はじめに
Google DeepMindは2026年11月5日、動画生成モデル「Gemini Omni 1.2 Flash」の一般提供を始めました。主な変更点は、最長15秒の動画生成、会話形式での編集、料金の30%引き下げです。新機能の中身と、仕事で使う際の始め方・注意点を整理します。
参考記事
- タイトル: Gemini Omni 1.2 Flash: Fast and cost-effective with longer clips
- 著者: Anish Nangia
- 発行元: Google DeepMind
- 発行日: 2026年11月5日
- URL: https://deepmind.google/blog/gemini-omni-12-flash-fast-and-cost-effective-with-longer-clips/
要点
- 一般提供が始まり、最長15秒の動画生成に対応している
- 料金は1.1から30%下がり、720pで1秒0.07ドルである
- 同じクリップを会話で直すマルチターン編集に対応している
- 参照素材の細部や人物・商品の見た目を保つ一貫性が向上している
詳細解説
Gemini Omni 1.2 Flashの概要と提供範囲
Google DeepMindによると、Gemini Omni 1.2 Flashは、Gemini Omni 1.1の後継となる動画生成モデルです。最長15秒の動画をネイティブに生成でき、会話形式の編集と参照素材への追従性が強化されました。
提供先はGemini APIと、Google Cloud上の企業向けサービスであるGemini for businessです。Gemini Omniが一般提供(GA)になるのは今回が初めてです。Google Cloudの企業向けインフラとセキュリティの上で提供されます。
一般提供は、プレビュー段階を終え、本番利用を前提に提供される段階を指します。業務に組み込むかを判断するうえで、この段階の違いは大きいと言えます。
Provisioned Throughputにも対応し、生成物には人の目では分からないSynthIDの透かしが入ります。Provisioned Throughputは、一定の処理量を事前に確保して使うGoogle Cloudの仕組みです。SynthIDは、AI生成コンテンツを後から識別するためのGoogle DeepMindの電子透かし技術です。
利用先として示されたのは、Gemini API、Google Cloud、Google Vids、Flow、Geminiアプリ、Google Adsです。開発者だけでなく、Googleのアプリを使う一般の利用者にも順次展開されています。
料金と、コストを抑える制作の流れ
料金はGemini Omni 1.1から30%引き下げられ、720pの動画で1秒あたり0.07ドルです。単純計算すると、720pで15秒の動画1本は1.05ドルになります。逆算すると、1.1の料金は1秒あたり約0.10ドルだった計算です。
発表では、料金に加えて制作の進め方でもコストを抑えられるとしています。示された流れは次のとおりです。
- 360pまたは720pで素早く下書きを作る
- 細部の修正は、クリップ全体を作り直さず、追加の編集指示で行う
- 仕上がりの良いものだけを1080pや4Kにアップスケールする
アップスケールは、低い解像度の映像を高い解像度に引き上げる処理です。720p以外の解像度やアップスケールの料金は発表では示されていないため、利用前にGemini APIの料金ページで確認してください。
低解像度で試作し、採用案だけを仕上げる流れは、従来の映像制作でもよく使われる進め方です。修正のたびに丸ごと再生成しなくてよい点は、試行回数の多い広告制作でコスト差として表れやすいとみられます。
最長15秒の動画と1秒単位の長さ指定
動画の長さは、Omni 1.1の最長10秒から最長15秒に延びました。生成だけでなく、編集も15秒までネイティブに扱えます。長さは3秒から15秒まで、1秒刻みで指定できます。
Googleは用途として、ひとまとまりの物語、商品の説明動画、SNS広告1本分を、1回の生成で作る使い方を挙げています。
ネイティブ対応とは、短い動画をつなぎ合わせるのではなく、モデルが1回で15秒を出力するという意味です。SNSの動画広告では15秒前後の尺がよく使われるため、1回で1本分を作れる点は実務に直結しやすいとみられます。
参照素材への忠実さと一貫性の向上
生成時には、次の参照素材を組み合わせて指示できます。
- 人物・商品・スタイルの画像
- 3秒までの短い動きのクリップ
- 音声の手がかり
Omni 1.2 Flashは、こうした参照の細部を最初から最後まで保ちます。顔、衣服、パッケージの文字、ブランドカラーは、カメラの角度が変わっても崩れにくくなりました。既存の商品写真やキャラクター設定画から、次のような動画を作りやすくなります。
- バーチャル試着の動画
- カタログ用の商品回転動画
- ブランドの動画広告
作例では、モデルの写真1枚と、3着分の服の前後の商品写真から、15秒の試着動画を生成しています。360度の回転やマッチカット(形や動きをそろえて場面をつなぐ編集)を挟んでも、モデルの顔立ちは変わりません。服の形、生地の落ち感、背面のデザインもそれぞれ保たれています。
一貫性の面では、最初から最後のフレームまで、人物・物体・場面の見た目がぶれにくくなりました。動きやカメラの切り替えで形が崩れたり、別物に変わったりする現象(モーフィング)も減っています。
この一貫性は、最初と最後のキーフレーム(基準として指定するコマ)の間を補完する場合にも効きます。クリップを延長して長いシーンを作る場合も、商品や人物、小道具、背景はショット間で保たれます。
別の作例では、同じポスター画像と5層構成のアニメーション指示を、1.1と1.2に与えて比べています。1.1は1.2ほど参照画像に近くなりません。1.2はくすんだピンクの背景と六角形の台座の上に、ポスターを1層ずつ組み上げます。ガラスや結晶などの素材、影、「HALO」「GLOW」「LUMEN」の文字の細部も、最後のフレームまで保たれています。
動画生成AIでは、ショットが変わると顔や商品の細部が変わってしまう問題がよく指摘されてきました。ブランドの色や文字が保たれるかどうかは、広告やECで使えるかを左右する点と言えます。
会話で直せるマルチターン編集
マルチターン編集は、同じクリップに会話のように指示を重ね、少しずつ直していく機能です。挙げられている修正例は次のとおりです。
- 商品や背景の差し替え
- 照明や天候の変更
- アスペクト比(縦横比)の切り替え
この編集は、15秒のクリップ全体に対して使えます。対象者や掲載面ごとに広告の派生版を作る際も、指示を一から書き直したり、再生成したりする必要がありません。
作例では、1本の生成クリップの背景を、会話のターンごとに差し替えています。縞模様のテントから、森、白馬のいる厩舎、市場、石造りの城へと順に切り替わります。2人の登場人物の演技、鎧の映り込み、カメラの構図はそのまま保たれています。
横長の動画を縦型に変えるといった作業は、SNSごとに素材を用意する現場で頻繁に発生します。1本の元動画から会話で派生版を作れる点は、少人数で運用する事業者の手間を減らす方向に働くとみられます。
音声・リップシンクとカメラワークの改善
音声面では、会話がより自然に聞こえるようになり、口の動きと音声の同期(リップシンク)も明確になりました。複数の話者をそれぞれ区別して指定する生成にも対応しています。
この改善は、次のような場面で効いてきます。
- Flowでの、複数キャラクターによる会話の演出
- Gemini for businessでの解説動画づくり
- Google Vidsでの、アバター・音楽・ナレーション付き動画の制作
作例では、温室の場面画像1枚に、4人分のキャラクター・口元・1秒の声の参照を与えています。Omni 1.2 Flashは各声を正しいキャラクターに割り当て、15秒のアニメーションを生成しています。口の動きは表情豊かで、笑いの間合いも自然です。
カメラワークでは、複雑で連続した動きを指示できるようになりました。FPV(ドローン目線の一人称視点)での飛行、劇的なズームアウト、被写体を回り込む動きなどです。意図しない場面の飛び(ジャンプカット)が大きく減り、被写体の大きさも安定しました。
作例では、建築物の参考写真2枚をもとに、1本の連続したドローン飛行の映像を作っています。広場から青銅の扉を抜け、パンテオンの格天井のドームを上って天窓まで、切れ目なく進みます。
長尺で示されたそのほかの作例
Omni 1.2 Flashは、15秒までのクリップで参照を以前より安定して保ちます。長いショットや複数ターン、場面転換でも、人物・文字・カメラの動きが切れ目なく保たれる例として、次の作例が示されています。
- 15秒の長尺: 1枚のスタイル画から、4ショット・15秒のマクロ撮影風の科学解説動画を生成する。動きに追従する注釈の文字も正しい綴りで表示される
- マルチターンでの動きの転写: 1ターン目で波打つタコを生成し、2ターン目でダンサーに置き換える。ダンサーのドレスは、タコと同じ流れるような動きをなぞる
- 最初と最後のフレームの一貫性(1.1と1.2の比較): ラーメン店の外観の開始フレームと店内の終了フレームを、1回の連続したカメラの前進でつなぐ。屋根の上の猫や、スープ用のお玉が箸に変わる点など、細かな違いが見られる
- 途切れないクラッシュズームアウト: 海岸のクローズアップから島の空撮まで、10秒の1ショットで一気に引く。縮尺の変化は自然で、カットは入らない
クラッシュズームは、急激にズームする映像表現です。また、注釈の文字が正しく出る点は、テロップを入れた解説動画を作る際に重要です。画像・動画生成AIは文字の描写を苦手としてきた経緯があり、この改善は実用面で意味があると言えます。
企業での活用例
企業やスタートアップ、クリエイターは、すでにOmni 1.2 Flashを業務に取り入れています。各社のコメントの要点は次のとおりです。
- Adobe: Adobe FireflyでGemini Omni Flashがすでに使われており、長い出力と参照画像との一貫性のために1.2を追加する
- PORTO ROCHA: Omniで想像を探索できる世界に変えられるとし、ブラジルのブランドHavaianasが持つ楽しさとの相性を挙げている
- Monks: 早期テスターとして利用している。画像入力で制御する動画から動画への編集が、映像素材の微調整に役立っている
- Whering: バーチャル試着で、服の落ち感、正確な色の再現、複雑な着こなしでの安定性が期待を上回った。遅延も小さいとしている
- Figma Weave: プロンプトへの忠実さと、複数ショットでの一貫性を評価している。1回の生成で一連の映像を演出し、キャンバス上で参照や分岐版を使って調整できる
- STAN: 静止画の参照から、縦型・15秒のイベント告知やコマース広告を1つのプロンプトで作成した。音声付きで、ブランドの統一感も保てたとしている
- Magnific: 生成と編集が一体になり、Magnificの中で仕上げまで進められる。Google Cloudでの一般提供により、必要な安定性とサポートを得て規模を広げられる
- Resemble AI: 試したすべての言語で人物が一貫し、音声も自然だったと評価している。ディープフェイク検出を手がける立場から、来歴情報の組み込みを歓迎している
これらは各社が自社の利用について述べた評価です。同じ品質がすべての用途で得られるとは限らないため、自社の素材で試してから判断するのが良さそうです。
業種は広告、EC、デザインツール、検出技術と幅広く、なかでも試着や商品広告の例が目立ちます。参照画像を保つ性能が、評価の中心になっていることが読み取れます。
使い始め方
Omni 1.2 Flashは、Googleの各製品と開発者向け基盤に順次展開されています。立場ごとの始め方は次のとおりです。
- Gemini APIを使う開発者: Google AI Studioで試作でき、対話型のスターターアプリも用意されている。開発者向けドキュメントと料金ページも公開されている
- 企業: Google Cloudコンソールで試し、APIを使って企業向けのソリューションを構築できる
- Googleアプリの利用者:
- Flow: 場面の演出とマルチターン編集ができる
- Google Vids: GoogleアカウントまたはGoogle Workspaceの契約で、15秒のクリップを追加費用なしで生成できる
- Geminiアプリ: 15秒の動画を作成できる。Google AI Ultraの契約者に順次提供される
- Google Ads: 動画キャンペーンの規模拡大に使える
APIの呼び出し方やパラメータは発表に含まれていないため、実装時は開発者向けドキュメントで最新の仕様を確認してください。各サービスへのリンクは元記事にまとまっています。
日本での提供時期や、日本語の音声・リップシンクの品質は公表されていません。Geminiアプリは段階的な提供のため、手元の環境で使えるかを先に確かめておくと安心です。Google Workspaceを使っている事業者なら、追加費用のかからないGoogle Vidsが手軽な入口になりそうです。
注意点と現時点の制約
Googleは、速いスポーツの動き、台本の素早い切り替え、複雑な物理現象などを引き続き改善中としています。こうした場面を多く含む動画では、思いどおりの結果にならない場合もあると見込んでおくのが現実的です。
業務で使う際は、次の点も押さえておくと判断しやすくなります。
- 公表されている料金は720pの1秒0.07ドルで、ほかの解像度やアップスケールの料金は料金ページで確認する
- 生成物にはSynthIDの透かしが入るが、広告などでのAI生成の表示ルールは掲載先の規約を別途確認する
- 人物の顔や商品写真を参照に使う場合は、肖像権や素材の利用権を事前に確認する
まとめ
Gemini Omni 1.2 Flashは、15秒の生成、会話での編集、参照素材の一貫性、30%の値下げをそろえて一般提供されました。下書きを安く作り、会話で直し、良いものだけを仕上げる流れを1つのモデルで回せます。商品写真から広告や試着動画を作る用途とは相性が良く、まずはGoogle VidsやAI Studioで自社素材を試すのが良さそうです。
