[レポート解説]AIへの期待と不安、5万人調査が示すアメリカ人の本音——Anthropicが新調査シリーズを開始

目次

はじめに

 Anthropicは2026年6月12日、新たな調査シリーズ「Anthropic Public Record」の第1回結果を公開しました。2025年11月から12月にかけて、アメリカ国民約52,000人を対象に、AIに対する期待や不安、政府の関与への意見などを尋ねたものです。本稿では、この調査結果をもとに、AIに対する社会の受け止め方の現状について解説します。

参考記事

関連記事

あわせて読みたい
[レポート解説]Anthropicの調査報告——AIが1,250人にインタビューして見えた職場のAI活用実態 はじめに  Anthropicが2025年12月5日、AIを活用した大規模インタビューツール「Anthropic Interviewer」を発表しました。このツールを使用して1,250人の専門職を対象に...
あわせて読みたい
[ニュース解説]AIは私たちの仕事を奪うのか?最新世論調査が示すアメリカ国民のリアルな懸念 はじめに  近年、人工知能(AI)技術は目覚ましい発展を遂げ、私たちの生活や仕事に急速に浸透しつつあります。その一方で、AIが社会に与える影響については、期待だけ...
あわせて読みたい
[ニュース解説]Anthropic Instituteが研究アジェンダを公開——経済・脅威・社会・AI開発の4領域と具体... はじめに  Anthropicは2026年5月7日、The Anthropic Institute(TAI)が取り組む研究アジェンダを公式サイトで公開しました。2026年3月に設立されたTAIは今回、経済的...

要点

  • Anthropicは「Anthropic Public Record」という新たな調査シリーズを開始し、第1回はYouGovを通じて52州・地域から約52,000人を対象に実施された
  • アメリカ人が最も期待するAIの用途は「がんやアルツハイマー病などの病気の治療」(48%)であり、「障がいのある人々への支援」(36%)が続く
  • 最も多い懸念は「AIによる失業」(64%)で、「認知的依存」(56%)、「誤情報の拡散」(52%)がそれに続く
  • 71%のアメリカ人が政府によるAI規制への関与を支持しており、特にプライバシーと子供の安全の分野で強い支持が見られる
  • AI企業を信頼すると答えた人はわずか15%にとどまり、調査対象となった機関の中で最も低い数値であった

詳細解説

調査の概要と位置づけ

 Anthropicによれば、今回の調査はYouGovのオンラインパネルを通じて2025年11月1日から12月11日にかけて実施され、米国の50州、コロンビア特区、プエルトリコに住む16歳以上のインターネット人口を対象としたオンライン調査として設計されました。サンプル数は州ごとに約1,000件を目標とし、最終的な回答数は51,993件、州別のサンプルサイズはアラスカ州の232件からニューヨーク州の1,902件まで分布しています。

 Anthropicはこれまでも、Claudeの利用データをもとにした「Anthropic Economic Index」や、8万人規模のClaudeユーザーに対する大規模インタビュー調査「Anthropic Interviewer」など、AIの社会への影響を理解するための調査活動を続けてきました。今回の調査について、Anthropicは「一般市民への調査は今回が初めてであり、AIを利用していない人々にもアプローチし、属性ごとの意識の違いをより深く理解できるようになった」と述べています。AI開発企業に対するこうした視点の取り入れ方は、技術開発の方向性が一部の企業だけで決まるべきではないという考え方の一環として、社会的にも意味のある取り組みだと思います。

アメリカ人がAIに期待すること

 Anthropicによれば、17項目のリストから「AIへの期待」の上位3つを選んでもらったところ、「病気の治療」が48%でトップとなり、2位の「障がいのある人々への支援」(36%)を12ポイント上回りました。一方で、セラピーや孤独の解消といった、AIが人間同士のつながりを代替するような項目への期待は、提示された選択肢の中で最も低い順位にとどまりました。

 この結果からは、AIに対する期待が「人間の代替」ではなく「人間の能力を拡張する手段」として向けられている傾向が読み取れます。医療分野での活用への期待が高い背景には、新薬開発や診断支援などでAIの活用が進んでいるという報道が増えていることも影響していると考えられます。

アメリカ人が懸念すること——失業と認知的依存

 Anthropicによれば、20項目の懸念リストのうち、失業への懸念が64%と最も多く、次いで「AIへの統合が進むことで自分で考える力が失われる」とする認知的依存への懸念が56%、誤情報の拡散への懸念が52%でした。さらに、これらの懸念は8万人規模のClaudeユーザー調査においても上位の懸念事項として確認されています。

 興味深いのは、これらの懸念の多くが新しい技術に特有のものではないという点です。Anthropicは「失業・誤情報・依存といった懸念は、いずれもAI以前の技術にも前例があり、例えば自動化による失業、スマートフォンによる依存、ソーシャルメディアによる誤情報の拡散などが挙げられる」と説明しています。また、全体として、アメリカ人はAIの「誤用」をAIの「暴走」よりも強く懸念する傾向があり、犯罪利用や監視、テロといった項目がAIが「制御不能になる」といった懸念よりも頻繁に挙げられました。

 失業への懸念については、教育水準が高い層ほど強いという傾向も示されています。Anthropicによれば、大学院卒の回答者は、高校卒以下の回答者よりも失業への懸念が約10ポイント高く、これは現在のAIが担うとされる作業と、より重なりが大きい職種で働く人々ほど懸念が強いことを示しているとのことです。一方で、職場でAIを毎日利用している人は、まったく利用していない人と比べて失業への懸念が明確に低く、それぞれ54%と70%でした。

 この差については、Anthropicは「AIを実際に使う経験を通じて、自動化されるのではなく業務を補強するためのスキルや慣れが身につき、失業がそれほど切迫した脅威に見えなくなる可能性がある。あるいは、実際に使ってみることでAIの限界が見えてくることもあるだろう」と複数の要因を挙げています。実際に触れてみることで漠然とした不安が和らぐというのは、AI研修や導入支援の現場でもよく見られる反応であり、納得感のある説明だと思います。

認知的依存は「まだ起きていない懸念」

 認知的依存については、調査では実際の依存度合いとの関係も調べられています。Anthropicによれば、依存を懸念する56%のうち、AIが使えなくなった場合に大きな支障が出ると答えたのは約5分の1にとどまった一方で、依存を懸念していない44%のうちでは、約3分の1がより高い割合で支障を感じると答えました。つまり、依存への懸念は現時点では「将来への予期的な不安」としての側面が強いことが示唆されています。

 この点について、Anthropicが実施した別の調査では、教育関係者は平均よりも2.5倍から3倍高い割合で、生徒における認知的な能力低下を実際に目撃したと報告しており、Anthropic Public Recordにおいても教育関係者は、アート・デザイン分野の従事者に次いで依存への懸念が強い職業群となっています。教育現場での実感が調査結果として裏付けられている点は、今後の議論において注目すべき材料になると思います。

AI規制に対する姿勢——政党を超えた支持

 政府によるAI規制への関与については、Anthropicによれば71%のアメリカ人が政府の関与を支持しており、民主党支持者では79%、共和党支持者では68%、無党派層では69%と、超党派的な多数派による支持となっています。また、調査対象となったすべての州・地域で過半数が政府の関与を支持しており、最も高い支持を示したのはコロンビア特区の81%、最も低かったのはハワイ州の63%でした。

 具体的な政策分野については、Anthropicによれば8つの分野のうち、プライバシーと子供の安全の2分野のみが「最小限を超える役割」について過半数の支持を得ました。一方で、安全保障の分野は、民主党支持者と共和党支持者の間の意見の差が他のどの分野よりも小さく、わずか3ポイントの差にとどまりました。AI政策においては、立場の異なる人々の間でも一致点を見出しやすい領域が存在することを示すデータだと考えられます。

 AI企業に対する姿勢としては、Anthropicによれば「AIに人類の利益となる発展を確実にするために何が必要か」という問いに対し、AI企業に損害の法的責任を負わせること(47%)と、成長よりも安全性を優先すること(44%)の2つが上位の回答となりました。

 また、AI企業への信頼度は全体として低く、AnthropicによればAI企業を信頼すると答えたのはわずか15%で、これは調査対象となったすべての機関の中で最も低い数値であり、連邦政府(20%)、州・地方政府(19%)、国際機関(20%)よりも低く、独立専門家への信頼(43%)と比べると大きな差があります。

 この信頼度の低さは、AI開発企業にとって重要な課題を示していると考えられます。Anthropicが今回のような調査結果を公開し、自社の取り組みについても外部からの検証を可能にしようとする姿勢自体が、こうした信頼のギャップに向き合う取り組みの一つだと思います。

統合的なAI利用者の傾向

 調査では、仕事と私生活の両方で毎日AIを利用する「統合的利用者」についても分析されています。Anthropicによれば、2025年後半の時点で、アメリカ人の約6%がこうした統合的利用者にあたり、この層は若年層・男性・都市部居住者・就業者・大卒者の割合が高く、新しい技術を他者より早く試す、あるいは可能性を感じたら早期に採用すると答えた割合は、一般の人々の30%に対して約3分の2に達しました。

 一方で、規制に対する姿勢については大きな違いは見られず、Anthropicによれば統合的利用者は、AI企業を含むすべての機関への信頼度が高く、AI開発を遅らせるべきという考えには消極的でした。しかし、政府のAI関与についてはほぼ全国平均と同じ水準(74%対71%)で支持しており、8つの政策分野における意見も、一般の人々とほとんど変わりませんでした。AIを使いこなしている層であっても、ガバナンスの必要性自体については一般の認識と大きく異なるわけではないという点は、今後の政策議論を考える上でも参考になるのではないかと思います。

まとめ

 今回のAnthropic Public Recordの結果は、アメリカ人がAIに対して「期待」と「不安」を同時に抱きながら、企業や政府にどのような対応を求めているかを示しています。特に、AI企業への信頼度が低い一方で、規制への支持は政党を超えて広がっている点は注目に値すると思います。職場でのAI活用実態については、Anthropicが実施した1,250人規模のインタビュー調査でも詳しく取り上げていますので、あわせてご覧いただければと思います。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次