[ビジネスマン向け]生成AIが動かない本当の理由——IBMが語る2026年のデータ戦略4つの転換点

目次

はじめに

 IBMが2026年2月16日に公開したインタビュー記事をもとに、エンタープライズにおけるAI活用の壁と、それを打ち破るデータ基盤の最新潮流をご紹介します。IBMのwatsonx.data製品管理担当バイスプレジデントを務めるエドワード・カルベスバート氏が、2026年のデータトレンドと企業が直面する課題を解説しています。

参考記事

要点

  • 多くの企業でAIのパイロット導入が止まる原因は、モデルの性能ではなくデータの質と分散にある
  • 企業データの最大90%が非構造化データのサイロに閉じ込められており、AI活用に必要な統合アクセス基盤が整っていない
  • ゼロコピー統合は、データを移動・複製せずに元の場所から直接クエリする技術で、コスト削減とベンダーロックイン回避に寄与する
  • ハイブリッドクラウドは過渡的な選択肢ではなく、コンプライアンス・コスト・レイテンシの要件を満たす長期的な設計パターンとして定着しつつある
  • データプラットフォーム市場はオープン標準を軸に統合が進み、エコシステム間の相互運用性が重視されるようになっている

詳細解説

AIが本番環境に届かない理由——データの壁

 多くの企業はこの1年間、生成AIのパイロット実験に注力してきました。しかし、IBMの調査によれば、試験的なエージェントやRAG(検索拡張生成)システムの多くが本番運用に移行できていないといいます。その原因はモデルの能力不足ではなく、背後にあるデータが「AI対応」状態になっていないことだとカルベスバート氏は指摘します。

 IBMによれば、企業データの最大90%が非構造化データのサイロに閉じ込められた状態にあります。構造化データと非構造化データへの統合アクセス手段がなく、ガバナンスや一貫したセマンティック層も欠如しているため、エージェントが信頼できるコンテキストとしてデータを活用できません。加えて、セキュリティ・コンプライアンス・ガバナンスといったエンタープライズ要件が整っていないことも、パイロットから本番への移行を妨げる要因として挙げられています。

 RAGとは、LLM(大規模言語モデル)が回答を生成する際に外部の知識ベースを参照する仕組みで、企業固有の情報をAIに活用させるうえで広く使われています。このアーキテクチャが機能するには、参照元データ自体の品質と整合性が前提となります。

ゼロコピー統合——データを動かさずにつなぐ

 2026年に注目が集まる技術のひとつとして、カルベスバート氏はゼロコピー統合(Zero copy integration)を挙げています。IBMによれば、これはデータを移動・複製することなく、存在する場所から直接クエリを実行する技術です。ETL(抽出・変換・ロード)プロセスを省くことでタイムラグとコストを削減し、データをオープンフォーマットで保持することでベンダーロックインの回避にも寄与します。

 一方で、リモートからのクエリはローカルコピーと比較してレイテンシが生じる可能性があり、セキュリティやコンプライアンスのガバナンス管理が複雑になるという課題もあると説明されています。あくまでETL削減のメリットと、アクセス制御の複雑化というトレードオフを理解したうえで導入を検討することが重要となります。

ハイブリッドクラウドが「永続的な設計」になった背景

 5年前には「いずれフルクラウドへ移行するまでの一時的な構成」と見なされていたハイブリッドクラウドが、いまや長期的な設計パターンとして位置づけられつつあります。IBMは、その要因としてリアルタイム処理へのレイテンシ要件、データをオンプレミスに保持するコンプライアンス上の制約、クラウドコストの上昇、そして大手ハイパースケーラーへの依存リスクへの懸念を挙げています。

 さらに、生成AIワークロードのインフラ要求が高まるなか、コスト効率を保ちながらスケールするには、オンプレミスとプライベートクラウドを組み合わせた環境が引き続き重要になると考えられます。加えて、ゼロコピー統合の普及と生成AIによるコード・クエリのリファクタリング支援が「ワークロードの可搬性」を高め、企業が複数のベンダーやエンジンを組み合わせて最適なコスト・パフォーマンスを追求できる動的な市場環境が生まれると説明されています。

データプラットフォームの統合とオープン標準

 データプラットフォーム市場については、複雑性とリスクを抑えるため、より少数のプラットフォームへの集約が進んでいるとIBMは述べています。ただし、かつてのような閉じたエコシステムへの集約ではなく、オープン標準を基盤にした統合である点が従来との違いです。

 特に注目されるのが、MCP(Model Context Protocol)ベースのインターフェース対応です。MCPとは、異なるAIシステムやデータソース間でのやり取りを標準化するプロトコルで、プラットフォームを越えた相互運用性を実現するうえで重要な役割を担う可能性があります。市場の統合が進みつつも、こうした標準への対応が企業の選択肢を守る方向に働いているといえます。

2026年以降に見据えるべき動向

 カルベスバート氏はさらに先を見据えたトレンドとして、GPUによるデータ処理の高速化、エージェントによるデータエンジニアリングパイプラインの自動化、そしてリアルタイムデータ処理の重要性の高まりを挙げています。また、エンタープライズのデータベースへのアクセスの多くが将来的にエージェントを介して行われるようになるという見方も示されており、それに対応するには従業員がエージェント開発ツールの特性を理解し、出力品質を評価できるようになることが求められると述べられています。

まとめ

 IBMの見解が示すのは、AI活用の壁がモデルではなくデータ基盤にあるという現実です。ゼロコピー統合、ハイブリッドクラウドの長期化、オープン標準への収斂という三つの流れが重なるいま、データ戦略を見直す機会として捉えることができると思います。パイロットを本番へとつなぐ鍵は、技術選定よりもデータガバナンスの整備にあるかもしれません。

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