はじめに
Futura-Sciencesが2026年3月28日に報じた内容によれば、カリフォルニア州の高校生Matteo Pazが、AIを活用してNASAのアーカイブデータから150万個以上の未知の変光天体を特定しました。本稿では、この発見の経緯と使用した技術、そして成果が持つ意味について解説します。
参考記事
- タイトル: An unexpected breakthrough: a high school student’s AI uncovers 1.5 million previously invisible cosmic phenomena
- 著者: Futura Team、Pia Gray
- 発行元: Futura-Sciences
- 発行日: 2026年3月28日
- URL: https://www.futura-sciences.com/en/an-unexpected-breakthrough-a-high-school-students-ai-uncovers-1-5-million-previously-invisible-cosmic-phenomena_23177/
要点
- パサデナ高校在学中のMatteo Pazが、NASAのNEOWISE望遠鏡が収集した約2000億行の赤外線観測データを処理する機械学習パイプラインを6週間で構築した
- フーリエ変換とウェーブレット解析を組み合わせたアルゴリズムにより、クエーサー・連星・超新星などを示す150万個以上の変光天体カタログを作成した
- 成果は査読付き学術誌『The Astronomical Journal』に掲載され、2026年初頭にNASA幹部から公式に称賛を受けた
- カタログは2025年末に公開され、ベラ・C・ルービン天文台など主要施設での新たな観測にすでに活用されている
- 同アルゴリズムは天文学以外にも、金融・環境モニタリング・神経科学などの時系列データ分析への応用が見込まれている
詳細解説
プロジェクトの始まりと研究環境
Matteo Pazは2022年夏、パサデナ統一学区が数学に優れた生徒を対象に運営するMath Academyという公立プログラムで学んでいた高校生です。同年、カリフォルニア工科大学(Caltech)が主催するPlanet Finder Academyに参加し、同大学の赤外線処理・分析センター(IPAC)に所属するDavy Kirkpatrick博士の指導を受けることになりました。
研究の対象となったのは、NASAのNEOWISE望遠鏡が収集した約10年分の全天赤外線観測データです。NEOWISEは地球近傍小惑星の探索を目的として2009年に打ち上げられた衛星で、約2000億行に及ぶ膨大な観測記録を残しています。当初の研究チームは一部データを手動で分析する計画でしたが、Pazはより広範囲なアプローチを考案しました。
アルゴリズムの設計と技術的な仕組み
Pazが構築したのは、人間の目や従来のソフトウェアでは見逃してしまうほど微細・不規則な明るさの変化を検出する機械学習パイプラインです。このシステムの核となる手法がフーリエ変換とウェーブレット解析の組み合わせです。
フーリエ変換は信号をさまざまな周波数成分に分解する数学的手法で、ウェーブレット解析はその応用として、時間的に局所的な変動パターンを解析するのに適しています。これらの技術を活用することで、変化のタイミングや周期が不規則な天体——クエーサー(活動銀河核)、連星系、超新星など——が示す赤外線スペクトルのわずかな変動を捉えることが可能になりました。従来の自動化ソフトウェアは予測可能なパターンを持つ天体の検出には向いていますが、こうした不規則な変光天体は見落としやすいとされています。
システムの構築には6週間を要しました。指導教員のKirkpatrick博士はPhys.orgのインタビューで、「モデルはすぐに有望な結果を示し始め、Pazが調整を重ねるにつれ、成果はさらに良くなっていった」と述べています。
カタログの規模と研究チームの体制
Pazは単独でこのプロジェクトを完成させたわけではなく、Caltech研究者のShoubaneh Hemmati、Daniel Masters、Ashish Mahabal、Matthew Grahamの各氏と共同で研究を進めました。チームはシステムを改良して全天のデータを処理し、最終的に150万個以上の変光光源カタログを完成させました。
この成果は査読付き学術誌『The Astronomical Journal』に掲載されており、学術的な信頼性も確認されています。カタログは2025年末に公開され、すでにベラ・C・ルービン天文台をはじめとする主要施設での観測プログラムに活用されています。ルービン天文台は数十億個の天体を観測する大規模サーベイで知られており、このカタログが新たな観測ターゲットの選定に貢献していると考えられます。
NASAの評価と教育的背景
2026年初頭、NASA幹部はPazの成果を公式に称賛しました。この点が注目されるのは、宇宙機関が10代の学生による成果を正式に評価したという事実が、研究コミュニティにおけるAI活用の認識の変化を示していると思われるからです。
Pazの技術的な素養は、パサデナ統一学区が提供するMath Academyという公的プログラムで培われました。通常であれば大学院レベルとされる計算天体物理学の手法を、公立校の生徒が習得した背景には、体系的な教育支援があったことが分かります。
アルゴリズムの応用可能性
Pazが構築したアルゴリズムは、天体の輝度変化という特定の問題に留まらず、時間の経過とともに微細な変動を示す任意のデータに適用できる汎用性を持っています。記事では、金融市場の変動分析、環境モニタリング、神経科学における脳活動パターンの解析などへの応用可能性が挙げられています。宇宙観測に向けて最適化されたシステムが、地球上の複雑な現象の理解にも貢献できるという点は、興味深い視点だと思います。
まとめ
パサデナの高校生Matteo Pazは、NASAのNEOWISEデータから150万個以上の変光天体を発見し、査読論文の掲載とNASAからの公式評価を得ました。公立校の数学プログラムで培った技術が天文学の成果に結びついた今回の事例は、AIツールと公開データが組み合わさることで生まれる可能性の一例と言えます。カタログのさらなる活用や、アルゴリズムの他分野への展開が注目されます。
