はじめに
Perplexityは2026年6月8日、Harvard Business Schoolの研究者と共同でAIエージェント「Computer」の実世界利用データを分析した研究レポートを公開しました。本稿では、エージェント型AIが従来の検索AIと比べてナレッジワークをどのように変えているか、その実証結果を解説します。
参考記事
- タイトル: How AI Agents Reshape Knowledge Work
- 著者: Perplexity Research チーム(Harvard Business School 研究者との共同)
- 発行元: Perplexity Research
- 発行日: 2026年6月8日
- URL: https://research.perplexity.ai/articles/how-ai-agents-reshape-knowledge-work
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要点
- Perplexity Computerは1セッションあたり平均26分の機械処理を実行し、Search(33秒)と比べ約48倍の自律的な作業量を記録した
- 同一タスクを「Search+人間」と「Computer+人間」で比較すると、作業時間は87%削減、コストは平均94%削減された
- Computerユーザーは職業領域を横断してタスクをこなす割合がSearchユーザーより9ポイント高く(59% vs 50%)、より高次の認知的作業(Create レベル)に集中する傾向が確認された
- タスク終了後の不満シグナルはSearch(2.9%)に対してComputer(1.3%)と55%低く、自律性向上と品質が両立した
- 2026年2月のリリースから3か月で累積クエリ数が初週比84倍に達し、Research・Analysisと Document・Asset Creation が主要ユースケースとなっている
詳細解説
Perplexity Computerとは
Perplexityは、2022年に検索エンジン「Search」、2025年に組み込みウェブエージェント機能を持つブラウザ「Comet」を順次リリースし、2026年2月に汎用エージェントオーケストレーター「Computer」を発表しました。Perplexity Computerのローカル版「Personal Computer」については以前の記事でも取り上げていますが、今回はクラウド版Computerの実世界データに基づく大規模分析です。
従来の検索AIは「意図と行動の間」に位置し、答えを返すまでが役割でした。一方、エージェントはユーザーが成果物を指定すると、ツール利用・中間処理・ファイル操作・サービス連携を自律的に実行して、最終成果物を返します。ユーザーの役割は「実行者」から「監督者」へと移行します。
自律性と品質——48倍の機械作業量
今回の研究では、初期クエリがほぼ同一の1万セッションペアを比較対象として分析しています。Perplexityによれば、Computerの平均機械実行時間は26分(中央値9分)で、Search(平均33秒、中央値14秒)の約48倍に相当します。18の職種ドメイン全体で同様の傾向が確認され、倍率は26〜75倍の範囲でした。
長時間の自律実行にもかかわらず、ユーザーが処理を強制停止する割合はComputerが3.7%、Searchが3.4%とほぼ同水準に留まりました。Computerはセッションの13%で「ユーザーへの確認待ち」を発生させており(Searchは0.3%)、承認や追加情報の取得が必要な場面でチェックポイントを設ける設計になっています。
外部サービス連携(MCPやAPIエンドポイント経由)においても差が明確で、Computerセッションの7.9%が少なくとも1件のコネクター呼び出しを実行し(Searchは1.8%)、1セッションあたりの平均コネクター呼び出し数は12倍に達しました。単に長く動くだけでなく、より多くのサービスを横断して作業を完遂している点が特徴だと言えます。
品質の面では、Computerの「次のターンでの不満シグナル(有意なもの)」が1.3%と、Searchの2.9%から55%低下しました。自律性と品質が両立した結果は、実務導入の議論において一定の根拠になり得ると考えられます。
87%の時間削減・94%のコスト削減
効率性の分析には、ツール呼び出しの種類に基づく推定、LLMによる推定、アクティブユーザー25名へのインタビューという3種類の独立した手法が用いられています。ツールベースの推定では、「Search+人間」のタスク平均所要時間が269分であるのに対し、「Computer+人間」では36分と、87%の時間削減が示されました。
コスト換算にはBLS(米国労働統計局)の2025年5月時点の職種別時間賃金が使用されており、モデルコストを加味した上で平均94%のコスト削減という結果になっています。18ドメイン全体で時間削減率は79〜92%、コスト削減率は87〜96%の範囲でした。最も削減幅が大きかったのはプログラミングで、596分(Search+人間)対48分(Computer+人間)という差が生じています。
LLMによる独立推定でも同方向の結果(時間84%削減、コスト93%削減)が出ており、ユーザーインタビューでは中央値25倍のスピードアップ(個人差は5〜300倍超)が報告されています。ただし、研究者自身も指摘するとおり、ツール処理時間の仮定や人間の監視時間の推定は近似値であり、具体的な数値は参考値として読む必要があります。
AIを管理する作業が新たな負担になるという指摘もある中で、今回の研究は監視コストを含めても大幅な効率化が生じることを示している点で注目に値すると思います。
仕事の「横」と「縦」への拡張
今回の研究でとくに興味深いのは、速度やコスト以上に「仕事の質的変化」を分析している点です。
横方向の拡張(職業領域の横断)として、8つの職種クラスターに分類された8,000ユーザーのデータを見ると、Computerユーザーが自分の主要職種以外のタスクを実行する割合は59%に対し、Searchでは50%でした。マネジメント・起業、デジタルテクノロジー、アート・デザイン、医療・福祉の各分野で増加が顕著で、Computerはより多様な専門領域の作業を代替していると言えます。
縦方向の拡張(認知的複雑性の向上)については、Bloomの改訂版タキソノミー(学習目標の認知レベルを6段階に分類した教育学的フレームワーク)で分析すると、Computer クエリの76%が高次認知を要するタスクに該当し(Search は55%)、中でも「Create」レベルのタスクは50% vs 26%と大きな差がありました。O*NET(米国労働省の職業情報ネットワーク)の知識領域数で見ると、Computerクエリは平均2.40領域の専門知識を必要とし(Searchは1.74領域)、3領域以上に跨る率は51% vs 17%と3倍近い差がありました。
また、同じユーザーのComputerクエリとSearchクエリを比較すると、Computerにのみ登場する作業カテゴリが全Computerクエリの23〜41%に確認されました。ソフトウェア・ウェブ開発、ドキュメント作成、データビジュアライゼーションなどが中心で、「Searchが説明し、Computerが生産する」という分業構造が浮かび上がっています。
留意点
研究者自身が述べているとおり、この分析にはいくつかの制約があります。まず、観察期間がリリースから3か月と短く、現時点のユーザーはAIネイティブ層に偏っている可能性があります。また、効率性の推定値はツール処理時間の仮定に依存しており、マグニチュードは近似値です。さらに、Perplexityエコシステム外の行動は観測されていません。
これらの点を踏まえると、「94%のコスト削減」という数値を直接的に自社業務へ適用するには慎重さが必要だと思います。一方、自律性の向上・タスクの質的変化・職域横断という傾向については、複数の手法で整合的な結果が出ており、方向性として参照する価値はあると考えられます。
まとめ
PerplexityとHarvardの共同研究は、AIエージェントが単に作業を「速くする」だけでなく、これまで手が出なかった領域や高次のタスクへのアクセスを広げることを実証データで示しています。Microsoft「仕事の未来2026」レポートでも類似の傾向が報告されており、エージェントが知識労働の構造を変えつつある流れは複数の調査で確認されています。エージェント活用を検討する際の一次資料として読む価値があると思います。
