はじめに
Google DeepMindが2026年2月18日、インド政府機関・教育機関・研究機関との包括的なAI連携「National Partnerships for AI」の一環として、同国向けの新たな取り組みを発表しました。本稿では、科学研究支援から教育現場への導入、農業・エネルギー分野への応用まで、その内容を整理して解説します。
参考記事
- タイトル: Accelerating discovery in India through AI-powered science and education
- 著者: Demis Hassabis, Lila Ibrahim, Pushmeet Kohli
- 発行元: Google DeepMind
- 発行日: 2026年2月18日
- URL: https://deepmind.google/blog/accelerating-discovery-in-india-through-ai-powered-science-and-education/


要点
- Google DeepMindはインド国家研究財団(ANRF)と連携し、AlphaGenome・AI Co-scientist・Earth AIなど複数のAI科学ツールへのアクセスを提供する
- インドはAlphaFoldの世界第4位の利用国であり、現在18万人以上の研究者が活用している
- 科学分野への支援として、Google.orgが総額3,000万ドルの「AI for Science Impact Challenge」を発表した
- 教育分野では、インドが世界で最も多くの学生が毎日Geminiを利用する国となっており、200万冊の教科書をインタラクティブなAI教材に変換するプロジェクトが始動する
- 農業・エネルギー分野でも連携が進んでおり、再生可能エネルギー予測精度の最大8%改善が確認されている
詳細解説
National Partnerships for AIとインドにおける位置づけ
Google DeepMindは、各国政府と連携してフロンティアAIの能力を広く普及させる「National Partnerships for AI」構想を推進しています。米国・英国に続く形で、今回インドとの正式な連携が発表されました。発表のタイミングは、インドが主催した第4回グローバルAIサミット(政府・企業・市民社会が参加)と重なっており、国際的なAIガバナンスの枠組み構築においてインドが存在感を示す場での公表となりました。
AIに関する国際的な協調の枠組みを整備していくうえで、こうした二国間・多国間の連携は重要な役割を果たすと考えられます。
科学研究への支援——AlphaGenomeとAI Co-scientist
科学分野では、Google DeepMind・Google Research・Google.orgの三者がインド国家研究財団(Anusandhan National Research Foundation、ANRF)と連携します。提供されるツールのうち、AlphaGenomeはヒトDNA配列の変異が遺伝子機能に与える影響を解析するAIモデルです。同組織が開発したAlphaFoldがタンパク質の立体構造予測で広く知られるように、AlphaGenomeもゲノム理解を深める新たな手段として位置づけられています。
また、AI Co-scientistは複数のAIエージェントが協調して仮説生成・検証・文献調査などを担う「仮想研究協力者」として機能するシステムです。Earth AIはGeminiの推論能力を活用し、環境モニタリングや災害対応などに応用されるモデル群です。Google DeepMindによれば、インドは現在AlphaFoldの世界第4位の利用国であり、18万人超の研究者が活用しています。
さらに、Google.orgは3,000万ドルを投じた「AI for Science Impact Challenge」を発表しました。インドおよび世界中の研究者・非営利団体・社会的企業を対象としたオープン公募で、採択された団体はGoogle DeepMindおよびGoogle Researchによる技術支援・メンタリング・インフラ提供を受けられます。
教育現場へのAI統合
Google DeepMindがIpsosと実施した調査によれば、AIを利用する主な動機として「学習」が世界的に上位に挙げられており、特にインドでは学生による毎日のGemini利用数が世界トップとのことです。
ラクナウのCity Montessori Schoolでは、中学2〜3年生の数学授業にGeminiの「Guided Learning」機能を取り入れる試みが行われています。Fab AIが実施した無作為化比較試験の初期分析では、Geminiとの会話の約4分の3において、学生が単なる「答え」ではなく理解の深化を求める傾向が示されたとのことです。
具体的な取り組みとして注目されるのが、K-12向け教科書出版社のPM Publishers Pvt. Ltd.との連携です。GeminiをQRコード経由で活用できるようにすることで、200万冊の紙の教科書を250以上のタイトル・2,000校にわたってインタラクティブなAI教材へ変換するプロジェクトが始動します。生徒がQRコードをスキャンするとカスタムGem(Geminiの特化バージョン)にアクセスでき、教科書の内容に関する質問への回答や要約を受け取ることができます。
また、1万校以上・1,100万人超の学生が参加するAtal Tinkering Labsと協力し、ロボティクスや coding教育へのGemini統合、国定カリキュラムに準拠したAI学習アシスタントの開発も進めます。さらに、IIT BombayのIndic Language Technologies Research Hubへの200万ドルの支援をもとに、インドの多言語的な多様性をAI技術に反映させていく方針も示されています。なお、Google DeepMindがRaspberry Pi財団と共同開発したAIリテラシープログラム「Experience AI」は、すでにインドで最大30万人の学生・8,000人の教員に届いているとのことです。
農業・エネルギーへの応用
教育・科学分野に加え、Google DeepMindはインド国内の農業と再生可能エネルギー分野での連携も拡大しています。農業では、インドの政府機関・スタートアップとともに、公開されているAgri AIモデルのAPIを活用し、作物生産性の向上や農家の収入改善に取り組んでいます。TerraStackは衛星データ・作物データ・気象データを統合し、農家向けの超ローカルな意思決定支援を提供しています。
エネルギー分野では、Open Climate Fix(OCF)との連携として、WeatherNext AIモデルをインドの電力グリッド運用に統合する取り組みが進んでいます。WeatherNextとOCFの風力発電予測を組み合わせたテストでは、予測精度が最大8%向上したとのことです。Google DeepMindによれば、インドは2023年時点で世界第3位の太陽光発電国となっており、2030年までに再生可能エネルギー500GWの設置を目指しています。予測精度の改善はグリッド運用の安定化に寄与する可能性があり、同国の脱炭素化目標を技術面から支える取り組みとして注目されます。
まとめ
Google DeepMindは今回の発表を通じて、科学・教育・農業・エネルギーという多分野にわたるインドとの包括的なAI連携を明示しました。特に教育分野では、言語的多様性への対応や教科書のデジタル化など、インド固有の課題に即した取り組みが具体化しています。AI技術が各国の実情に合わせて展開されていく過程として、今後の進捗が注目されます。


