はじめに
OpenAIが2026年4月16日、生命科学研究に特化したフロンティア推論モデル「GPT-Rosalind」を発表しました。創薬・生物学・トランスレーショナルメディシンの各領域を対象に設計されており、文献調査から実験計画まで複数ステップにわたる研究ワークフローを支援します。本稿では、その仕組みと性能、アクセス方法について解説します。
参考記事
- タイトル: Introducing GPT‑Rosalind for life sciences research
- 著者: OpenAI
- 発行元: OpenAI
- 発行日: 2026年4月16日
- URL: https://openai.com/index/introducing-gpt-rosalind/
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要点
- GPT-Rosalindは、生物学・創薬・トランスレーショナルメディシン向けに設計されたOpenAIの専用推論モデルであり、化学・タンパク質工学・ゲノミクスにわたる深い理解と高度なツール活用能力を持つ
- 実世界のバイオインフォマティクスを評価するBixBenchで0.751のスコアを達成し、公開スコアを持つモデルの中で最高性能を記録した(GPT-5は0.728、GPT-5.4は0.732)
- Dyno Therapeuticsとの共同評価では、RNA配列予測タスクでAI・バイオ分野の人間専門家の95パーセンタイル以上、配列生成タスクで約84パーセンタイルの性能を示した
- 50以上の科学データベース・ツールに接続できる「ライフサイエンス研究プラグイン」がCodex向けにGitHubで無料公開された
- 現在は米国の認定エンタープライズ顧客向けの研究プレビューとして提供されており、プレビュー期間中はクレジット・トークンの消費なしで利用できる
詳細解説
GPT-Rosalindとは何か
GPT-Rosalindは、OpenAIが2026年4月16日に発表した生命科学分野向けの専用フロンティア推論モデルです。名称は、X線結晶解析の研究によってDNA二重らせん構造の解明に貢献した科学者、ロザリンド・フランクリン(Rosalind Franklin)にちなんで命名されています。
同モデルは、化学反応のメカニズム推論、タンパク質の構造・変異・相互作用の理解、ゲノム配列の系統解析といった生命科学固有の複雑な推論タスクに特化して設計されています。OpenAIによれば、米国で新薬が標的発見から規制承認まで達するには平均10〜15年を要するとされており、GPT-Rosalindはその早期発見段階の支援を主目的として開発されました。
研究者が日常的に直面するワークフロー——膨大な文献の精査、専門データベースとの連携、実験データの分析、仮説の評価——は断片化しており、スケールが難しい状況が続いています。GPT-Rosalindはこれらの複数ステップにまたがるタスクを一貫して処理できるよう最適化されていると考えられます。本ブログでは以前「GPT-5が科学研究を加速」として汎用モデルによる研究支援を取り上げましたが(→ https://jobirun.com/openai-gpt-5-accelerating-science-research/)、今回はドメイン特化型モデルという異なるアプローチが示されています。
性能評価:ベンチマーク結果
OpenAIはGPT-Rosalindを複数のベンチマークで評価しています。実世界のバイオインフォマティクスとデータ分析を対象としたBixBenchでは、公開スコアを持つモデルの中で最高性能を記録しました。スコアは0.751であり、GPT-5(0.728)、GPT-5.4(0.732)、Grok 4.2(0.698)を上回っています。
文献検索・データベースアクセス・配列操作・プロトコル設計など幅広い研究タスクをカバーするLABBench2では、GPT-5.4と比較して11タスク中6タスクで性能が向上しました。特に顕著な改善はCloningQAで、これはDNAや酵素試薬の設計をエンドツーエンドで行う分子クローニングプロトコルを評価するタスクです。
さらに、AIデザイン遺伝子療法を手がけるDyno Therapeuticsとの共同評価では、未公開・未汚染のRNA配列を使用した検証が行われました。OpenAIによれば、Codexアプリでの直接評価において、best-of-10の提出結果が、AI・バイオ分野の人間専門家57名の歴史的スコアと比較して、配列予測タスクでは95パーセンタイル以上、配列生成タスクでは約84パーセンタイルに位置したとのことです。
これらの数値は性能の一側面を示すものですが、ベンチマーク成績と実際の研究現場での有用性は必ずしも一致しないため、実運用での継続的な評価が重要だと思います。
ライフサイエンス研究プラグインとツール連携
OpenAIは同時に、Codex向けの「ライフサイエンス研究プラグイン」をGitHubで公開しました。このプラグインは、ヒト遺伝学・機能的ゲノミクス・タンパク質構造・生化学・臨床エビデンス・公開研究発見など、研究ワークフロー向けのモジュール式スキルセットとして設計されています。
50以上の公開マルチオミクスデータベース、文献ソース、バイオロジーツールへのアクセスを提供し、タンパク質構造検索、配列検索、文献レビュー、公開データセット発見といった反復的なワークフローの起点として活用できます。GPT-Rosalindを利用できる認定エンタープライズユーザーは深い生物学的推論とこのプラグインを組み合わせられ、それ以外のユーザーもメインラインモデルと組み合わせて利用できます。
なお、医療・ライフサイエンス分野へのAI活用の流れは製薬業界でも広がっており、イーライリリーが創薬AIプラットフォーム「TuneLab」を公開したことも以前取り上げています(→ https://jobirun.com/eli-lilly-launches-tunelab-ai-platform/)。専用モデルと産業パートナーシップを組み合わせたOpenAIのアプローチは、この潮流とも重なる動きといえます。
企業パートナーシップとアクセス条件
現在、Amgen・Novo Nordisk・Thermo Fisher Scientific・Moderna・Oracle Health and Life Sciences・NVIDIA・Allen Institute・Benchling・UCSF School of Pharmacyなど、製薬・バイオテクノロジー・研究機関にわたる組織との連携のもとで、GPT-Rosalindが創薬ワークフローに適用されています。
モデルへのアクセスは「信頼されたアクセスプログラム」を通じて提供されており、現時点では米国の認定エンタープライズ顧客を対象としています。参加組織には、明確な公益目的を持つ正当な科学研究の実施、適切なガバナンス・コンプライアンス体制の維持、安全に管理された環境内での承認ユーザーへのアクセス制限が求められます。生物兵器への悪用防止を念頭に置いた管理体制が設けられている点は、この種のドメイン特化モデルの展開において重要な考慮点だと思います。研究プレビュー期間中は既存クレジット・トークンを消費することなく利用可能です。
今後の展望として、OpenAIはロスアラモス国立研究所との提携によるAIガイドタンパク質・触媒設計の探索を進める方針を示しており、より長期的な創薬支援への取り組みが続く見込みです。
まとめ
GPT-Rosalindは、OpenAIが生命科学分野向けに開発した専用推論モデルです。BixBenchでの最高スコア、Dyno Therapeuticsとの専門家水準の評価結果、そして50以上のデータベースに接続するプラグインの無料公開は、研究ワークフロー効率化に向けた具体的な進展といえます。現時点では米国の認定エンタープライズ顧客向けにとどまっていますが、今後の一般展開と実際の創薬成果への貢献がどう評価されるか、注目したいと思います。
