[レポート解説]公共部門のAI活用、日本は「慎重な採用者」に分類——グローバル調査で明らかになった各国の格差

目次

はじめに

 2026年2月に発表された「Public Sector AI Adoption Index 2026」によると、公共部門におけるAI活用は国によって大きな差があることが明らかになりました。本稿では、10カ国の公務員3,335人を対象とした調査結果をもとに、各国の公共部門におけるAI導入状況と、日本を含む各国が直面している課題について解説します。

参考記事

要点

  • 10カ国の公務員3,335人を対象とした調査により、公共部門におけるAI活用の実態が5つの指標(熱意、教育、有効化、権限付与、組み込み)で評価された
  • シンガポール、サウジアラビア、インドが「先進的採用者」として最上位に位置し、強力なリーダーシップとAIの日常的活用を実現している
  • フランスが最下位となり、公務員の45%がAIを業務で一度も使用したことがない状態であることが明らかになった
  • 日本はドイツ、フランスとともに「慎重な採用者」に分類され、AI活用が専門プロジェクトに限定され日常業務への浸透が進んでいない
  • 世界全体では公務員の74%がAIを使用しているが、政府が効果的にAIを活用していると考える公務員はわずか18%にとどまる

詳細解説

調査の概要と目的

 Public FirstがCenter for Data Innovationのために実施した本調査は、Googleのスポンサーシップを受けて行われました。調査対象は英国、ドイツ、フランス、米国、日本、ブラジル、南アフリカ、インド、シンガポール、サウジアラビアの10カ国で、各国の公務員3,335人から回答を得ています。

 この調査の主な目的は、政府のAI戦略と実際の現場での活用状況の間にあるギャップを明らかにすることです。多くの政府が野心的なAI戦略を掲げていますが、それが実際の公共サービスの改善につながっているかどうかは別問題であると、調査チームは指摘しています。

5つの評価指標

 調査では、公共部門におけるAI活用の実態を以下の5つの指標で評価しています。

 熱意(Enthusiasm)は、公務員がAIに対してどの程度肯定的な感情を持っているか、AIが役立つと感じているか、AIによって仕事が向上していると感じているかを測定します。この指標は、AI導入の初期段階において特に重要と考えられます。なぜなら、熱意の高い職場では86%の公務員がAI使用の増加を報告している一方、熱意の低い職場ではわずか27%にとどまるためです。

 教育(Education)は、公務員がAIトレーニングにアクセスできるか、自分自身のAI使用能力に自信を持っているか、スキルギャップやガイダンスの欠如が障壁として報告されているかを調査します。

 有効化(Enablement)は、公務員が承認されたAIツール、技術サポート、組織的投資にアクセスできるかを評価します。個人アカウントや非公式のシステム(シャドーAI)ではなく、職場のツールを使用しているかどうかも重要な評価項目です。

 権限付与(Empowerment)は、ルールの明確性、リーダーシップの方向性、公務員がAI使用が許可され適切であると感じているかを評価します。権限付与が高い職場では91%の公務員がAI使用に自信を持っているのに対し、低い環境ではわずか45%という結果が出ています。

 組み込み(Embedding)は、AIが日常的なシステムやプロセスにどの程度統合されているかを測定します。これには、既存システムとの統合や、使用を拡大するための組織的サポートの存在が含まれます。

各国の分類と特徴

 調査結果に基づき、10カ国は3つのカテゴリーに分類されました。

 先進的採用者として、シンガポール、サウジアラビア、インドが挙げられています。サウジアラビアでは、Vision 2030戦略と連動した明確なトップダウンの国家戦略により、AIが破壊的なものではなく近代化の手段として位置づけられています。シンガポールは、Smart Nation構想と国家AI戦略のもと、標準化されたツール、明確な承認プロセス、日常業務への強力な組み込みを実現しています。インドは、規模の大きさによる熱意と勢いが採用を牽引しており、システムと統合は遅れているものの、政府の「AI for All」戦略が無料コースの提供とAIの社会的利益に関する明確なメッセージを通じて普及を促進しています。

 不均一な採用者として、英国、米国、南アフリカ、ブラジルが分類されました。これらの国々は、熱意と教育において一定のリーダーシップを示していますが、AIの組み込みが不均一で、インフラや不明確な許可によって制約を受けることが多いという特徴があります。英国ではAIトレーニングを受けた公務員の37%が存在しますが、部門間で採用が不均一であり、多くの職員が承認されたツールへのアクセスを欠いています。

 慎重な採用者として、ドイツ、フランス、日本が挙げられています。これらの国々は慎重でリスク回避的なアプローチを取っており、AIを活用する公務員は日常業務ではなく専門プロジェクトに限定される傾向があります。すべての指標において大きな改善の余地があると指摘されています。

最下位医フランスの状況

 Euronewsによれば、フランスは調査対象10カ国の中で最下位となりました。フランスの公務員の74%がAIは自分の業務のいかなる部分も実行できないと回答し、約45%が業務でAIを一度も使用したことがないと報告しています。

 フランスの公務員のうち、組織によるAIツールへの投資を報告したのはわずか27%で、多くの人がリーダーシップによるAI使用のガイダンスが不明確であると述べています。この限られた実践経験が態度を形成しているようで、多くのフランスの公務員はAIが効率を改善することを期待していません。

 これらの発見は、フランスがAIインフラに多額の投資を行い、政府におけるAIの責任ある展開を導くための倫理的枠組みを開発していることを考えると、特に注目に値します。

欧州全体の傾向

 欧州全体としては、採用が慎重であることが明らかになりました。ドイツとフランスは、AI使用が専門家やパイロットプロジェクトに限定されるリスク回避的な国々の中に分類されています。

 英国はAI採用において進展を示していますが、ガイダンスとインフラにおいて依然としてギャップが存在します。AIトレーニングを受けた公務員は37%存在しますが、採用は部門間で不均一であり、多くの職員が承認されたツールへのアクセスを欠いています。

 一方、シンガポール、サウジアラビア、インドは、強力なリーダーシップのサポートと政府業務における広範で日常的なAI使用を組み合わせることで、トップに位置づけられました。

グローバルな課題とシャドーAI

 調査では、世界的に公務員の74%がAIを使用していることが明らかになりました。しかし、政府が技術を非常に効果的に使用していると考える公務員はわずか18%にとどまっています。

 特に懸念される点として、AIガイダンスが限られた組織でAIを積極的に使用する従業員の70%が「シャドー」でAIを使用していることが挙げられます。これは、雇用主が知らない間にAIツールを使用していることを意味します。このシャドーAIの問題は、承認されたツールへのアクセスが制限された環境で特に顕著で、熱意の高いAI利用者の64%が個人ログインを使用し、70%が上司の知らないところで業務タスクにAIを使用していると報告されています。

成功要因と改善のための提言

 調査を主導したPublic FirstのCEOであるRachel Wolfによれば、多くの政府が公共部門におけるAIについて野心的な計画を持っていますが、実際の使用に向けた条件を他の国々よりも良く整えている国もあります。効果的なAIは、より良い公共サービス、市民のためのより強力な成果、より強靭な公共機関を可能にするため、この問題は重要であると述べています。

 調査では、明確なガイダンスとAI使用のサポートがある国では、91%の公務員がAI使用に自信を持ち、82%が楽観的で、79%がAIを力づけるものと感じているのに対し、ルールとサポートが不明確な場合は信頼度がはるかに低いことが示されました。

 この結果は、野心だけでは影響をもたらさないことを示しています。主要国を分けるのはビジョンだけではなく、公務員が適切な条件(効果的なツールへのアクセス、明確なルール、関連するスキル、AIを日常業務に組み込むシステム)によってサポートされているかどうかです。

日本への示唆

 日本が「慎重な採用者」に分類されたことは、公共部門におけるAI活用に課題があることを示唆しています。ドイツやフランスと同様に、日本ではAI使用が専門プロジェクトに限定され、日常業務への浸透が進んでいない状況と考えられます。

 この状況を改善するためには、調査が提言する5つの指標すべてにおいて取り組みが必要だと考えられます。特に、トップからの明確な許可、実践的なトレーニングの提供、承認されたツールへのアクセス、明確なガイダンスの提供、そしてAIの日常システムへの統合が重要な要素と言えます。

まとめ

 Public Sector AI Adoption Index 2026は、公共部門におけるAI活用が国によって大きく異なることを明らかにしました。日本を含む慎重な採用者グループは、すべての指標において改善の余地があり、AI戦略と実際の活用の間にあるギャップを埋めるための具体的な取り組みが求められています。

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