute for Business Valueの調査では、企業のAI投資の平均ROIは17%にとどまったとしている。
- IBMはインドの大手銀行のデータ近代化プロジェクトで、従来300人・12〜15カ月規模とされる作業を9カ月足らずで完了したとしている。
- AWSも2026年6月、顧客に密着するAIエンジニア組織に10億ドルを投じる方針を発表したとIBM Thinkは伝えている。
詳細解説
AI投資、22%止まりのスケールという課題
IBM Consultingでハイブリッドクラウドとデータのグローバル統括パートナーを務めるJavier Olaizola氏はIBM Thinkの取材に対し、「市場の関心は『AIで何ができるか』から『AI投資の配当を見せてほしい』へと変化した」と述べています。Gartnerの調査によれば、複数の事業部門にわたってAIをスケールできた組織、またはAIファーストのアプローチを採用した組織はわずか22%にとどまる一方、85%の部門責任者は2026年にAI投資を拡大する計画だとしています。IBM Institute for Business Value(IBV)の調査でも、企業のAI投資の平均ROIは17%にとどまったと報告されています。
投資は増えているのに成果が伴わないという状況は、多くの企業が抱える共通の悩みだと考えられます。パイロット段階からなかなか抜け出せない要因については、IBMが「コンテキストギャップ」という切り口で以前に整理していましたが、今回のFDUという体制は、その打開策の一つとしてIBMが打ち出したアプローチと言えそうです。
少人数チームとAIエージェントが組む新体制
IBMは2026年5月、「Forward Deployed Units(FDU)」と呼ぶ体制を導入したと発表しました。少人数の専門家チームがクライアントと直接働き、作業の一部をAIエージェントに委ねる仕組みです。Olaizola氏によれば、典型的な1チームは3〜4人で構成されます。ビジネス成果に責任を持つ担当者、技術アーキテクトまたはフォワードデプロイエンジニア、データ専門家、業界専門家が並び、そこに10〜20体のエージェントが加わるといいます。
エージェントはソフトウェア要件の作成、コード生成、テストケースの作成、不具合のスキャン、既存手順からのパターン検索などを担当します。人間は問題を定義し、ビジネス・技術面の文脈を与え、成果物がクライアントの要件を満たしているかを判断するという、プロセスの両端を担うとOlaizola氏は説明しています。チームはエージェントが確実にこなせる作業を見極めながら、任せる範囲を徐々に広げていくとしています。
顧客に密着するAIエンジニアを配置する動きはIBMに限りません。Amazon Web Servicesも2026年6月、同様の体制に10億ドルを投じる方針を発表しました。Reutersの報道によれば、AWSは顧客の本番システムに深く関わるフォワードデプロイ型AIエンジニアの新組織を立ち上げる計画だといいます。IBMの各ユニットは、エージェントや再利用可能な手法を提供する「IBM Consulting Advantage」というプラットフォームを活用しているとしています。
「時間」から「成果」へ——コンサル料金モデルの変化
Olaizola氏は、インドの大手銀行(IBMは名称を公表していないといいます)で進めたデータ近代化プロジェクトを例に挙げています。数百から数千件に及ぶデータ処理ジョブを新しい技術基盤に移行する作業で、従来型の手法なら約300人が12〜15カ月をかけるのが一般的だとした上で、IBMは9カ月足らず、しかもはるかに少ない人数でやり遂げたと説明しています。
人手ですべての不具合を個別に修正するのではなく、チームは誤りを分析して指示や文脈を修正し、再実行して結果が改善したかを確認するという進め方を取ったといいます。Olaizola氏は、レガシーコードの変換作業を例に、エージェントが最初は約70%の精度で作業し、指示を洗練させるにつれて85%、90%へと精度が上がっていく、という想定の流れを示しています。小さな単位で手順が固まれば、同じアプローチを数百から数千件の類似ジョブに広げられるといいます。
この変化はコンサルティング業界の料金体系にも影響しうるとOlaizola氏は指摘しています。従来型の契約は人数と稼働時間に収益を結び付けることが多く、より少ない人数・時間で済むモデルはこの構造を正当化しにくくするといいます。「時間単位で課金するなら、誰にとっても時間を最大化するインセンティブが働いてしまう。成果を最大化するインセンティブにはならない」とOlaizola氏は述べています。Financial Timesの報道によれば、クライアント側もすでに、AIが一部の技術作業を自動化する中で、より低い料金や固定価格のプロジェクト、成果と連動した契約をコンサルティング会社に求め始めているといいます。
人間が担う「判断層」
エージェントが定型業務を担うようになるにつれ、人間の専門性は成果の評価に比重を移すとOlaizola氏は述べています。開発者やアーキテクト、アナリストが従来担ってきた作業の一部はAIが処理できる一方、その成果がクライアントのアーキテクチャーに適合するか、セキュリティ要件を満たすか、規制に準拠しているかを判断するのは依然として人間の役割だといいます。ソフトウェアが技術的に正しく動作しても、銀行のセキュリティ規則に反していたり、利用できないデータに依存していたりすれば使い物にならない、とOlaizola氏は例を挙げています。「価値は基本的に判断の層に移った」とOlaizola氏は述べています。
Olaizola氏はこの変化をジャーナリズムになぞらえています。AIは大量のテキストを短時間で生成できますが、その内容が正確で有用か、読者にふさわしいかを判断するのは依然として人間だといいます。「コンテンツを作ること自体が重要なのではない」とし、価値はジャーナリストが「正しい視点を提供しているという保証」を与える点にあると述べています。
この体制はジュニア人材の育成方法にも問いを投げかけています。従来、大手プロフェッショナルファームは経験の浅い社員にリサーチや分析、技術作業を任せ、経験豊富な社員の下で育成する形を取ってきました。IBMはFDU発表時、新卒者を採用しフォワードデプロイ職に育てる方針を示していたといいます。IBMは、この体制が従来型のコンサルティング職を消滅させるとは述べていません。Olaizola氏によれば、経験の浅いコンサルタントは入社当初からユニットの中で育ち、問題を整理し、エージェントの出力を評価し、判断を下す経験を上級社員の隣で積んでいくことになるといいます。判断力を養うことは、育成の副産物ではなく目的そのものになっていくとOlaizola氏は述べています。
エージェントが向く仕事、向かない仕事
Olaizola氏は、すべての業務プロセスがAIエージェントに置き換わるとは見ていません。既知の入力と予測可能な出力を持つ固定的なルールに従う作業は、確率的な判断を行うシステムよりも従来型のソフトウェアの方が効率的に処理できることが多いといいます。解釈や柔軟性、判断を要する作業の方が、エージェントには向いているとOlaizola氏は述べています。
この線引きは、企業がAIに多額の投資を続けながらも、必ずしも全社的な展開に成功していない現状とも重なります。Gartnerは9月1日発表の調査結果を、年間売上高5,000万ドル以上の企業に属する回答者1,303人を対象とした調査に基づいてまとめており、スケールの成功は依然として限定的だと結論づけています。Olaizola氏は、企業に必要なのは高性能なAIモデルだけでなく、ビジネス課題を理解し、エージェントがどこで役立つかを把握し、成果物が使える水準にあるかを判断できる人材だと述べています。コンサルティング業界にとってこの変化は、チームの規模よりも判断力と説明責任の価値を高める可能性があるといいます。「AIはあらゆる場所に組み込まれるようになるが、すべての作業がエージェントベースになるわけではない」とOlaizola氏は述べています。
まとめ
IBMが示すFDUは、AIエージェントに任せる範囲を広げつつ、人間の役割を判断と説明責任へ絞り込む方向性を示しています。ジュニア業務の自動化とコンサルタント育成の両立については過去記事でも整理していますので、あわせてご覧ください。
