はじめに
Anthropicが2026年6月2日、AIサイバーセキュリティ計画「Project Glasswing」の参加組織を大幅に拡大すると発表しました。本稿では、今回の拡大の規模と対象、Anthropicが描く今後の方向性について解説します。
参考記事
- タイトル: Expanding Project Glasswing
- 著者: Anthropic
- 発行元: Anthropic
- 発行日: 2026年6月2日
- URL: https://www.anthropic.com/news/expanding-project-glasswing
関連記事



要点
- Project Glasswingの参加組織が新たに約150組織追加され、15カ国以上の重要インフラ企業・非営利団体・オープンソースソフトウェアのメンテナーが対象となった
- 新規参加組織の多くは電力・水道・医療・通信・ハードウェアなど、初期コホートでカバーできていなかった分野を担う
- Anthropicは、多くの組織が攻撃を受けた場合に1億人超に影響が及ぶと推定しており、参加には一定のセキュリティ要件を満たすことが求められる
- 支援の重心を「脆弱性の発見」から「開示・修正・パッチ適用」へと段階的に移行させる方針が示された
- Claude Mythos Preview相当のモデルは6〜12カ月以内に他社からもリリースされる見込みとされ、今のうちに防御側の態勢を整えることの重要性が強調されている
詳細解説
拡大の規模と対象組織
Anthropicの発表によれば、Project Glasswingに新たに約150組織が加わりました。4月初旬に約50組織でスタートした当初のコホートでは、参加組織がコードベースをスキャンし、すでに1万件超の高・重大レベルの脆弱性が発見されています(前回の初期アップデート)。
今回加わる組織は15カ国以上に拠点を持ち、電力・水道・医療・通信・ハードウェアといった、初期コホートでは手薄だった分野を多く含みます。また、多数の組織・政府に依存されるコードベースを管理するベンダー(企業・非営利団体)も含まれており、サプライチェーン全体への影響力が大きい組織が優先されていると読み取れます。
参加の前提条件として、Anthropicが定めるセキュリティ要件を満たすことが求められます。Anthropicによれば、大多数のパートナーについて「大規模な攻撃が1億人超に影響を与えうる」と推定しており、参加審査の基準としてインフラの社会的影響規模が重視されていると考えられます。
AIサイバー能力の拡散リスクと防御側の態勢
Anthropicは今回の発表の中で、Claude Mythos Previewが示すような高度なサイバー能力を持つモデルが、6〜12カ月以内に他のAI企業からもリリースされるとの見通しを示しています。問題は、他社がそのリリースにあたってMythos相当のセーフガードを設けるとは限らないという点です。
この状況認識のもとで、AnthropicはProject Glasswingを単なる自社サービスとしてではなく、「防御側がAI時代の現実に適応するための業界規範を醸成する場」として位置づけています。参加組織が実践した情報共有・トリアージ手法は、脆弱なまま放置されている何百万もの組織・開発者にも広まるべき、と述べています。
この視点は、2026年4月に公開されたClaude Mythosの初回リリースの時点からAnthropicが一貫して主張してきた立場と重なります。強力なサイバー能力を持つモデルをいかに「防御側にだけ有利に働かせるか」は、AIセキュリティ分野全体の課題だと思います。
脆弱性発見から修正・パッチ適用へ
Anthropicは支援の重点を、脆弱性の「発見」から先のフェーズ——開示・修正・パッチ済みソフトウェアの展開——へと段階的に移行させる方針を明示しました。現時点でも、Project Glasswingの多くのパートナーがMythos Previewを使ってパッチを書いたり、リリース前チェックに活用したりしているとのことです。
さらに、Anthropicは最新の公開フロンティアモデル(Claude Opus 4.8など)を使ってコードベースをスキャンし修正案を提示する製品「Claude Security」を最近リリースしたことも発表しました。加えて、信頼できるセキュリティチームにはパートナーが脆弱性発見に使ったツールも提供するとしています。オープンソースソフトウェアの脆弱性レビュー・パッチ作業の大規模化についても、第三者との協議が進んでいるとのことです。
一般公開に向けたロードマップ
今後の方向性として、Anthropicはより多くの組織がMythos水準の能力にアクセスできるよう取り組む姿勢を示しています。そのためには、悪用を防ぐ堅牢なセーフガードの開発が不可欠であり、「自社を含む既知のすべてのAI開発者がまだ開発できていない」と率直に認めています。
並行して、Project Glasswingをさらに拡大し、重要インフラプロバイダーや重要オープンソースソフトウェアのメンテナー、安全性テスターを優先的に加えていく計画です。また、特定のサイバー防衛タスクに限定した形でMythos水準の能力を付与する「Cyber Verification Program」の拡充も予定されています。
まとめ
Project Glasswingは発足からわずか2カ月で約200組織まで拡大し、Anthropicのサイバー防衛支援は脆弱性の発見から修正・展開まで射程を広げつつあります。攻撃側にも防御側にも作用しうるAI能力をいかに管理するかは、業界全体で問い続けなければならない課題だと思います。
