はじめに
中国のAIラボ「DeepSeek」が、次期主力モデルのリリースに際してNvidiaやAMDなどの米国チップメーカーへの事前共有を行わなかったと、Reutersが2026年2月25日に報じました。本稿では、この報道の内容と背景にある米中AI競争の構図について解説します。
参考記事
- タイトル: Exclusive: DeepSeek withholds latest AI model from US chipmakers including Nvidia, sources say
- 著者: Krystal Hu、Stephen Nellis、Fanny Potkin
- 発行元: Reuters
- 発行日: 2026年2月25日
- URL: https://www.reuters.com/world/china/deepseek-withholds-latest-ai-model-us-chipmakers-including-nvidia-sources-say-2026-02-25/
要点
- DeepSeekは次期主力モデル「V4」の事前アクセスをNvidiaおよびAMDに提供せず、代わりにHuaweiなど国内サプライヤーに数週間先行して公開した
- AIモデルのリリース前に主要チップメーカーへ最適化用の事前共有を行うことは、業界の標準的な慣行である
- 米トランプ政権高官によれば、DeepSeekの最新モデルは米国の輸出規制に違反する可能性のある形で、Nvidiaの最新チップ「Blackwell」を使って訓練された
- DeepSeekのモデルはオープンソースプラットフォームHugging Faceで7,500万回以上ダウンロードされ、中国モデルの存在感が急速に高まっている
- 調査会社Creative Strategiesは、この動きを米国ハードウェアとモデルを不利な立場に置こうとする中国政府の広範な戦略の一環と見ている
詳細解説
業界慣行からの逸脱——何が起きたか
Reutersが事情に詳しい2つの情報源から得た情報によれば、DeepSeekは次期主力モデル「V4」のリリースにあたり、NvidiaとAMDへの事前アクセス提供を見送りました。代わりに、Huawei Technologies(ファーウェイ)を含む中国国内のサプライヤーに対して数週間早く先行アクセスを付与したとされています。
AI開発において、新モデルのリリース前に主要チップメーカーへ未リリース版を共有することは一般的な慣行です。これは、モデルのソフトウェアが広く使われているハードウェア上で効率的に動作するよう最適化するためです。DeepSeek自身も以前はNvidiaの技術スタッフと密接に連携してきた経緯があり、今回の対応は従来とは異なる姿勢を示すものと言えます。NvidiaとAMDはいずれもコメントを拒否し、DeepSeekとHuaweiはコメント要請に応じませんでした。
輸出規制をめぐる懸念
Reutersの別報道では、米トランプ政権の高官が、DeepSeekの最新AIモデルが中国本土のクラスターでNvidiaの最先端チップ「Blackwell」を使って訓練されたと述べたことが明らかになっています。Blackwellは米国の輸出規制により中国への供給が制限されているチップであり、この使用は規制違反にあたる可能性があります。
さらに同高官によれば、DeepSeekは米国製チップの使用を示す技術的な痕跡を消去しようとしており、モデルの訓練にHuaweiのチップを使用したと公式に主張する計画があるとされています。ただし、この情報はあくまで米政府関係者の発言であり、DeepSeek側からの確認は取れていません。
現在、米国当局はNvidiaの「H20」およびAMDの「MI308」チップについては中国への出荷を認めています。これらはAIの推論(インファレンス)——すでに訓練済みのモデルを実際に動作させるプロセス——向けに設計されたチップで、より高性能な学習用チップとは区別されています。AMDによればMI308チップは直近の四半期で3億9,000万ドルの売上を記録しており、需要の大きさが伺えます。
中国AIモデルの台頭と地政学的文脈
DeepSeekは2025年1月に国際的な注目を集めて以来、同社のモデルはオープンソースプラットフォームのHugging Face上で7,500万回以上ダウンロードされています。Reutersによれば、過去1年間にリリースされたモデルの中で、中国モデルのダウンロード数は他のどの国よりも多くなっています。
調査会社Creative StrategiesのCEO、ベン・バジャリン氏は、今回の動きを中国政府が「米国のハードウェアとモデルを不利な立場に置こうとする」広範な戦略の一環と見ています。一方で同氏は、NvidiaやAMDへの一般的なデータアクセラレーター市場における直接的な影響は限定的とも述べています。企業の多くはDeepSeekを実際の業務より「ベンチマーク用モデル」として参照する傾向があるためです。また、AIコーディングツールの進化により、ソフトウェアをハードウェア向けに最適化する作業が「数か月から数週間」に短縮されていることも指摘されており、先行アクセスの戦略的意義は以前より低下している可能性があります。
こうした背景の中、中国のオープンソースAIモデルの急速な台頭は、先進チップの対中輸出をめぐるワシントンでの議論をさらに活発化させていると言えます。
まとめ
DeepSeekが次期モデルをNvidiaやAMDに事前共有しなかったという今回の報道は、技術的な最適化プロセスの話にとどまらず、米中間のAI競争の一断面を示しています。輸出規制の実効性や中国モデルの実態については、今後の続報が注目されます。
