[ビジネスマン向け]アジェンティックAIが現場へ——Google Cloud Next ’26で示された10社の導入事例

目次

はじめに

 Google Cloudが2026年4月22日に公開したブログ記事で、Google Cloud Next ’26に参加する10社の企業がエージェントAIを本番環境に展開している事例が紹介されました。本稿では、CapcomからMerckまで多業種にわたる導入内容を整理し、「アジェンティック・エンタープライズ」の現在地を解説します。

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要点

  • Google Cloud Next ’26では、10社の大企業がエージェントAIを研究・製造・小売・金融・物流などの現場に本格展開していることが明らかになった
  • Home DepotはAI電話応対エージェントを全米パイロット展開し、10秒以内に顧客ニーズを特定できることを確認した
  • Tata Steelは9カ月間で300以上の専門AIエージェントを展開し、資産メンテナンス予測や顧客応答時間の削減に活用している
  • Merckは研究開発・製造・商用部門にまたがるエージェント基盤の構築をGoogle Cloudと協議しており、投資総額は最大10億ドルに上る
  • MarsやUnileverなど消費財大手は、Gemini Enterpriseを全社規模のAI基盤として採用し、数十億規模の顧客への対応に役立てている

詳細解説

「アジェンティック・エンタープライズ」という転換点

 Google CloudのChief Product and Business OfficerであるKarthik Narain氏は、現在の変化を「アジェンティック・エンタープライズ」と表現しています。AIエージェントが実験環境を離れ、生産ラインや消費者向けアプリ、工場や電力網といった現場の最前線に立ちつつあるというのが同氏の見立てです。

 2025年10月にGemini Enterpriseが正式発表されました。今回のGoogle Cloud Next ’26では、そのプラットフォームを軸に複数の大企業が実際の業務を変えつつある事例が具体的な形で示されたと言えます。AIが組織の「何を届けられるか」の境界線そのものを押し広げ始めているという点で、今回の10事例はこの転換を象徴するものと考えられます。

顧客接点・サービス分野での活用

 Home Depot はGemini Enterprise上に「Magic Apron(マジックエプロン)」と呼ぶデジタルエージェントを構築しました。店舗内でもオンラインでも同社の専門知識を届けることを目指したもので、複雑なプロジェクトの案内から商品知識の提供まで幅広く対応します。さらに、Gemini Enterprise for Customer Experience上で動く AI電話応対エージェントを展開しており、全米パイロットでは10秒以内に発信者のニーズを特定できることが確認されています。従来型の「まず〇を押してください」という自動応答から、「どのようにお手伝いできますか?」という自然会話へのシフトを同社幹部は強調しています。

 Citi Wealth は「Citi Sky」という常時稼働のAIアシスタントを導入しました。Google CloudとGoogle DeepMindの技術を組み合わせており、多言語対応の会話形式で市場インサイトの提供や機会への対応、担当アドバイザーとの連携をサポートします。資産管理の問いかけにリアルタイムで答えながら、アドバイザーの能力を拡張する役割を担う設計です。

 Virgin Voyages はGemini EnterpriseとGoogle Distributed Cloudを活用した「Rovey(ロービー)」エージェントを導入しています。船内の乗務員が自然言語で旅客からの質問に自信を持って答えられるよう支援するもので、洋上の限られた通信環境でも稼働するよう設計されています。この仕組みにより製品展開のリードタイムが最大60%短縮されたとしています。

製造・研究・オペレーション分野での活用

 Capcom はGoogle Cloudと協力し、ゲームのプレイテスト工程を支援する複数の専門AIエージェントを構築しました。バグ・映像不具合・音声不整合を自律的に検出するエージェント群が月30,000時間以上のテストをこなしており、開発チームは「守りの開発」から創造的な作業へシフトできるようになったとしています。

 Tata Steel は9カ月間という短期間で300以上の専門AIエージェントを全社に展開しました。データサイエンティスト以外の社員でもエージェントを構築・テスト・デプロイできる低コードプラットフォーム「Zen AI」や、かつて部門ごとにサイロ化していた情報を一つのインターフェースに統合する「Tata Steel Digital Assistant」が中核を担っています。

 Citadel Securities はGoogleのTPU(テンソル処理ユニット)チップを活用したクラウドベースの研究環境を構築しました。AIワークロードの処理速度が最大4倍に向上し、コストは30%削減されたとしています。従来は数日を要していた作業が数分で完了するようになり、定量的研究者が100件のアイデアを同時に検証できる環境に近づきつつあると同社は説明しています。TPUは機械学習向けに設計されたGoogle製のカスタムチップで、汎用GPUと比べ特定のAI演算において高い効率を発揮します。

全社規模のAI基盤導入

 Merck はGoogle Cloudとの協業のもと、研究開発・製造・商用・コーポレートの各部門にわたるエージェント基盤を構築すると発表しました。Gemini Enterpriseを含むGoogle CloudのAI群を75,000人の従業員が活用できる環境を目指しており、投資総額は最大10億ドルに上るとされています。新薬の開発・上市を加速させることが主な目的として挙げられています。

 Mars は消費財・スナック・栄養・動物医療にまたがる事業全体で、Gemini Enterpriseを主要AIオペレーティングシステムとして選定しました。社員向けに複雑な多段階タスクを処理できるAIアシスタント群を提供するとしており、「Mars IQ」と呼ぶ独自AIプラットフォームのモジュラーアーキテクチャをGemini Enterpriseが補完する形で機能するとしています。

 Unilever は1日あたり37億人に製品を届ける事業規模を背景に、Gemini Enterprise Agent Platformを活用した調達意思決定支援のマルチエージェントソリューションを開発しています。購買チームがより迅速かつ的確な判断を下せるよう設計されており、需要創出とビジネスのエンドツーエンド接続を加速させるデジタル基盤として機能すると説明されています。

 Vodafone はGoogle Security Operationsを活用したマネージド型のセキュリティ検知・対応サービスを立ち上げるとともに、Gemini Enterprise Agent PlatformとGeminiモデルを基盤とした「Vodafone Business AI Concierge」を発表しました。音声とデータを組み合わせたマルチモーダルAIエージェントで、中小企業向けの業務用AIとして欧州市場への展開を見据えています。

まとめ

 Google Cloud Next ’26の10社の事例は、AIエージェントが「試験運用」の段階を超え、製造・金融・小売・製薬・消費財など多様な業種の現場に根を下ろし始めていることを示しています。Gemini Enterpriseを共通基盤としながら、各社が業務課題に合わせた固有のエージェント設計に踏み込んでいる点が注目に値します。アジェンティックAIの概念的な枠組みについては、過去記事でも整理していますので、あわせてご覧いただければと思います。

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