はじめに
Anthropicは2026年2月16日、インド・バンガロールに同社アジア2拠点目となるオフィスを正式開設しました。同時に、インド国内の企業・教育・農業・公共分野にまたがる複数のパートナーシップを発表しています。本稿では、この発表内容をもとに、Anthropicのインド展開の現状と各分野における取り組みを解説します。
参考記事
- タイトル: Anthropic opens Bengaluru office and announces new partnerships across India
- 著者: Anthropic
- 発行元: Anthropic
- 発行日: 2026年2月16日
- URL: https://www.anthropic.com/news/bengaluru-office-partnerships-across-india
要点
- AnthropicはインドのバンガロールにAsia 2拠点目となるオフィスを正式開設し、インドを戦略的な重点市場と位置づけている
- Anthropicの発表によれば、2025年10月の拡大発表以降、インドでのラン・レート収益は倍増している
- Air India・CRED・Cognizant・Razorpayなど大企業からスタートアップまで幅広い企業がClaudeを業務に活用している
- 教育分野ではインド最大級のNPO法人Prathamと連携し、低所得層の学生1,500人を対象にClaudeを使ったテスト支援ツールの実証が進む
- MCPのインド初の政府公式サーバーが稼働を開始し、国家統計へのオープンなアクセスが可能になった
詳細解説
インドにおけるClaudeの利用状況
Anthropicによれば、インドはClaude.aiの利用者数でグローバル第2位の市場です。その特徴的な点として、インド国内でのClaude利用の約半数がコンピューターおよび数学的タスク——つまりアプリ開発、システム刷新、ソフトウェアのリリースといった技術的な用途に集中しているとされています。また、教育・指導関連のタスクが利用全体の12%を占めているとのことです。
インドは英語話者だけでなく、10億人以上が公用語として指定された12以上の言語を使う多言語社会です。Anthropicは約6ヶ月前から、ヒンディー語・ベンガル語・マラーティー語・テルグ語・タミル語・パンジャーブ語・グジャラーティー語・カンナダ語・マラヤーラム語・ウルドゥー語の10言語を対象に、より質の高い学習データの整備に取り組んできたと説明されています。現在はKaryaおよびCollective Intelligence Projectと協力し、農業・法律などの地域的に重要な領域での評価指標を構築中で、成果は公開される予定です。
企業・スタートアップとの連携
Anthropicによれば、2025年10月のインド事業拡大発表以降、同国でのラン・レート収益は倍増しています。ラン・レート収益とは、直近の月次・週次収益を年換算した指標で、現在の収益ペースを示すものです。
大企業の活用事例として、Air IndiaはClaude Codeを開発者のソフトウェア開発に活用し、コスト削減と開発速度の向上を図っています。CREDはClaude Code導入によって機能リリース速度が2倍、テストカバレッジが10%向上したと報告されています。Cognizantはグローバル35万人の従業員へのClaude展開を進め、レガシーシステムの近代化や企業クライアントのAI導入支援に活用しています。
スタートアップでは、決済サービスのRazorpayがリスク管理・意思決定・業務全般にAIを組み込んでいます。EnterpretはClaudeをAIアシスタントに採用し、MCPインテグレーションも開発済みです。そして、自然言語でソフトウェアを構築できるプラットフォームのEmergentは、すべてClaudeを基盤として構築され、5ヶ月以内に年間定期収益2,500万ドル・ユーザー数200万人に到達したと発表されています。
教育分野——低所得層の学習支援
Anthropicは、インド最大級の教育NPOであるPrathamをAIラボとしての初の戦略的パートナーに選んでいます。Prathamが運営する「Anytime Testing Machine」はClaudeを活用したテスト練習ツールで、現在20校・1,500人の学生を対象に実証中で、2026年末までに100校への拡大が計画されています。さらに、中学校を中退した女性5,000人以上が参加する「Second Chance」プログラムにも適用されており、学習と資格取得への柔軟な道筋を提供することを目指しているとのことです。
また、Central Square Foundationとの連携では、AIを活用した個別指導・教師コーチング・評価ツールを開発する組織に対して、Anthropicが技術的専門知識・メンタリング・APIクレジットを提供するとしています。インド国内の恵まれない環境にある初等教育の子どもたちへのリーチ拡大が目的です。
公共・農業・司法分野への展開
インドの農業はGDPの約6分の1を占め、労働人口の約半数が従事する重要産業です。AnthropicはEkStep Foundationとのパートナーシップにより、OpenAgriNetの取り組みを通じてClaudeによる農業専門知識へのアクセス拡大を目指しています。また、遠隔地の患者と医療をつなぐIntelehealth、数百万家族に健康コーチングを提供するNoora HealthといったNPO自身の業務効率化にも、Claude CodeやCoworkが活用されています。
司法アクセスの面では、インドには現在5,000万件の未解決裁判が存在し、訴訟の進捗確認に何ヶ月もかかるケースが珍しくありません。Anthropicは法律テックスタートアップのAdalat AIを支援し、WhatsApp上で訴訟の最新情報を即時提供するヘルプラインを本日ローンチしています。Claudeを通じて翻訳・文書要約・法的書類への対話的な照会がインドの地域言語で利用可能になります。
オープンスタンダードの推進——MCPのインド展開
Anthropicが開発し、現在はLinux Foundationに寄贈されたMCP(Model Context Protocol)は、AIアプリケーションと外部システムを接続するための共通オープン規格です。インドの統計省(MoSPI)は非営利組織Bharat Digitalの支援のもと、政府機関としてはインド初となる公式MCPサーバーを立ち上げました。これにより、AIシステムのユーザーが国家統計データにオープンかつ相互運用可能な形でアクセスできるようになります。民間では、フードデリバリー大手のSwiggyがMCPを活用し、Claude上で食料品の注文や飲食店の予約が可能になっています。
まとめ
Anthropicのバンガロールオフィス開設は、インドを単なる市場のひとつではなく、AIの社会実装の重要な試験台として位置づけていることを示していると思います。教育・農業・司法・公共インフラといった生活に直結した領域への展開は、AIの恩恵をより広い層に届けようとする姿勢の表れと言えます。今後の各パートナーシップの成果が注目されます。
