はじめに
米民主党のエリッサ・スロトキン上院議員が2026年3月18日、軍のAI利用を規制する法案を提出しました。NBCニュースが報じたこの法案は、AIによる自律的な殺傷判断の禁止や米国民への大規模監視へのAI利用の禁止など、既存の国防省指針を法律として成文化することを目指すものです。
参考記事
- タイトル: Sen. Elissa Slotkin introduces bill to draw red lines for AI use by the military
- 著者: Kevin Collier
- 発行元: NBC News
- 発行日: 2026年3月18日
- URL: https://www.nbcnews.com/tech/security/senator-introduces-bill-draw-red-lines-ai-use-military-rcna263905



要点
- スロトキン上院議員は、AIが自律的に標的を殺傷することを禁止する法案を提出した
- 法案はさらに、AIを米国民への大規模監視や核兵器の発射・起爆に利用することも禁じる
- これらの条項は、現在は行政内部の指針にとどまる国防省の規定を法律として成文化するものである
- 法案の背景には、ペンタゴンとAI企業Anthropicの深刻な対立があり、スロトキン議員は「法律があれば回避できた」と述べた
- 全5ページの簡潔な法案で、年末の国防権限法(NDAA)審議に向けた議論を形成することを目的としている
詳細解説
法案の3つの禁止条項
NBCニュースによれば、スロトキン上院議員(軍事委員会所属)が提出したこの法案は、以下の3点を明文化することを目指しています。
- AIが自律的に標的を殺傷することの禁止——致死的な判断には必ず人間が関与することを義務付ける
- 米国民への大規模監視へのAI利用の禁止——軍が市民を監視する目的でAIを使うことを制限する
- 核兵器の発射・起爆へのAI利用の禁止——最も危険な兵器の使用決定にAIが直接関与することを排除する
国防省はすでに、大規模監視を違法と見なし、致死的判断には人間の責任を求める指針を定めています。しかし、これらはあくまで行政内部のルールであり、政権交代によって変更・撤廃される可能性があります。法律として成文化することで、そうした不確実性を排除しようとするのがこの法案の狙いと考えられます。
ペンタゴンとAnthropicの対立が背景に
この法案の直接的な背景にあるのは、米国防総省とAI企業Anthropicの深刻な対立です。NBCニュースの報道によれば、Anthropicは既存の指針では抜け穴が生じ得ると懸念しており、将来の政権が指針を撤廃するリスクも問題視していました。
この対立はやがて大きな政治問題に発展し、トランプ大統領はすべての連邦機関に対して6ヵ月以内にAnthropicのモデル使用を停止するよう命じました。ヘグセス国防長官はAnthropicをサプライチェーンリスクと認定し、Anthropic側はこの認定を不当として政府を提訴しています。
一方でNBCニュースによれば、こうした対立が続く中でも、米軍はAIをイランとの戦争における軍事目標の特定に引き続き活用していたとのことです。
スロトキン議員はNBCニュースとの取材でこう述べています。「ペンタゴンはAnthropicを標的にし、分類システムからAnthropicを取り除くために今後1年間と莫大なコストを費やすことになる。法律があれば回避できた対立だ」。
法案の位置づけと今後
この法案は全5ページと簡潔な内容で、現時点では共同提案者はいません。スロトキン議員によれば、年末に向けて審議される大型の国防予算法案「国防権限法(NDAA)」の議論を早期から形成することを目的として提出されたものです。
「あらゆる道具と同様に、有益な使い方と危険な使い方がある」とスロトキン議員は述べており、AIを一律に規制するのではなく、用途に応じた明確なルールを設けることの重要性を示していると思います。
米国では軍のAI活用に関する法整備が遅れており、今回の法案はその議論の端緒となる可能性があります。ただし、共同提案者がいない段階での成立には高いハードルがあることも事実で、今後の議会内での議論の広がりが注目されます。
まとめ
スロトキン上院議員の法案は、AIの軍事利用に明確な「レッドライン」を法律として定めようとする試みです。ペンタゴンとAnthropicの対立が示したように、行政指針だけでは政権交代によって覆されるリスクがあります。簡潔な5ページの法案が、米国の軍事AI規制をめぐる議論の起点となるか注目されます。
