はじめに
Axiosが2026年2月13日に報じた内容によれば、IBMが2026年にエントリーレベルの採用を3倍に増加させる計画を発表しました。AI技術の進展により新卒採用が減少するとの見方が強まる中、この動きは注目を集めています。本稿では、IBMの採用戦略とその背景について解説します。
参考記事
- タイトル: IBM plans to triple entry-level hiring this year because of AI
- 著者: Emily Peck
- 発行元: Axios
- 発行日: 2026年2月13日
- URL: https://www.axios.com/2026/02/13/ai-ibm-tech-jobs
要点
- IBMは2026年にエントリーレベルの採用を前年比3倍に増やす計画である
- エントリーレベルの仕事内容がAIによって変化し、コーディング中心からマーケティングや顧客対応、新製品開発へシフトしている
- 金融サービスCEOの60%がAI投資により雇用を維持または増加させると回答している
- 新卒採用はコスト効率が良く、AI技術に習熟した若手人材への需要は継続すると考えられる
詳細解説
IBMの採用計画の概要
Axiosによれば、IBMのニックル・ラモロー最高人事責任者(CHR)が、Charter主催の「Leading With AI Summit」において、今年のエントリーレベル採用を3倍に増やす計画を明らかにしました。この採用計画には、ソフトウェア開発者も含まれています。
IBMの定義する「エントリーレベル」には、新卒者だけでなく、職場復帰者やキャリアチェンジを目指す人々も含まれると説明されています。また、同社は上級職の採用も継続しているとのことです。
この発表は、AI技術によってエントリーレベルの雇用やソフトウェアエンジニアの需要が消滅するという、米国企業界で語られている物語に反するものです。
仕事内容の根本的な変化
ラモロー氏によれば、エントリーレベルの開発者の業務内容が大きく変化しています。従来、エントリーレベルの開発者は週34時間をコーディングに費やしていましたが、現在はマーケティング業務、顧客対応、既存製品の保守ではなく新製品開発といった業務にシフトしているとのことです。
ラモロー氏は「2〜3年前のエントリーレベルの仕事の多くは、AIができるようになりました。すべての仕事を書き直す必要があります」と述べています。これは、AI技術が定型的なタスクを代替する一方で、人間の役割がより創造的で戦略的な領域へシフトしていることを示していると考えられます。
この変化は、2025年にIBMのCEOであるアービンド・クリシュナ氏がAxiosのインタビューで述べた内容とも一致しています。業務の再定義は企業全体の戦略として進められていると思います。
エントリーレベル採用の経済的合理性
Axiosによれば、ラモロー氏はエントリーレベル採用の経済的合理性についても説明しています。企業がエントリーレベルの採用を見送った場合、競合他社から中堅社員を30%のプレミアム付きで引き抜く必要が生じる可能性があります。しかも、そうした人材は企業文化を理解しておらず、戦力化にもコストがかかるとのことです。
一般的に、人材採用においては、育成コストと即戦力性のトレードオフが存在します。IBMの戦略は、AI時代においてもエントリーレベル人材を育成する長期的価値が、短期的な即戦力採用のコストを上回るという判断を示していると言えます。
AI投資と雇用に関する調査結果
EYが今週発表した金融サービスCEO240人を対象とした調査では、60%がAI投資により雇用を維持または増加させると回答しました。一方、28%は人員削減を予想しています。
この結果は、AI技術の影響が企業や業界によって異なることを示唆していると考えられます。単純にAIが雇用を奪うという見方ではなく、業務の再定義や人材の再配置という複雑なプロセスが進行していると思います。
若手人材の優位性
Bloombergのジョー・コンスタンツ氏が指摘するように、技術変革の時代においては、若手労働者がより適応力が高いという見方があります。彼らはAI技術に対する習熟度が高く、新しいツールやワークフローを素早く取り入れる能力があると考えられます。
Axiosによれば、2023年に発表されたAIの職場への影響に関する初期研究では、AI技術が新入社員の迅速な訓練手段として機能し、離職率の低下にも寄与したという結果が示されています。この研究結果は、AIが人材育成のツールとして活用できる可能性を示していると思います。
現在の雇用市場の状況と企業の対応
Axiosによれば、キャリアをスタートさせる若者たちは厳しい雇用市場に直面しています。AIが原因として指摘されることが多いですが、一部のエコノミストは、高金利による景気減速やパンデミック期の過剰採用といった、より従来的な要因が影響していると主張しています。
IBMも2025年に約27万人の従業員のうち約1%を「ビジネス需要」により削減しています。企業の採用戦略が流動的であり、状況に応じて調整されていることが分かります。
実際、一部企業はAIによる人員削減方針を撤回しています。例えば、Fast Companyの報道によれば、ある企業がAIによる労働力代替の方針を見直したケースがあります。企業がAI時代の最適な人員構成を模索している過渡期にあると言えます。
まとめ
IBMのエントリーレベル採用3倍増という計画は、AI時代における人材戦略の一つの方向性を示しています。仕事内容の再定義、コスト効率、若手人材の適応力といった要素が、この決定の背景にあると考えられます。AI技術が雇用に与える影響は複雑であり、単純な代替関係ではなく、業務の変化と人材育成の在り方を再考する機会となっているのではないでしょうか。
