はじめに
NVIDIAが2026年4月28日に公式ブログで公開した記事では、エッジAIプラットフォーム「NVIDIA Jetson」上でオープンソースの生成AIモデルが急速に普及している現状が紹介されました。本稿では、建設機械やロボティクス研究における実装事例を中心に、フィジカルAIの最前線を解説します。
参考記事
- タイトル: オープン モデルが AI ブームを加速させ、NVIDIA Jetson がエッジでその実現を後押し
- 著者: Chen Su
- 発行元: NVIDIA 日本語公式ブログ
- 発行日: 2026年4月28日
- URL: https://blogs.nvidia.co.jp/blog/jetson-generative-ai-edge-oss/
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要点
- NVIDIA Jetson Thor・Orinは、Qwen、Gemma、Mistral AI、GR00T、Nemotronなど多数のオープンモデルをエッジで実行できるプラットフォームである
- CES 2026でCaterpillarがJetson Thor上でCat AI Assistantをデモし、クラウド接続なしでリアルタイムの音声対話と操作ガイダンスを実現した
- Franka Robotics、UIUC、NYUなどがJetson Thor上でGR00TやVLAモデルを活用し、スクリプト不要のエンドツーエンドなロボット制御を達成している
- モデルの効率化が進み、エントリーレベルのJetson Orin Nano 8GBから生成AIモデルの動作が可能になった
- Jetson Thor上でMistral 3 14Bモデルは同時接続8セッション時に毎秒273トークンの推論速度を達成している
詳細解説
クラウドからエッジへ——なぜ今、現場にAIが置かれるのか
NVIDIAの発表によれば、オープンモデルはこれまで主にデータセンターで稼働してきました。クラウドでの運用はレイテンシや継続的なコンピューティングコストを伴い、クエリのたびにその負担が積み上がります。
一方、建設機械や産業ロボットといった物理的なシステムには異なる要件があります。人や環境と相互作用する場面では低レイテンシが不可欠で、デバイスの制約からは低消費電力での動作が求められます。また、ばらつきがリスクに直結するため、安定した挙動も求められます。NVIDIAによれば、モデルの効率化が進むにつれ、開発者の関心は「どのモデルが最高性能か」から「どこで動かすのが最も合理的か」へと移ってきたとのことです。その答えとして浮かび上がるのが、デバイス上での実行です。
供給面の背景もあります。メモリ不足が業界全体のコスト上昇を招くなかで、JetsonはコンピューティングとメモリをSoM(システム・オン・モジュール)に統合することで、調達と検証を簡易化する設計をとっています。
CES 2026でのCaterpillar実証——音声AIが建設機械に搭載される
今年1月のCES 2026でNVIDIAは多数の発表を行いましたが、そのなかでもCaterpillarは8トンクラスのミニショベル「Cat 306 CR」にJetson Thorを搭載したデモを公開しました。その操縦室ではNVIDIA Rivaフレームワーク(Parakeet ASR・Magpie TTS)が高速な音声対話を担い、Qwen3 4B(vLLM経由)がクラウド接続なしでリクエストの解析と応答生成を処理しています。
NVIDIAの説明によれば、Cat AI Assistantは機械の稼働情報を提供する統合データプラットフォーム「CatHelios」と組み合わせることで、オペレーター向けのガイダンス機能と安全機能を実現しています。建設現場のような通信環境が不安定な場所でも完全に機能できる点は、クラウド依存型のAIアシスタントには難しい特性と考えられます。
ロボティクス研究とフィジカルAIの広がり
ロボティクス分野への展開も着実に進んでいます。NVIDIAの発表では、CES 2026においてFranka Roboticsがデュアルアームシステム「FR3 Duo」を用いて、スクリプトなしに認識から動作までをJetson本体上でエンドツーエンド実行するデモを披露したことが紹介されています。使用されたのはNVIDIA Isaac GR00T N1.6モデル(汎用ロボットスキル向けの視覚言語アクション=VLAモデル)です。
NVIDIAのGEAR Lab発のSONICプロジェクトでは、1億フレームを超えるモーションキャプチャデータでヒューマノイド向けコントローラをトレーニングし、Jetson Orin上でキネマティックプランナーが約12ミリ秒/パス、ポリシーループが50Hzで動作しています。イリノイ大学アーバナシャンペーン校(UIUC)のSIGRoboticsチームはGR00T N1.5を搭載したJetson Thor上で抹茶を自律的に作るロボットを開発し、NVIDIA主催のEmbodied AIハッカソンで優勝を収めました。
NYU(ニューヨーク大学)のCenter for Robotics and Embodied Intelligenceでは、Jetson Thorを活用してYORロボットを稼働させ、ピック&プレイスのような複雑な作業における汎化性能の向上も初期結果として示されています。これらの事例はいずれも、フィジカルAIが研究室を超えて実用段階に近づいていることを示すものと考えられます。
Jetsonで動くオープンモデルのラインアップ
NVIDIAによれば、Jetson Thor上では以下の主要なオープンモデルが動作します。
Gemma 3 (Google)はマルチモーダル対応で140以上の言語をサポートし、128Kの大規模コンテキストウィンドウを処理できます。複数ステップの指示を記憶するロボット用途に適しているとされています。
gpt-oss-20B (OpenAI)はローカル実行でも最先端に近い推論性能を実現するとされており、コスト効率の高い展開を可能にします。 M
istral 3 (Mistral AI)は3Bから14Bまでのモデルを含み、Jetson Thor上のvLLMコンテナでは単一接続時に毎秒52トークン、同時接続8セッション時に毎秒273トークンを達成しています。
NVIDIAのモデルとしては、物理世界の認識と行動に特化したリーズニング型視覚言語モデル Cosmos (8Bおよび2B)、汎用ロボットスキル向けVLAモデルの GR00T N1.6 、エージェント型AIシステム向けの Nemotron ファミリー(Nemotron 3 Nano 9BはJetson Orin Nano Super上でllama.cpp経由で毎秒9トークン処理)が利用可能です。Physical Intelligenceの PI 0.5 はJetson Thor上で毎秒120アクショントークンを処理し、Alibabaの Qwen 3.5 はJetson Thor上でQwen 3.5-35B-A3Bが毎秒35トークンの推論を実現しています。
開発者向けのエントリーポイントとして、Jetson Orin Nano 8GBから始められる点や、OpenClawを活用することで20Bから30Bパラメータまでのモデルをクラウド接続なしにローカルで切り替えて使用できる点は、導入コストの観点で注目できると思います。
まとめ
NVIDIA Jetsonを中心としたエッジAIの展開は、建設機械からヒューマノイドロボットまで幅広い分野で具体的な成果を生み始めています。オープンモデルの多様化と効率化がこの流れを後押しており、今後さらに多くの現場での活用が広がっていくと考えられます。フィジカルAIの周辺動向については、NVIDIAがロボット大手と連携したGTC 2026の発表もあわせてご覧いただければと思います。
