[ニュース解説]AIの開発速度を巡る議論が再燃——IBMが語る「今ある脆弱性」への向き合い方

目次

はじめに

 IBM Thinkは2026年9月14日、AI開発の減速を求める声が週末に相次いだと報じました。Anthropicのダリオ・アモデイCEOらが減速を訴える一方、すでに見つかっている脆弱性への対応も課題です。本稿では、この報道内容と専門家の見解を紹介します。

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要点

  • Anthropicのダリオ・アモデイCEOが最先端AIの開発速度を落とすよう呼びかけ、OpenAIのサム・アルトマンCEOとGoogle DeepMindのデミス・ハサビス共同創業者もこれを支持した。
  • IBMのデイブ・マギニス氏は、減速によって企業が既存のAIシステムへの対応に集中しやすくなると述べた。
  • 信頼できない提供元を含む一部のオープンソースモデルは、開発を止めていないとの指摘がある。
  • IBMとレッドハットは2026年5月、50億米ドル規模の投資の一環として「Project Lightwell」を立ち上げ、6月にはパロアルトネットワークスも加わった。
  • セキュリティ技術者のブルース・シュナイアー氏は、AI開発の減速を業界全体で調整することの難しさを指摘した。

詳細解説

相次ぐ減速要求と専門家の受け止め

 IBM Thinkによれば、最先端AIの開発を減速させるべきだという声が今週末にかけて強まりました。Anthropicのダリオ・アモデイCEOは9月13日(土)、安全性や誤用への懸念を理由に、AI企業に対して最も高性能なモデルの開発速度を落とすよう呼びかけました。OpenAIのサム・アルトマンCEOとGoogle DeepMindの共同創業者デミス・ハサビス氏も、この呼びかけを支持する立場を示しています。

 IBMでグローバル・サイバー脅威管理担当バイスプレジデントを務めるデイブ・マギニス氏は、IBM Thinkの取材に対し、研究者自身が減速を呼びかけるのであれば業界はその警告に耳を傾け、対応を調整すべきだという考えを示しました。

 本稿としては、減速の呼びかけが研究開発の最前線にいる当事者から出ている点が重要だと考えています。外部からの規制論とは異なり、開発当事者の判断として一定の重みを持つ可能性があります。

IBMが指摘する「今ある脆弱性」との向き合い方

 マギニス氏は、減速の有無にかかわらず、企業がAIの導入状況に関するガバナンスや可視性の確保、トレーサビリティに一層注意を払い、防御体制の強化を続けるべきだと述べました。一方で、すべてのモデル開発者が同じように減速するとは限らないとも警告しています。信頼できない提供元を含む一部のオープンソースモデルは、開発を止めていないとマギニス氏は指摘しました。

 IBMによれば、2026年版データ漏洩コストレポートでは、脆弱性のスキャンや管理にAIエージェントを利用しているセキュリティチームは18%にとどまっているものの、今後1年でエージェントの導入や投資は増加すると見込まれています。

 本稿としては、AIモデル開発企業の減速と、実運用で使われるオープンソースソフトウェアのセキュリティ対策は、別の課題として捉える必要があると考えています。前者が止まったとしても、後者への対応が遅れれば、リスクは残り続けると見ています。

Project Lightwellとシュナイアー氏の提言

 オープンソースソフトウェアのセキュリティを強化する動きとして、IBMとレッドハットは2026年5月、50億米ドル規模の投資の一環として「Project Lightwell」を立ち上げました。IBMによれば、この取り組みではAIを活用した脆弱性のレビュー・トリアージ・優先順位付けに加え、パッチ開発や依存関係の強化、リリースエンジニアリングを進めるとされています。同プロジェクトは6月、パロアルトネットワークスも加わり、脆弱性の発見から仮想パッチ(バーチャルパッチ)の適用、修復までの機能を統合する形に拡大しました。

 ハーバード・ケネディスクールの講師でセキュリティ技術者のブルース・シュナイアー氏は、AI開発の減速を世界規模で調整することの難しさを指摘しています。仮に世界的な政府のようなものがAI開発全体を減速させるとすれば、社会的な観点から最も優先すべきはセキュリティと安全性だという見方を示しました。同氏は、評価・アクセス制御・監視・レッドチーム演習(実際の攻撃を想定した訓練)のいずれかを選ぶのではなく、複数の対策を並行して進めるべきだとも述べています。

 マギニス氏は最後に、企業は現行のAIモデルを使って防御力を高めるべきだと述べ、減速に関する議論の結論を待つ必要はないという考えを示しました。

 本稿としては、既存のAIモデルを使った防御強化と、AI開発企業側の減速議論は並行して進めうるものであり、企業にとってはどちらか一方の結論を待つより、今できる対策を進める方が現実的な選択だと受け止めています。

まとめ

 AI開発の減速を巡る呼びかけは、安全性への配慮として一定の支持を集めていますが、すでにある脆弱性やオープンソースソフトウェアのセキュリティ対応は、減速の行方とは別に進める必要がある課題だと言えます。Anthropicが自社のAI開発をどう守っているかについても過去記事で整理していますので、あわせてご覧いただければと思います。

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