はじめに
Anthropicが2026年8月7日、自社の営業チームがClaude Coworkをどう使っているかを紹介する記事を公開しました。執筆したのは同社BDR(見込み客の発掘と初期対応を担う営業職)のJohn Albert氏です。本稿では、実際に構築されたスキルの中身と設計思想を解説します。
参考記事
- タイトル: How Anthropic’s business development team uses Claude to run inbound and outbound at scale
- 著者: John Albert
- 発行元: Anthropic(Claude Blog)
- 発行日: 2026年8月7日
- URL: https://claude.com/blog/how-anthropics-business-development-team-uses-claude-to-run-inbound-and-outbound-at-scale
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要点
- Anthropicの筆者は営業受信箱の対応に1日約5時間を費やしていたが、その多くをClaude Coworkのスキルとスケジュール実行タスクに置き換えたと述べている
- インバウンド対応の基盤は、頻出質問とその回答をまとめた社内ナレッジベース文書であり、Claudeは返信を下書きする前に必ずこれを参照する
- 受信箱スキルは1時間ごとに実行され、返信が必要なスレッドを検出して担当者ごとの文体で下書きを作成する
- アウトバウンドでは夜間実行のスキルが100件超の担当アカウントを横断調査し、翌朝にブリーフ・スコア・アプローチ案を提示する
- 送信前には必ず人間が確認する運用とし、修正や却下の理由はスキル側に記録して再発を防ぐ設計になっている
詳細解説
1日5時間の受信箱対応という出発点
Albert氏によれば、Anthropic入社後に営業受信箱の管理を引き継いだ当初は、見込み客からの問い合わせ対応に1日およそ5時間を費やしていたとのことです。製品に関する同じような質問への回答が繰り返し発生し、自身の担当アカウント管理はその上に乗る形になっていたと説明されています。
BDR(Business Development Representative)という職種は商談化の前段にあたり、インバウンドの需要を選別し、アウトバウンドの案件パイプラインを作る役割を担います。定型的な問い合わせ対応が積み上がると、本来の顧客理解に時間を割きにくくなる構造は、規模を問わず多くの営業組織に共通する課題だと考えられます。
なお、Claude Coworkは非開発者向けのエージェント機能として2026年1月に発表されました。今回の記事は、その機能が社内の実務でどう定着したかを示す事例にあたります。
ナレッジベースを起点にした受信箱スキル
インバウンド対応の土台になっているのは、営業受信箱に寄せられる頻出質問と、それに対する最良の回答を1つの文書に集約したナレッジベースです。Claudeは返信を下書きする前に必ずこの文書を読み込みます。文書自体の作成もClaudeが支援しており、関連情報のありかを指定するだけで初版が作られたとされています。さらに、内容が古くなっている可能性のある箇所をClaudeが継続的に指摘し、担当者が検証する運用になっています。
この上に構築された中心的なワークフローが、1時間ごとに動く受信箱スキルです。担当者の受信箱を走査し、返信が必要なスレッドを特定して下書きを残します。このスキルは、薄いシステムプロンプト、文脈として与えるナレッジベース、そして担当者ごとの文体プロファイルという3つの要素で構成されています。文体プロファイルは、各担当者が過去に書いた文書やメッセージを読み込む別のスキルによって作成されるとのことです。
仕組みとして注目したいのは 事実の供給源と表現の供給源を分離している 点です。製品に関する事実はナレッジベースが担い、言い回しは文体プロファイルが担う。システムプロンプト側を薄く保てるのはこの分担があるためだと考えられます。同じ設計は、社内規程やFAQを持つ他の業務にも応用できる余地がありそうです。
補助スキルとSalesforceの更新提案
Albert氏は、事務負荷を減らす軽量なスキルも2つ使っていると述べています。1つはGmailとGoogleカレンダーを監視し、商談のノーショーや連絡が途絶えた状態を検知して通知します。もう1つはCRMコネクタ経由で新規リードを走査し、パーソナライズした初回コンタクトの下書きを作成します。こちらは日中に定期実行され、リードを待たせない運用が意図されています。
商談管理では、Salesforceの状態を最新に保つスキルが使われています。商談ステージに関する社内ガイダンスを読み込み、GmailやGong(商談通話の記録・解析ツール)に残る実際のやり取りと突き合わせる仕組みです。たとえば顧客と面談し価格の話に進んでいるなら、商談ステージも進んでいるはずだという判断になります。Claudeは更新案を根拠とともに提示し、担当者の承認を待ちます。担当者が編集または却下した場合は、その理由が記録され、同じ誤りを繰り返さないようになっています。
この「提案して承認を待つ」構造は、CRMのデータ品質と自動化を両立させる現実的な落とし所だと思います。記録の正確性が売上予測に直結する領域では、全自動更新よりも人間の確認を挟む設計のほうが受け入れられやすいと考えられます。
夜間に走るアウトバウンド調査
アウトバウンド側では、Albert氏が常時100件を超えるアカウントを担当しているとされます。これを支えるのが、夜間にスケジュール実行される調査スキルです。担当ブック全体を対象に、誰と接点があるか、現在Claudeをどう使っているか、どのようなシグナルが出ているかといった各アカウントの状態を観測します。
この処理でClaudeはSalesforce、ApolloやCommon Roomといった営業ツール、Gong、さらに社内データウェアハウスに接続し、深いリサーチを行ったうえで、チームが整備したアウトバウンド指針とICP(Ideal Customer Profile、理想的な顧客像の定義)に照らして内容を検証します。担当者は翌朝、アカウントごとのブリーフ、スコア、アプローチ案を受け取ります。スキルは小さなメモリファイルと台帳を保持しており、重複した作業が発生しないよう制御されています。
ディスカバリーコール(初回のヒアリング商談)の改善にもClaudeが使われています。Gongの文字起こしを自社のプレイブックと照合し、通話ごとのスコアカードを生成する仕組みです。評価には、良かった点の上位3項目、改善点の上位3項目、基準に対する合否、そして次に練習すべき最も効果の大きい1点が含まれます。育成にかかる工数を考えると、通話単位で具体的なフィードバックが揃う点は実務上の価値が大きいと思います。
単発の依頼にも対応する
定型化されていない依頼への対応も、記事では紹介されています。AE(Account Executive、商談を担当する営業職)が主要アカウントの利用動向を知りたいと考えた場合、プロンプト1つで傾向を示すダッシュボードを用意できるとのことです。
Albert氏が挙げているお気に入りの活用例が、「未発見の利用」を探すプロンプトです。AEの担当ブック全体を対象に、商談としては存在していないもののアカウント単位で利用シグナルが出ている先を洗い出します。これは接触を始める良い手がかりになると説明されています。また、ウェビナーへの招待先を探す依頼では、Claudeが利用データとCRMの履歴を横断し、各アカウントをICPに照らしてスコアリングし、招待に適した候補と担当者を提示したとされています。
記事の末尾では、導入を始めるチーム向けに6つの助言が示されています。ワークフローより先にナレッジベースを作ること、うまくいったメッセージやICPなど「自分たちの仕事のやり方」の例をClaudeに与えること、送信には必ず人を介在させること、定着したスキルは共有プラグインに載せてチームで使うこと、担当者ごとの運用に寄せすぎず汎用的に保つこと、そしてフィードバックをスキル本体に書き戻すことです。なお、記事中のUI画像はすべて合成データによるもので、実在の企業や個人を示すものではないと明記されています。
まとめ
Anthropicの事例は、営業へのAI導入を単発のツール利用ではなく、ナレッジベースと定期実行スキルの組み合わせとして設計している点が特徴だと思います。人間の確認を残し、修正理由を蓄積して精度を上げる設計は参考になりそうです。営業のAI活用は過去記事でも整理していますので、あわせてご覧ください。
