はじめに
NVIDIA Japan Blogが 2026年9月30日 、Salesforceと共同開発したCRMリーズニングモデル「Koa」を紹介しました。本稿では、合成データによる学習、自社基盤での運用、CRM評価、Agentforceでの提供計画を整理します。
参考記事
- タイトル: 「今、私たちはすべてを知り、何でもできます」ジェンスン フアン、Dreamforce で語る
- 著者: Brian Caulfield
- 発行元: NVIDIA Japan Blog
- 発行日: 2026年9月30日
- URL: https://blogs.nvidia.co.jp/blog/jensen-huang-dreamforce/
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要点
- KoaはNVIDIA Nemotron 3 Superを基盤に、SalesforceのCRM知見から作った合成データで学習した推論モデルである。
- Salesforceがモデルの重みを管理し、自社インフラで稼働させ、学習と推論のいずれにも顧客データを使用していない。
- 14業界超の合成シナリオで学習し、Salesforce CRM BenchではCRM操作のエラーを3分の1に抑えた。
- 2026年10月からAgentforceの顧客パイロットへ移り、米国での一般提供は2026年冬を予定している。
- ジェンスン・フアン氏は、安全性を速度と両立させる最優先のエンジニアリング課題と位置付けた。
詳細解説
CRM専用の推論モデルKoa
Dreamforceで発表されたKoaは、NVIDIA Nemotron 3 Superを基盤とするSalesforce初のCRMリーズニングモデルです。汎用モデルをそのまま接客や営業へ使うのではなく、Salesforceが約30年にわたり蓄積したCRM知見から独自の合成データを作り、ポストトレーニングしています。
CRM業務では、商談の状態、顧客との履歴、担当者、期限、社内ルールを組み合わせた判断が必要です。Koaはこうした構造に合わせ、商談更新、問い合わせ振り分け、フォローアップ予定の設定など、Agentforceが実行する業務を推論できるよう設計されています。
顧客データを使わず自社基盤で運用
Nemotronがオープンモデルであるため、Salesforceはモデルを自社向けに調整し、重みを管理したまま独自インフラで稼働させられました。トレーニングにも推論にも顧客データを使っておらず、SalesforceのRohan Kumar氏は「1バイトも使用していない」と説明しています。
企業向けAIでは、性能だけでなくデータの境界が導入判断を左右します。誰が重みを管理するか、推論データが外部へ送られるか、改善学習へ再利用されるかを分離して説明できる点は重要です。フアン氏によれば、オープンモデルの比率は前年初めの30%から約70%へ上昇しており、企業が独自AIを持つ流れが広がっています。
合成データと強化学習でCRM業務へ最適化
Koaの開発にはNVIDIA NeMo RL、NeMo Gym、NeMo AutoModelが使われ、教師ありファインチューニングと強化学習が組み合わされました。学習コーパスは製造、金融サービス、医療、旅行など14業界超の合成企業シナリオを含みます。
合成データを使う利点は、実在顧客の機密情報を持ち込まず、必要な業務パターンや例外を意図的に増やせることです。一方、実務とのずれを避けるには、現場のルールや例外を評価データへ反映し、導入後も誤りの傾向を監視する必要があると思います。
CRM Benchと業務上の意味
Salesforce CRM Benchは、商談更新、問い合わせの振り分け、フォローアップの設定といった実際のCRM操作を評価します。NVIDIAによると、Koaは主要モデルと同等以上の性能を示し、エラーを3分の1に抑えました。
この結果は、一般知識の正答率ではなく、業務フローを最後まで実行する精度を示します。ただし、記事には比較対象モデルやタスク別の詳細値が示されていないため、導入企業は自社の権限体系、データ項目、承認手順を使った追加評価が必要です。
速さと安全性を二者択一にしない
フアン氏は安全性を最優先のエンジニアリング課題とし、機能、能力、安全性に確信を持てない製品は公開すべきでないと述べました。速く進むことと安全な製品を作ることは両立できる一方、制御不能または安全性を確保できないと感じた時点で立ち止まるべきだとしています。
Koaでは顧客データを使わない設計に加え、Salesforceが重みと実行基盤を管理します。これは、AI安全性を抽象的な理念ではなく、データ、モデル、実行環境、公開条件を制御する具体的な設計へ落とし込む例だと考えられます。
社内利用から顧客パイロットへ
KoaはすでにSalesforce社内で稼働し、Slack上の従業員向けエージェントを支えています。2026年10月からAgentforceで顧客が選べるモデルとしてパイロットへ移り、Formula 1、UChicago Medicine、Baxter Credit Union、1-800Accountant、Engine、Xeroへの導入を始めます。米国での一般提供は2026年冬の予定です。
NVIDIA自身も営業、サービス、マーケティング、オペレーションでSalesforceを使い、カスタマーサポートにAgentforceを導入するパイロットを進めています。SalesforceにおけるAI労働力の議論と合わせると、Koaは汎用チャットではなく、CRMの実行層へAIを組み込む動きとして位置付けられます。
まとめ
Koaは、オープンモデル、合成データ、自社運用を組み合わせたCRM特化AIです。性能値だけでなく、顧客データを使わない境界管理と段階的な提供計画が特徴であり、実運用では自社業務での追加評価が焦点になります。
