はじめに
Googleが2026年2月11日、公式ブログとポッドキャスト「Ads Decoded」を通じて、AI時代における検索広告キャンペーン構造の最適化について詳細な指針を発表しました。本稿では、Google検索広告プロダクトマネージャーのBrandon Ervin氏とホストのGinny Marvin氏による対談内容をもとに、従来の細分化されたキャンペーン構造から統合型構造への移行の必要性、AI Maxの活用方法、そして実践的な移行戦略について解説します。
参考記事
- タイトル: Is your campaign structure holding you back in the era of AI?
- 著者: Ginny Marvin, Brandon Ervin
- 発行元: Google Ads Blog
- 発行日: 2026年2月11日
- URL: https://blog.google/products/ads-commerce/is-your-campaign-structure-holding-you-back-in-the-era-of-ai/

要点
- 従来の細分化されたキャンペーン構造は、手動入札と自動化不足の時代には合理的だったが、AI時代においては性能を制限する要因になり得る
- Googleは統合(consolidation)自体を目標とはせず、AI技術の進化により同等以上の性能をより少ない労力で達成できる構造を推奨している
- コントロールは失われたのではなく形を変えており、ブランド設定、地理設定、スマート入札の目標設定などが新しいコントロール手段となっている
- キーワードは目的そのものではなく手段であり、アカウントやアドグループのテーマを理解させるための意図表現ツールとして位置づけられる
- AI Maxの3つの機能(検索語句マッチング、テキストカスタマイゼーション、最終URLエクスパンション)を全て有効にすると、同じROIで14%、自動化採用率が低い場合は27%のコンバージョン増加が見込まれる
詳細解説
キャンペーン統合が重要視される背景
Googleによれば、かつての検索広告では、広告主は手動入札を効果的に管理するために、マッチタイプ、デバイス、地域など、あらゆる変数ごとに精緻なキャンペーン構造を構築していました。この細分化されたアプローチは当時としては合理的でしたが、作業負荷が非常に大きいという課題がありました。
現在、スマート入札、AI Max、クリエイティブ自動化などのAI技術の進化により、機械学習モデルは大規模な検索アカウントにおいて人間を上回る性能を発揮できるようになっています。Googleは「統合自体が目標ではない」と明言しており、むしろ技術の進化により、従来の細分化手法が時代遅れとなり、より統合されたシンプルな構造で同等以上の性能を達成できるようになったという認識を示しています。
ここで重要なのは、Googleが推奨する構造は企業のビジネス目標との整合性を重視している点です。製品ラインが明確に異なる場合や、地域ごとに予算が分かれている場合など、ビジネス上の理由がある場合は、キャンペーンを分けることが合理的とされています。つまり、Google広告の構造が企業の損益計算書(P&L)やレポート方法と自然に対応するよう設計すべきという考え方です。
「コントロール」の新しい形
多くの広告主が懸念する「コントロールの喪失」について、Googleは「コントロールは存在するが、形が変わった」と説明しています。従来の手動入札や単一キーワード広告グループによるコントロールから、以下のような新しいコントロール手段へとシフトしています。
第一に、スマート入札における高品質なコンバージョンデータの受け渡しと正確な目標設定です。これは、機械学習モデルが適切に最適化を行うための基盤となります。
第二に、ブランドコントロールと呼ばれる機能で、特定のキャンペーンをブランドキャンペーンとして指定したり、逆にジェネリックキャンペーンからブランドトラフィックを除外したりできます。これにより、ブランド検索と一般検索を明確に分離した分析が可能になります。
第三に、アドグループレベルの地理設定(location of interest)です。この機能は、キーワードに地名が含まれる場合の曖昧さを解消します。例えば「London hotels」というキーワードは、イギリスのロンドンなのか、インディアナ州のロンドンなのか判断が難しい場合があります。構造化された地理コントロールにより、Googleは広告主の意図をより正確に理解し、適切なマッチングを実現できます。
また、テキストガイドライン(現在ベータ版)や、用語除外(term exclusions)、マッチング制限(matching restrictions)といったクリエイティブコントロールも導入されています。これらは、自然言語のプロンプトを使用して、広告コピーに含めたくない内容を意味的に指定できる機能です。
データ密度と学習期間の管理
キャンペーン統合を検討する際、データ密度は重要な考慮事項です。Googleによれば、スマート入札の一般的なガイダンスは、30日間で約15件のコンバージョンを達成することです。ただし、GoogleのシステムはコンバージョントラッキングIDから得られる全てのコンバージョンを横断的に学習するため、必ずしも単一キャンペーンから15件が必要というわけではありません。
コンバージョン数が少ない場合の対策として、共有予算やポートフォリオ入札戦略の活用が推奨されています。同じ予算と性能目標を持つキャンペーンをグループ化することで、機械学習モデルがより高い精度で目標を達成できるようになります。また、カスタマージャーニーのより早い段階にあるコンバージョンアクションを使用することも、有効な手段の一つです。
学習期間については、Googleは「表面的な変更」と「実質的な変更」を区別しています。同じキャンペーン内で広告グループを統合する場合や、クリエイティブがほぼ同じままでキャンペーンを統合する場合は、モデルは構造変更に対して頑健であり、大きな学習期間を必要としません。
一方、AI Maxを新たに導入する場合や、入札目標をリード送信からクローズド・リードに変更するような実質的な変更では、モデルが新しい目標や新しいトラフィック分布を学習するための時間が必要です。この学習期間の長さは、コンバージョンサイクルの長さとコンバージョンサイクルの回数に関連しています。
キーワードの役割の再定義
AI時代におけるキーワードの位置づけについて、Googleは「手段であって目的ではない」という明確な方針を示しています。キーワードは、広告主が指定した成果を達成するために適切なユーザー検索にリーチするための手段です。
キャンペーン構造を設計する際の優先順位として、まず達成したいビジネス目標(コンバージョン獲得か、コンバージョン価値か)を明確にし、次にそれをGoogle広告でどう表現するかという軽量な構造を考えます。キーワードはその上に配置される「テーマレイヤー」として機能し、アカウントやアドグループのテーマをGoogleに理解させる役割を果たします。
特にAI Maxやブロードマッチを使用する場合、キーワードはアカウント内のトラフィックの振り分け先をコントロールする手段となります。例えば、「このタイプのクエリは一般的にこのアドグループにマッチさせ、別のアドグループにはマッチさせない」といった意図を表現できます。
また、過去6年間で、Googleは構文的な厳密マッチングから意味的マッチングへの移行を進めてきました。これは、ユーザー行動の変化、特にAIモードのような新しい検索体験における長く複雑なクエリの増加に対応するためです。10語以上の完全一致キーワードを列挙することは現実的ではなく、AI Maxのような製品がこうした長いテールの検索体験を捉えるのに適しているとされています。
AI Maxの3つの主要機能
AI Maxは、既存の検索キャンペーンをオプトイン方式で強化する仕組みで、3つの主要コンポーネントから構成されています。
第一の検索語句マッチング(search term matching)は、従来のキーワードマッチングよりも柔軟な意味的マッチングを提供します。Googleによれば、これにより早期段階の検索意図も捉えられるようになり、ファネル全体でのマッチングが可能になります。
第二のテキストカスタマイゼーション(text customization)は、現在の実装ではランディングページのデータに基づいて広告コピーを生成します。これにより、ランディングページの内容が広告主のビジネスの表現方法を適切に反映していれば、テキストカスタマイゼーションもその表現に従うという設計になっています。
第三の最終URLエクスパンション(Final URL expansion)は、広告主が気づいていない可能性のあるランディングページやサイト内のコンテンツを発見し、より高い性能が見込まれる場合にそれらを提案します。URL除外・包含機能により、広告主は使用されるページをコントロールできます。
Googleによれば、3つの機能全てを有効にすると、同じROIで14%のコンバージョンまたはコンバージョン価値の増加が見込まれます。以前にブロードマッチなどの自動化を採用していなかった広告主の場合、27%もの増加が見られることがあります。これは短期的な性能向上だけでなく、AIモードのような進化する検索広告体験に対応するための長期的な戦略でもあるとされています。
検索語句レポートと早期段階の意図
検索語句レポートで関連性が低いと思われるクエリを見つけると、予算の無駄遣いではないかという懸念が生じることがあります。この点について、Googleは「好奇心を持つこと」を推奨しています。
従来、検索広告はコンバージョン準備が整ったユーザーのためのダウンファネル体験と考えられてきました。しかし現在では、より複雑で長いクエリ、カテゴリー的な一般検索も増加しています。Googleは、クエリマッチング、クリエイティブカスタマイゼーション、スマート入札の3つの側面で、ファネル全体の意図に対応できるよう取り組んでいます。
特にスマート入札は、アッパーファネルの意図とローワーファネルの意図を区別し、それぞれのマッチに対して適切なROIを提供するよう改善されています。一見関連性が低く見えるトラフィックや表示も、適切に価格設定されている可能性があり、全体としてのROIは維持されると考えられます。
また、Googleは毎年30〜50の改善をバックエンドでリリースし、クエリマッチングを継続的に向上させています。LLM(大規模言語モデル)の台頭により、より深い意図シグナルをモデリングに組み込めるようになっており、一見おかしなマッチに見えても、モデルに理由を聞けば、その判断の根拠が理解できる場合が多いとされています。
AI Overviewsと広告表示の条件
ポッドキャストの最後のQ&Aセクションで、AIオーバービューでの広告表示条件について説明がありました。AIオーバービュー(およびAIモード)で広告を表示するには、ユーザークエリとAIオーバービューコンテンツの両方を考慮して、より深いユーザー意図を理解する必要があります。
このため、広告はユーザークエリだけでなくAIオーバービューコンテンツにもマッチングされるため、ブロードマッチキーワード、またはAI Maxのキーワードレスマッチング、Performance Max(PMAX)、動的検索広告(DSA)のみが広告トリガーの対象となります。
重要な点として、アカウントに完全一致キーワードが存在する場合でも、ブロードマッチキーワードがAIオーバービューで広告をトリガーすることを妨げません。完全一致キーワードはAIオーバービューでの広告表示対象ではないため、ブロードマッチキーワードと競合しないという仕組みです。
段階的な移行戦略
レガシー構造から現代的な統合構造への移行について、Googleは慎重なアプローチを推奨しています。まず、達成したい最終状態をビジネス目標から逆算して設計し、それがクリエイティブテーマ、ランディングページ目標などにどう反映されるかを考えます。
次に、既存の構造の中から「安全な出発点」を見つけます。これは、優先度が低く、ボリュームが少なく、戦略的に重要度が低いキャンペーンセットです。この部分を「サンドボックス」として使用し、新しい構造への移行をテストします。何か問題が発生しても、ビジネスへの影響が限定的であるため、リスクを抑えながら学習と改善を行えます。
Googleは「アカウント全体を一度に変更することは絶対に推奨しない」と明言しており、一度に数個のキャンペーンを移行することが妥当としています。また、多くの企業にとって、年初は高圧的な販売シーズンではないため、テストを開始するのに適した時期とされています。
技術面では、Googleはスマート入札やpCTR(予測クリック率)のようなモデルを、アカウント構造の変更に対して頑健にするよう努力しています。例えば、キャンペーンIDやアドグループIDのような構造的な特徴ではなく、意味的な特徴をモデルに優先的に組み込んでいます。これにより、クリエイティブをあるアドグループから別のアドグループに移動しても、pCTRはそのクリエイティブの性能を再学習する必要がなく、モデルはそもそも異なるアドグループにあったことを認識していないため、性能の変動が最小限に抑えられます。
インクリメンタリティの確保
AI駆動の構造が、既存の需要を刈り取るだけでなく、真の新規顧客獲得を推進しているかという懸念に対して、Googleはいくつかの対策を提案しています。
第一に、アカウントのテーマ設定を適切に行うことで、クエリの配置先が明確になり、曖昧さが減少します。
第二に、ブランドとジェネリックの区別が重要な場合は、ブランドコントロールを使用して、特定のブランドトラフィックを含めたり、ジェネリックキャンペーンからブランドトラフィックを除外したりできます。
第三に、Googleは実験ツールの改善に取り組んでいます。現在の実験製品は単一キャンペーンのA/Bテストに限定されていますが、将来的には複数キャンペーンのA/Bテストを提供することを検討しています。これにより、AI Maxを追加した際のキャンペーン間のカニバリゼーションをより自然に考慮できるようになると考えられます。
予算統合のケース
予算に関しては、同じ入札目標、同じコンバージョンアクション、同じROAS(広告費用対効果)を持つにもかかわらず、歴史的な理由から異なる予算が設定されているキャンペーンが存在することがあります。この場合、一部のキャンペーンは予算制約に達し、他のキャンペーンには余剰予算が残るという非効率が生じます。
Googleは、同じ性能目標を持つキャンペーンセットやビジネスラインに対しては、共有予算の実行を推奨しています。これにより、予算は同じ目標を共有するキャンペーン間で流動的に機能し、あるキャンペーンが予算制約になっている間に、別のキャンペーンに余剰予算があるという状況を回避できます。
ただし、内部的な理由で異なる予算が必要な場合や、キャンペーンが明確に異なる目標や性能を持つ場合は、個別の予算が依然として適切です。重要なのは、ビジネス目標との整合性を保つことであり、キャンペーンが同じ性能と同じ目標を持つ場合にのみ、予算統合が推奨されるという原則です。
まとめ
GoogleのAI時代における検索広告キャンペーン構造の指針は、単なる統合の推奨ではなく、ビジネス目標との整合性を重視した戦略的な構造設計の重要性を示しています。コントロールの形は変化しましたが、ブランド設定、地理設定、スマート入札の目標管理など、新しい手段が提供されています。キーワードは目的から手段へとその役割が変化し、AI Maxの導入により、同じROIで14〜27%のコンバージョン増加が見込まれます。移行は段階的に進め、低優先度のキャンペーンから始めることで、リスクを最小化しながら学習を積み重ねることが可能です。今後もGoogleはフィードバックを重視し、広告主のニーズに応える形で製品改善を続けていく方針を示しています。
