[ビジネスマン向け]AIで成果を出す組織と出せない組織を分けるもの——MITマカフィー教授が示す3つの指針

目次

はじめに

 ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)が2026年4月に開催した「HBR Strategy Summit 2026」において、MITのアンドリュー・マカフィー教授がAI時代に成功する組織の条件について講演しました。本稿では、そのポッドキャスト書き起こしをもとに、不確実性が高い今、企業がAI活用で成果を出すための考え方と実践的な示唆を紹介します。

参考記事

要点

  • AIの生産性効果については「すでに始まっている」とする見方と「まだ確認できない」とする見方が対立しており、現時点では深い不確実性が続いている
  • マカフィー教授はAI時代の成功に向けた3つの行動指針として、①組織としてのコミットメント、②アジャイルな学習サイクルの構築、③パワーユーザーによるベストプラクティスの拡散を提唱する
  • AIは競争の平準化要因にはならず、優れた組織とそうでない組織の差をむしろ拡大させると予測される
  • 見映えはよいが内容の薄いAI生成コンテンツ(ワークスロップ)の問題は、プロセス重視よりも成果重視の組織文化によって軽減できると考えられる
  • エントリーレベルの採用を削減することは、AI活用に積極的な若手人材のパイプラインを断つリスクがある

詳細解説

AI生産性をめぐる「深い不確実性」

 マカフィー教授は冒頭で、現在の状況を「誰も何も確かなことは言えない(Nobody knows anything)」という言葉で表現しました。これはジャーナリストのデレク・トンプソンが自身のSubstackで述べた表現で、生成AIの影響についての見方が専門家の間でも大きく分かれている現状を端的に示しています。

 一方では、マカフィー教授の共同研究者であるエリック・ブリニョルフソンがフィナンシャル・タイムズの論説で「AIによる生産性の飛躍はすでに始まっている」と主張しています。他方、2024年のノーベル経済学賞受賞者でもあるダロン・アセモグルはMIT Technology Reviewのインタビューで「AIによる生産性への恩恵はまだない」と反論しています。また、世界のCEOを対象にした調査でも、AI投資のROIをまだ実感していないという回答が多数を占めているとのことです。

 「汎用技術(General Purpose Technology)」とは、蒸気機関や内燃機関のように経済全体の成長を底上げする技術を指す経済学上の概念です。AIがそれに該当するかどうかも含め、現時点では判断を保留せざるを得ないというのがマカフィー教授の立場です。

AIへのコミットメントを支える3つの根拠

 不確実性が高い中でも、マカフィー教授はAIへの積極的なコミットメントを推奨します。その根拠として、汎用技術を識別するための3つの経済学的基準が示されました。

 第一に、「技術自体が急速に改善されているか」。AIについてはこれが当てはまります。第二に、「補完的なイノベーションを生み出しているか」。AIを核とした自動運転や人型ロボットの開発が進んでいることが根拠とされています。第三に、「特定のセクターに限定されず、経済全体に広く普及しているか」。生成AIはすでに多様な業界で活用が進んでおり、この基準も満たしていると言えます。マカフィー教授はこの3点を「信仰ではなく証拠」として、AIを重大な変化をもたらす技術と位置づけています。

3つの行動指針:コミット・学習・拡散

 マカフィー教授は、現在の不確実性の中でAI活用に成功するための「3段階のプレイブック」を提示しています。

 第一の指針はコミットメントです。 AIを単なる流行のツールとして扱うのではなく、組織全体の目標として位置づけることが重要とされています。具体的には、AIをOKR(Objectives and Key Results)として設定し、利用状況や成果を継続的に測定・共有することが推奨されています。OKRとは、目標と達成指標を明示的に設定・追跡する目標管理の手法で、GoogleやIntelが採用したことで広く知られています。「AIは優先事項の一つ」ではなく、「AIは組織の中心的な課題」として繰り返し伝え続けることが重要と強調されています。

 第二の指針はアジャイルな学習サイクルの構築です。 大型プロジェクトを事前の綿密な計画で進める「ウォーターフォール型」と、試行・フィードバック・改善を繰り返す「アジャイル型」の対比が紹介されました。AI活用の文脈では、ウォーターフォール型について「実際に作業を進めながら何も学ばないことへの誓約だ」というクレイ・シャーキーの言葉が引用されています。ベンチャー投資家のスティーブ・ジャーベットソンの言葉として、「変化への反応が遅すぎる企業は、気づかないうちに”死んだ会社”になっている」という指摘も紹介されました。AIによるコーディング支援の高速化が進む現在、学習と実践のサイクルはさらに加速していると考えられます。

 第三の指針は組織内ベストプラクティスの拡散です。 マカフィー教授が関わるWorkhelixの調査によれば、AI利用の分布はどの企業でも共通のパターンを示すとのことです。ごく少数のパワーユーザーが高頻度で活用し、大多数の従業員は依然として限定的な利用にとどまっています。このギャップを埋めるために、パワーユーザーが培った知見や活用方法を組織全体に展開することが、現時点で最も現実的な成果向上策の一つと考えられます。

AIは競争差を「縮める」のではなく「広げる」

 「AIツールが普及すれば競争優位は失われるのではないか」という問いに対して、マカフィー教授は逆の見方を示しています。

 過去10年でソフトウェア開発のコストはすでに大幅に低下しましたが、企業間のソフトウェア能力の差は縮まるどころか拡大しています。AIも同様に、優れた組織とそうでない組織の差をさらに広げる要因になると予測されています。またAIの普及により、コミュニケーションや調整といった管理業務の比重が徐々に低下し、優秀な人材が探索的・革新的な業務に使える時間が増えるという兆候も出ているとのことです。エージェント群の管理が優れたマネジメントスキルと共通する、という指摘は、マネジメントの本質は変わらず、その適用範囲が人間と技術の混在環境へと広がっていくことを示しているように思います。

「ワークスロップ」問題と組織文化の関係

 AIが生成する「見映えはよいが内容が薄いコンテンツ」、いわゆる「ワークスロップ(workslop)」の問題も取り上げられました。この問題は技術的な課題だけでなく、組織文化の問題でもあると指摘されています。

 プロセス重視の組織では「成果物を期日通りに揃えること」が目標になりやすく、質よりも量のAI活用が増えやすいとされています。一方、成果重視の「ギーク型組織」では、KPIへの実質的な貢献が常に問われるため、中身の薄いコンテンツへの需要そのものが下がると考えられます。マカフィー教授が著書『The Geek Way』で提唱した「ギーク型組織」とは、科学的思考・高速な反復・強いオーナーシップ・オープンな議論を重視する組織文化を指します。

アジャイル思考への転換——「一方通行のドア」と「双方向のドア」

 伝統的な企業がウォーターフォール型からアジャイル型に転換するための実践的な示唆として、マカフィー教授はAmazonの「一方通行のドア(one-way door)」と「双方向のドア(two-way door)」という概念を紹介しています。

 一方通行のドアとは取り返しのつかない意思決定を指し、双方向のドアとは失敗しても修正できる意思決定を意味します。SpaceXが人員を乗せない試験ロケットを数多く失敗させながら技術を磨いてきたように、修正可能な失敗は「学習コスト」として許容されます。リーダーが「これは双方向のドア側の判断だ」と明示的に示すことが、組織のアジャイル文化を育む第一歩と考えられます。

エントリーレベル採用と人材パイプライン

 IBMがエントリーレベルの採用を3倍に増やすという動向に関連して、マカフィー教授は「AIによって初級業務が自動化されるのだから若手採用を減らす」という判断には二重の誤りがあると指摘しています。

 一つは、業務経験を通じた学習(on-the-job learning)の機会を断ち切ることで、将来的な熟練者の育成が難しくなるという点です。もう一つは、AI活用に積極的な若い世代こそが組織内のパワーユーザーになりやすく、そのパイプラインを閉じることは将来の競争力を削ぐことにつながる、という点です。マイクロソフトが同様の方針を取っていることにも触れており、短期的な合理性が長期的なリスクにつながりうるという視点は、人材戦略を考える上で参考になると思います。

まとめ

 マカフィー教授が示したのは、AIの効果をめぐる不確実性が高い今こそ、組織としてのコミットメントと学習姿勢が問われるという視点です。成果を出す組織と出せない組織の差は、技術へのアクセスではなく、文化・姿勢・学習の速度にあると考えられます。今後の事例の蓄積が注目されます。

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