はじめに
IBM ThinkがDavid Cox氏へのインタビューを2026年7月16日に公開しました。IBM ResearchでLLM(大規模言語モデル)開発を率いるCox氏が、生成AIをどのように自身の研究に取り入れているかを解説した内容です。本稿ではその要点を紹介します。
参考記事
- タイトル: IBM’s AI model chief on the tools changing how research gets done
- 著者: Sascha Brodsky
- 発行元: IBM Think
- 発行日: 2026年07月16日
- URL: https://www.ibm.com/think/news/ibm-ai-model-chief-tools-changing-research-david-cox
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要点
- David Cox氏はIBM ResearchでLLM開発を率いる立場にあり、生成AIを自身の研究における「協働者」として日常的に活用している
- 2026年1月頃を境に、生成AIは進捗を追う対象から、以前はできなかったことを可能にする存在へと役割が変わったとCox氏は語る
- 生成AIは論文の理解や未知の分野の学習、アイデアの可視化など、幅広い場面で研究を補助している
- 一方でハルシネーション(もっともらしい誤った出力)は依然として課題であり、専門知識に基づく人間の検証が欠かせないと指摘されている
詳細解説
研究の進め方はどう変わったのか
Cox氏はハーバード大学で教員を務めた経験を持ち、現在はIBM Researchで言語・コードモデルの開発を統括しています。同氏は生成AIを使って新しいニューラルネットワーク(データからパターンを学習する数理モデル)の設計を練ったり、コードを書いたり、数学的な難問と格闘したりしていると述べています。常時10件ほどの検討事項を並行して進めており、アイデアを素早く試すための「壁打ち相手」として生成AIを使っていると説明しています。
Cox氏は「2026年1月頃、ある一線を越えた」と振り返り、それまでは進捗を見守る対象だった生成AIが、以前は不可能だったことを実現させてくれる存在に変わったと語っています。IBMは別の発表で、AIを効率化の道具として使い倒すこと自体を目的化する姿勢に注意を促していますが、Cox氏のケースは、生産性の追求よりも研究のスピードと自由度の変化に焦点が当たっている点が特徴的だと言えます。
アイデアから実験までのスピード
従来、研究アイデアを実験に落とし込むには、大学院生や共同研究者の協力を得る必要があり、そこが律速段階になりがちでした。Cox氏はこの制約が大きく緩んだとし、生成AIと壁打ちしながら研究計画を練り、ほぼ即座に検証へ移れるようになったと述べています。
さらにCox氏は、IBMの計算クラスタに空きリソースが生じるたびに自動でジョブを投入するAI駆動のソフトウェアを自ら構築したことも明らかにしています。以前ならエンジニアリングの専任体制が必要だった作業が、思いついたときにすぐ実行できるようになったとのことです。眠れない夜に自分の個人プロジェクトを進められるようになったという発言からも、研究のリズム自体が変化したことがうかがえます。
未知の分野を学び、伝える
Cox氏は神経科学からAI分野へ移った経歴を持ち、専門分野をまたいだ発想を得意としています。気になる論文があれば自身でも読み込みますが、同時にAIにも解析させ、進行中の自分の研究とどう関連するかを尋ねているそうです。AIシステムは自身の研究内容を把握しているため、関心の理由をすぐに理解してくれると述べています。
この使い方は、不慣れな数学分野に踏み込む際にも役立っているといいます。人間の専門家に対しては気後れしてしまうような基礎的な質問も、AI相手なら気兼ねなく尋ねられるとCox氏は説明しています。また、頭の中では明確でもホワイトボードでは伝えにくいアイデアを、AIに図解させることで可視化し、他者との議論に活用しているとのことです。
人間の判断が不可欠な理由
Cox氏は生成AIによる生産性向上を強調する一方で、専門知識や創造性の代わりにはならないと繰り返し述べています。ハルシネーション(もっともらしいが誤った出力)は依然として根強い課題であり、AIも人間と同様の推論ミスを犯したり、意図を取り違えたりすることがあるといいます。
この点は、AIツールを業務に取り入れる際の一般的な注意点とも重なると考えられます。分野の専門知識がある利用者はAIの誤りを見抜いて軌道修正できますが、そうでない場合は活動量の多さを成果と錯覚しやすいとCox氏は警鐘を鳴らしています。生成AIは今のところ根本的に新しいアイデアを生み出すわけではないものの、人間の創造性を検証・実現するスピードを大きく引き上げる存在だとCox氏は位置づけています。
まとめ
Cox氏の事例は、生成AIが研究の「壁打ち相手」として定着しつつある一方、専門知識に基づく検証の重要性が変わらないことを示しています。IBM研究者によるAIツールの使い分けも過去記事で紹介していますので、あわせてご覧ください。
