はじめに
IBMが2026年6月25日に公開した記事で、企業AIの評価軸を問い直す「valuemaxxing(バリューマクシング)」という考え方が紹介されました。トークンをできるだけ多く消費する「tokenmaxxing」でも、コスト削減のためにトークンを絞る「token minimization」でもなく、AIが生み出したビジネス価値で成果を測ることを提唱しています。
参考記事
- タイトル: Tokenmaxxing is dead, long live valuemaxxing
- 著者: Adam McDaniel、Markus Eisele
- 発行元: IBM Think
- 発行日: 2026年6月25日
- URL: https://www.ibm.com/think/insights/tokenmaxxing-dead-long-live-valuemaxxing
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要点
- tokenmaxxingとはAI利用量を最大化すれば成果も最大化されるという発想であり、明確な成功指標がないまま普及した
- その反動として生まれたtoken minimizationも、トークン数という同じ誤った指標を別方向に最適化しているに過ぎない
- valuemaxxingは「完了タスク数」「節約された開発時間」「解消した脆弱性」などビジネス成果を評価軸に置く考え方である
- モデル選定よりも、コンテキスト管理・ワークフロー設計・ガバナンスといった周辺システムが競争優位の源泉になりつつある
- IDCの予測では、2028年までに主要AI企業の70%が単一モデル戦略を脱し、複数モデルを動的にルーティングする体制に移行するとされている
詳細解説
tokenmaxxingとは何だったのか
IBMによれば、過去1年ほどの間に多くの企業がエンジニアリングチームに対して「AIをできる限り使え」という方針を打ち出しました。明確な成功指標もコスト管理の基準もないまま、AI利用量を最大化することが最終的に成果につながると信じられていたわけです。利用量のランキングが社内で作られ、使えば使うほど評価されるという文化が生まれました。
しかし、エージェント型の開発ワークフローはコードを生成するだけでなく、リポジトリの分析・ツール呼び出し・複数ステップにわたる調整を行います。利用量が増えるにつれてトークン消費も比例して増加し、「これだけ使って何が得られたのか」という問いが組織に浮かび上がってきました。IBMはUberが2026年のAI予算をわずか4ヶ月で使い切った事例にも言及しており、コストの問題は一部の組織にとって切実になっています。
token minimizationが陥る同じ罠
コストが増大すると、今度は逆方向の反応が起きました。IBMによれば、多くの組織がトークン消費を制限する方針に転換し、コンテキストウィンドウを縮小したり、プロンプトを短くしたりする対策が採られました。
問題は、これがtokenmaxxingと同じ誤りを犯している点です。どちらの手法も「トークン数こそが主要な指標だ」という前提を共有しています。token minimizationを進めると、最初は明らかな無駄(不要なツールの羅列や古いコンテキストなど)が削減されますが、それを超えると、AIが正確に動くために必要なタスク説明・ビジネス制約・アーキテクチャの文脈が削られ始めます。その結果、入力トークンは減っても、不明確な指示によって追加の推論・リトライ・バリデーション・手戻りが発生し、コストは形を変えて別の場所に移るだけだとIBMは指摘しています。
valuemaxxingという評価軸
IBMが提唱するのは、トークン数ではなくビジネス成果を直接測るアプローチです。valuemaxxingというコンセプトはNebius社のCROであるMarc Boroditsky氏が提唱したとされており、IBMはその考え方を企業AI運営の文脈に落とし込んでいます。
具体的な問いとして挙げられているのは、「いくつのタスクが完了したか」「開発者の時間がどれだけ節約されたか」「どれだけの近代化作業が加速されたか」「いくつの脆弱性が解消されたか」「どれだけの手戻りが回避されたか」などです。これらはAIが実際にビジネス価値を生み出しているかどうかを判断する指標であり、トークン消費はコストのシグナルにすぎないとされています。
GitHubが自社のエージェント型ワークフローでトークンコストを最大79%削減した事例を公開しましたが、それも単なるコスト削減ではなく、「どのトークンが成果に貢献しているか」を明確にする作業だったと言えます。
モデルより「周辺システム」が差別化要因になる
IBMによれば、高性能なモデルへのアクセスはもはや競争優位の源泉ではなくなりつつあります。主要なモデルはいずれも複雑な開発タスクをこなせるようになり、オープンソースの選択肢も急速に改善されています。競争優位は、モデルそのものではなく、その周辺に構築されたシステム——コンテキスト管理・ワークフローの設計・メモリ・ガバナンス・評価・最適化——に移りつつあるとIBMは述べています。
また、IDCは2028年までに主要なAI活用企業の70%が単一モデル戦略を離れ、複数のモデルを動的にルーティングする体制に移行すると予測しているとのことです。重い処理には高性能なモデルを、軽い処理にはコスト効率の良いモデルを充てるという発想です。IBMが自社のエージェント型開発プラットフォーム「IBM Bob」でモデルルーティングを初期から実装している背景も、この方向性と一致していると思います。
開発者とリーダーそれぞれの責任
IBMはtokenmaxxingをめぐる問題を組織文化の問題としても捉えています。開発者にとっては、AIの効率的な使い方がクラウドリソースやデータベース管理と同様にエンジニアリングスキルの一部になっていくと指摘されています。良質なコンテキスト管理、実行前の計画立案、コストと成果のトレードオフの理解が、より高品質な結果につながるという観点です。
リーダー側には、コストと成果の両方を可視化し、利用量ではなく価値を評価する文化を作る責任があるとIBMは述べています。AI効率化の取り組みを組織全体でメトリクスとして共有し、説明責任を持って進める体制が求められるということだと思います。
まとめ
IBMが提唱するvaluemaxxingは、AIをどれだけ使ったかでも使わなかったかでもなく、何を生み出したかで評価する考え方です。AI投資が本格化する中で、「AI予算をどう使ったか」を説明できる組織とそうでない組織の差は、今後さらに広がっていく可能性があります。AIツールの使い分けについては、IBMの研究者によるClaude・ChatGPT・Geminiの活用事例もあわせてご覧いただければと思います。
