はじめに
Googleが開発した野生動物識別AIモデル「SpeciesNet」がオープンソース化されてから、2026年3月でちょうど1年が経ちました。Googleは2026年3月6日、この1年間の活用実績と世界各地のパートナープロジェクトの成果を公式ブログで報告しています。本稿ではその内容を中心に、AIが生物多様性の保護にどのように貢献しているかを解説します。
参考記事
メイン記事:
- タイトル: Where wild things roam: Identifying wildlife with SpeciesNet
- 著者: Tanya Birch, Dan Morris
- 発行元: Google Research Blog
- 発行日: 2026年3月6日
- URL: https://research.google/blog/where-wild-things-roam-identifying-wildlife-with-speciesnet/
関連情報:
- タイトル: How our open-source AI model SpeciesNet is helping to promote wildlife conservation
- 著者: Tanya Birch, Dan Morris
- 発行元: Google Blog
- 発行日: 2026年3月6日
- URL: https://blog.google/company-news/outreach-and-initiatives/sustainability/speciesnet-open-source-ai-wildlife/
要点
- SpeciesNetは哺乳類・鳥類・爬虫類など約2,498カテゴリを自動識別できるAIモデルで、6,500万枚以上の画像で学習されている
- 動物が写る画像を99.4%の精度で検出し、そのうち83%を種別レベルまで分類、さらにその予測の94.5%が正確である
- 通常のノートPCで1日約3万枚、低価格帯のゲーミングGPUでは25万枚以上を処理できる処理能力を持つ
- アフリカ・南米・北米・オーストラリアの研究機関・政府機関・保護団体が活用し、哺乳類の行動変化や渡り鳥のパターン変化などの新たな知見が得られている
- オープンソースとして公開されており、各地域固有の種に合わせた独自学習が可能
詳細解説
SpeciesNetとは何か
SpeciesNetは、自動撮影カメラ(カメラトラップ)で撮影された画像から動物の種を自動識別するAIモデルです。カメラトラップとは、動物の動きに反応して自動撮影する赤外線センサー付きカメラで、人間が立ち入りにくい場所でも継続的に野生動物の記録ができるため、世界中の保全活動で広く使われています。
Googleによれば、SpeciesNetはもともと2019年より「Wildlife Insights」というクラウドプラットフォームに組み込まれていましたが、2025年3月にオープンソースとして公開されました。現在はGoogleの地理空間AIプロジェクト「Google Earth AI」の一部として位置づけられています。パートナー団体が提供した6,500万枚のラベル付き画像を学習データとして使用しており、哺乳類・鳥類・爬虫類を中心に2,498カテゴリを識別します。
モデルの性能と仕組み
SpeciesNetは畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を使用しており、照明条件や撮影角度、被写体との距離が異なる状況でも動物を種レベルまで識別できます。CNNは画像内のパターンを階層的に学習するディープラーニングの手法で、特に視覚認識タスクに強みを持ちます。
Googleの発表によれば、テスト用データセットでの評価では、動物が含まれる画像の99.4%を正確に検出しています。検出された画像のうち83%については種名まで特定でき、その予測精度は94.5%とされています。別のオープンソースモデル「MegaDetector」と組み合わせることで、画像内のどの領域に動物が写っているかを特定した上で種の識別を行う仕組みです。処理速度の面では、通常のノートPCで1日約3万枚、低価格帯のゲーミングGPUでは1日25万枚以上を処理できます。大規模プロジェクトにおける実用性は高いと考えられます。
世界各地のパートナープロジェクト
オープンソース化から1年で、世界各地の研究・保全活動への導入事例が報告されています。
アフリカでは、タンザニアのセレンゲティ国立公園で2010年から続く「Snapshot Serengeti」プロジェクトが活用しています。同プロジェクトはかつて市民科学者によるラベリングに頼っていましたが、画像数が増加するにつれて人手では対応できなくなっていました。ウェイク・フォレスト大学のTodd Michael Anderson氏はSpeciesNetを使い、約1,100万枚の蓄積画像をわずか数日で解析しています。ノートPCにインストールすることでフィールドでもリアルタイムに処理できる点も実用上の利点です。
南米コロンビアでは、フンボルト研究所が主導する国家規模のカメラトラップネットワーク「Red Otus」がSpeciesNetを活用しています。2024年のCOP16(生物多様性条約締約国会議)を機にスタートしたRed Otusは、2025年にはカメラ台数が446台に増加し、10万枚以上の画像を収集しました。解析の結果、一部の哺乳類が脅威を避けるためと見られる夜行性化の傾向や、都市部で鳥が朝に出現する時間帯が遅くなっている傾向が確認されています。気候変動や都市開発が野生動物の行動パターンに与える影響を定量的に把握できる点は、政策立案にも役立つ知見といえます。
北米では、アイダホ州魚類野生動物局(IDFG)が数百台のカメラトラップから収集した画像の一次スクリーニングにSpeciesNetを導入しています。最終的な確認は専門家が行いますが、種ごとに事前分類されることで審査にかかる時間が大幅に短縮されています。
オーストラリアでは、「Wildlife Observatory of Australia(WildObs)」がオープンソース版SpeciesNetをベースに、既存の2,498ラベルには含まれないオーストラリア固有種の識別に対応した独自モデルを構築しています。マスキーラットカンガルーやオレンジフットスクラブファウルなど、現地でのみ生息する種の監視に活用されており、学習データはWildlife Insightsのコミュニティを通じて広く共有されています。オープンソースモデルの強みは、このように地域の実情に応じたカスタマイズが可能な点にあると思います。
プラットフォームとしての広がり
SpeciesNet単体だけでなく、複数の外部プラットフォームへの統合も進んでいます。The Nature Conservancyのカメラトラップデータ管理プラットフォーム「Animl」、生態学者向けデスクトップツール「AddaxAI」のほか、アフリカ複数国で生物多様性モニタリングを行う企業「Okala」もSpeciesNetとGoogleの音声識別AIモデル「Perch」を組み合わせて活用しています。Wildlife Insightsプラットフォーム自体は現在約2億枚の人間確認済みラベル付き画像を蓄積しており、これが継続的な学習データの供給源になっています。
まとめ
SpeciesNetのオープンソース化から1年で、世界4大陸のプロジェクトで実績が積み上がりました。数千万枚規模のデータを短期間で処理できる能力は、従来の手作業による識別の限界を補うものです。引き続き地域コミュニティによる改良が続けられており、生物多様性保全におけるAI活用の一つの方向性を示す取り組みといえます。
