はじめに
OpenAIは2026年11月2日、日常生活の実用的なタスクでAIの性能を測る評価「LifeVal」を発表しました。保育や行政手続き、買い物など、多くの人が手助けを求める作業が対象です。ここでは、評価の作り方と公開されたタスク例、ChatGPTが目指す方向性を解説します。
参考記事
- タイトル: LifeVal
- 発行元: OpenAI
- 発行日: 2026年11月2日
- URL: https://openai.com/index/lifeval
要点
- OpenAIが、日常タスクでAIを測る評価「LifeVal」を発表した。
- タスクは、生活時間調査と3,995人への調査をもとに選ばれている。
- 公開された5つのタスク例のスコアは、90.4%〜100%である。
- 背景には、過去1年のブラウザ操作・コンピューター操作・コネクターの強化がある。
詳細解説
LifeValの概要:生活の困りごとでAIを測る評価
OpenAIによると、ChatGPTは毎週10億人以上に使われています。同社はこうした利用者に向けて、日常生活の実用的な課題を手伝えるAIを目指しています。例として挙げられているのは、次のような作業です。
- 保育先(チャイルドケア)を探す
- 行政サービスを利用する
- 家計の予算を立てる
- 子どもの学校の準備をする
- レシピを調整する
- 食料品を注文する
- 運動プランを作る
OpenAIは、生活を楽にしたい人に必要なのは助言やチャットの返答だけではないと述べています。本当に役立つパーソナルアシスタントには、実際に物事を片付ける行動が求められるという考え方です。
LifeValは、利用者がAIやパーソナルエージェントに最も助けを求める分野のタスクを集めた評価です。OpenAIは過去1年間、この評価で日常タスクの性能を追跡し、改善の指標として使ってきました。
評価(eval)は、AIモデルの能力を同じ条件で測るための課題セットです。従来よく使われてきた評価は、知識や推論を問う学術的な問題が中心でした。LifeValは、測る対象を生活上の作業そのものに置いた点が特徴です。
タスクの選び方:生活時間調査と3,995人への調査
OpenAIはまず、人々の時間の使い方を追跡する2つの大規模調査を出発点にしました。
- American Time Use Survey:米国労働統計局(BLS)が実施する米国の生活時間調査
- Multinational Time Use Study:複数の国の生活時間調査をまとめた国際的なデータ
この2つを合わせると、属性・時間帯・季節ごとに、人々が行う日常タスクを細かく一覧できます。そのうえでOpenAIは、人口構成を反映した3,995人への新たな調査を実施しました。タスクごとに複数の質問を行い、アシスタントの手助けを最も望む分野を特定しています。
こうして選ばれたタスクは、次の分野にまたがります。
- ケア(育児や介護)
- 健康
- 教育
- 家庭の事務手続き
- 個人の家計
- 買い物
- 行政サービスの利用
生活時間調査は、人が実際に何に時間を使っているかを記録するデータです。AIに何ができるかではなく、人が何をしているかから出発した点が、この評価の土台になっています。意向調査を重ねたことで、頻度だけでなく手助けへのニーズも反映されたとみられます。
公開された5つのタスク例とスコア
OpenAIは、現行モデルが日常のワークフローをどうこなすかを示す例を5つ公開しています。各例には、利用者の依頼、AIの応答、スコアが添えられています。各タスクの依頼文と応答の原文は、元記事で確認できます。
引っ越し後に合う幼稚園へ入園する(93.1%)
- 依頼: 新居の近くの幼稚園を比較し、合いそうな候補を絞り込む
- 応答: 候補を3園に絞り、入園の詳細を整理した。2つの希望条件は利用者の判断が必要なため、候補一覧の確認を提案した
- スコア: 93.1%
候補を絞り込みつつ、好みに関わる判断は利用者に戻している点が特徴です。
洪水に備えてボランティアを取りまとめる(98.0%)
- 依頼: 浸水対策の支援が必要な近所の4軒に向けて、地域の洪水対策ボランティアを組織したい
- 応答: ボランティアが現場を確認し、悪天候に備えられるよう、簡単な行動計画を用意した
- スコア: 98.0%
個人の用事だけでなく、地域活動の段取りも評価の対象に含まれています。
家族の新しい住まいを探す(100%)
- 依頼: 米ペンシルベニア州のルザーン郡(Luzerne County)で家を探す。条件は、予算内であること、独立した居住スペースがあること、子どもを学校に送った後の通勤が短いことの3点。権利証書(deed)を確認用にカートへ入れる
- 応答: 条件を満たす家を1件見つけた。不動産の譲渡税を計算し、権利証書を記録のカートに追加した
- スコア: 100%
この例は、検索や比較に加えて、カートへの追加という操作まで含みます。最終的な確認は、利用者が行う形になっています。
離れて暮らす祖母と一緒に試合を観る(96.3%)
- 依頼: 祖母と自分が離れた場所から一緒に試合を観られる、簡単な方法を用意したい
- 応答: 最も簡単な視聴手段を準備し、配信が止まったときの予備手段も用意した。祖母と一緒に手順を確認することも提案した
- スコア: 96.3%
視聴手段の準備に加えて、相手を含めた手順の説明まで申し出ている例です。
糖尿病と診断された親の食事を準備する(90.4%)
- 依頼: 糖尿病と診断されたばかりの親が生活に慣れるよう、実用的なケアと食事の計画を作りたい
- 応答: 食事、リマインダー、医療チームへの質問を含む最初の1週間の計画を用意した。親に共有する前に、一緒に見直すことを提案した
- スコア: 90.4%
5つの例の中では、このタスクのスコアが最も低くなっています。健康に関わる内容のため、応答も医療チームへの確認を組み込んだ構成です。
OpenAIは、最新モデルが多くのLifeValタスクで非常に高いスコアを出していると述べています。ただし、スコアの算出方法や対象モデルの名称は、今回の発表では示されていません。数値は、OpenAI自身の評価における到達度の目安として受け止めるのが良さそうです。
能力の土台:ブラウザ操作・コンピューター操作・コネクター
OpenAIによると、同社は過去1年間、次の3種類のタスクでモデルを訓練してきました。より速く、より高性能に、人の意図により沿うようにすることが狙いです。
- ブラウザ操作(browser use)
- コンピューター操作(computer use)
- コネクター(connectors)
ChatGPTでこれらの能力を使えるようにすると、モデルが手伝えるタスクの種類も広がります。OpenAIはこれを、ChatGPTをチャットツールから、エージェント型のパーソナルアシスタントへ進める動きと位置づけています。
ブラウザ操作は、AIがウェブページを開き、閲覧や入力を行う機能です。コンピューター操作は、AIが画面を読み取り、クリックや入力を行う機能です。コネクターは、外部のサービスやデータとChatGPTをつなぐ仕組みです。住まい探しの例でカートへの追加まで進んでいるのは、こうした操作能力の表れと言えます。
OpenAIがこの評価を作った理由
OpenAIは、AGI(汎用人工知能)が全人類に恩恵をもたらすことを使命に掲げています。そのためには、普通の人々の生活で大切なことについて、モデルの進歩を測り、改善する必要があると述べています。
具体的には、知識を問う学術的な評価を超えて、次の点を測ることを目指しています。
- 人が意思決定を進めるのを、AIがどれだけ助けられるか
- 日々の用事や責任をどれだけ管理できるか
- 意味のあることを、実際にどれだけ成し遂げられるか
OpenAIは、LifeValがこの目標に向けた一歩になることを期待しているとしています。
学術的なベンチマークは正解が明確で比較しやすい一方、生活上の作業とは距離があります。LifeValは、利用者が体感する役立ち度に近い指標を作る試みとみられます。
利用者にとって何が変わるか・使うときの注意点
今回の発表からは、ChatGPTが答える道具から、用事を進める道具へ向かっていることが読み取れます。日常の手続きや段取りを、条件を伝えて任せる使い方が今後広がりそうです。
公開されたタスク例からは、依頼の出し方と任せ方のヒントを次のように整理できます。
- 条件を具体的に伝える:住まい探しの例では、予算・独立した居住スペース・学校への送迎後の通勤時間を一度に指定している
- 最終判断は自分で行う:幼稚園の例では、好みに関わる2点の判断を利用者に戻している
- 実行前に内容を見直す:権利証書はカートへの追加にとどめ、確認は利用者が行う形になっている
- 予備の手段も用意してもらう:観戦の例では、配信が止まった場合の代替手段も含めている
- 健康に関わる内容は専門家と確認する:糖尿病の例では、医療チームへの質問を計画に含めている
一方で、次の点には注意が必要です。
- スコアは、OpenAIが自ら実施した評価の結果である
- タスク例は、米国の生活時間調査や米国の郡での住まい探しなど、米国の生活を前提にしたものが多い
- 日本の制度や手続きでの性能は公表されていない
- LifeValを外部の開発者や利用者が使えるかどうかも公表されていない
利用できる機能はプランや地域で異なる場合があるため、使う前にChatGPTのヘルプで最新の提供状況を確認してください。
まとめ
LifeValは、生活時間調査と3,995人への調査をもとに、日常タスクでAIを測る評価です。公開された5例では、すべて90%以上のスコアが並びました。一方、算出方法や日本での性能は示されていません。まずは身近な用事で条件を具体的に伝え、最終判断は自分で行う使い方から試すのが良さそうです。
