はじめに
OpenAIが2026年6月3日、生命科学研究向けの専用モデル「GPT-Rosalind」のアップデートを発表しました。GPT-5.5のエージェント機能と医薬品化学・ゲノミクス領域の強化された推論能力を組み合わせ、創薬から実験支援まで幅広いワークフローを対象とした性能向上が図られています。
参考記事
- タイトル: Introducing new capabilities to GPT‑Rosalind
- 著者: OpenAI
- 発行元: OpenAI
- 発行日: 2026年6月3日
- URL: https://openai.com/index/introducing-new-capabilities-to-gpt-rosalind/
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要点
- OpenAIが設計した専用ベンチマーク「LifeSciBench」の6分野すべてにおいて、GPT-RosalindはGPT-5.5およびGrok 4.3・Gemini 3.1 Proを上回る性能を記録した
- 医薬品化学ベンチマーク「MedChemBench」では27.5%(GPT-5.5は25.1%)、ウェットラボ支援「LabWorkBench」では63.2%(GPT-5.5は55.8%)を達成しつつ、トークン使用量を削減している
- 研究者向けプラグイン「Life Sciences Research」「Life Sciences NGS Analysis」がCodexを通じて全ユーザーに公開され、文献検索・バイオインフォマティクス実行・構造閲覧を同一ワークスペースで行えるようになった
- アクセスは信頼できる機関向けの限定プレビューで提供されており、Novo Nordiskが早期採用パートナーとして参加している
詳細解説
LifeSciBenchとはどのような評価指標か
OpenAIは今回のアップデートに合わせ、「LifeSciBench」と名付けた新たな評価ベンチマークを設計しました。このベンチマークの特徴は、単一の生物学領域や能力を切り出すのではなく、実際の研究者が行う作業全体を視野に入れた点にあります。評価対象は、エビデンス収集・分析・設計と最適化・科学的推論・検証と実験運用・翻訳と科学コミュニケーションという6つのワークフロー領域で構成されており、OpenAIによれば専門家の外部評価を取り入れた設計とのことです。
生命科学研究では、分子・遺伝子・シグナル経路・生体システムにまたがる大量のデータを統合する能力が求められます。LifeSciBenchはその複雑さを反映した評価設計と言えます。総合スコアではGPT-Rosalindが競合モデルを上回る結果を示しており、6分野すべてでGPT-5.5をリードしています。


医薬品化学・ゲノミクスでの具体的な性能
医薬品化学(メディシナルケミストリー)の専用ベンチマーク「MedChemBench」では、マルチモーダルな化学構造理解、構造活性相関(SAR)、薬物動態(ADME)予測、多パラメータのリード最適化、逆合成などを評価しています。OpenAIによれば、GPT-RosalindはGPT-5.5に対して27.5% vs. 25.1%とスコアで上回り、使用トークン数は7.2%少ない結果となっています。

ゲノミクスと定量生物学の評価「GeneBench」は、機能ゲノミクス・空間トランスクリプトミクス・プロテオミクス・エピゲノミクスなど複数の領域をカバーするエージェント型の長期タスク評価です。OpenAIの発表では、GPT-Rosalindは21.6% vs. 20.4%で精度が高く、トークン使用量はGPT-5.5比で31%少ないとのことです。トークン効率が高いことは、長時間・多ステップの研究ワークフローを実行する場面でコスト面の利点につながると考えられます。

実験支援の「LabWorkBench」では、実際のウェットラボプロトコルに基づいた設問を使い、実験トラブルシューティングや最適化支援の能力を評価しています。OpenAIによれば、GPT-Rosalindは63.2%を記録しGPT-5.5の55.8%を7.4ポイント上回りました。このデータはOpenAI独自のプロプライエタリデータを使用しているため、外部からの検証が現時点では難しい点には留意が必要だと思います。

研究ワークフローを統合するプラグインとビューアー
今回の発表では、性能向上に加え、研究者向けの実行環境の整備も発表されています。OpenAIは「Life Sciences Research」プラグインと「Life Sciences NGS Analysis」プラグインをCodexを通じて全ユーザーへ公開しました。前者は文献エビデンスの取得・生物学的解釈を担い、後者はNGS(次世代シーケンサー)データの解析実行を担う設計です。
これらのプラグインにより、外部文献の検索から内部オミクスデータの解析まで、同一のワークスペース内で実行できるとOpenAIは説明しています。また、シーケンス・アライメント・タンパク質構造の各ビューアーが追加され、モデルが推論を進める過程で研究者が直接エビデンスを確認しながら作業を進められるようになっています。
OpenAIが示したデモでは、液体生検(ctDNA)データからKRAS G12C変異を特定するワークフローが例示されており、変異サイトの可視化から阻害剤結合ポケットの構造確認、その後の研究方針の提案までが一連の流れで示されています。
アクセス体制とNovo Nordiskとの連携
GPT-Rosalindは現在、「研究プレビュー」として信頼機関向けの限定アクセス体制で提供されています。OpenAIによれば、利用資格として「正当な科学研究で公共の利益が明確であること」「ガバナンスと安全管理体制が整っていること」「エンタープライズグレードのセキュリティを有すること」の3点が求められるとのことです。
早期採用パートナーとしてNovo Nordiskが参加しており、複合データセットの分析や仮説検証の高速化にGPT-Rosalindを活用するとしています。Novo NordiskのAI・デジタルイノベーション担当グループバイスプレジデント、Mishal Patel氏は、研究AIに求められる要件として「信頼できる科学データへの根付き」「検証済みツールとの連携」「実際のワークフローへの統合」の3点を挙げています。
また、OpenAIはエンタープライズアカウントを持たない組織向けに、OpenAI管理ワークスペースの提供も開始しています。
まとめ
今回のGPT-Rosalindアップデートは、4月に発表された初期モデルの延長線上にある機能強化で、専用ベンチマーク設計・研究プラグインの整備・パートナー機関への展開という3つの方向で進展が見られます。創薬AIの実用化は進みつつありますが、アクセスが限定的な段階であり、今後の広範な展開と独立した評価の蓄積が注目点だと思います。
