はじめに
BBCが2026年2月25日に報じた内容によれば、イタリアの高級ファッションブランド「グッチ」が、ミラノファッションウィークのプロモーション用にAI生成画像を使用し、ソーシャルメディア上で批判を受けています。本稿では、この騒動の経緯と、業界関係者の反応、そして高級ブランドとAI活用の関係について整理します。
参考記事
- タイトル: Gucci criticised for ‘AI slop’ images ahead of major fashion show
- 著者: Liv McMahon
- 発行元: BBC News
- 発行日: 2026年2月25日
- URL: https://www.bbc.com/news/articles/cjwz6yzn5jqo
要点
- グッチがミラノファッションウィークのプロモーション用にAI生成画像をSNSに投稿し、「AIスロップ(AI slop)」との批判を受けた
- 画像には「AIで制作」と明記されていたが、ブランドが標榜する「創造性とイタリアの職人技」との矛盾を指摘する声が上がった
- マンチェスター・メトロポリタン大学のプリシラ・チャン博士は、高級ファッションブランドにとってAI活用はネガティブな評判リスクをはらむと指摘した
- 著名フォトグラファーのタティ・ブルーニングは、レタッチや小編集など「非侵襲的」な使い方は許容できるとしつつ、画像生成とは区別すべきと述べた
- バレンティノやH&MなどもAI活用を探っており、ファッション業界全体でAI活用の是非が問われている
詳細解説
騒動の背景——何が批判されたのか
グッチは、クリエイティブディレクターのデムナ・グヴァサリアが初めてミラノのランウェイに自身のビジョンを披露する直前、ブランドのプロモーション画像をSNSに投稿しました。BBCの報道によれば、これらの画像はAI生成であることが明記されていたものの、「1976年のコレクションを着たミラノのおばあちゃん」を描いた画像などが「AIスロップ」と酷評されました。
「AIスロップ」とは、SNSにあふれるAI生成コンテンツの中でも、品質が低く無個性なものを指す俗称です。ユーザーからは「本物のミラノ人を起用できないのか」という声も上がり、グッチが掲げる「創造性とイタリアの職人技」という理念と、コスト削減技術の活用との矛盾を問う批判が集中しました。
一方で、一部のユーザーは「ミラノらしい雰囲気を失わずに表現できている」と評価するなど、反応は二分されました。
グッチのAI活用の経緯
今回が初めてではなく、グッチはすでにAI活用に積極的な姿勢をみせてきました。過去にはデジタルアーティストと協力してAI生成画像を制作し、NFT(非代替性トークン)としてクリスティーズでオークションにかけたことがあります。また、2025年12月には、カメラマンたちが転倒しながらモデルを追いかけるAI生成動画を公開しています。
このような経緯を踏まえると、今回の炎上は偶発的なものではなく、あえて議論を喚起する「コメンタリー」として意図されていた可能性も否定できません。フォトグラファーのタティ・ブルーニングは、「このキャンペーンは必ずしも高級感を反映しようとしたのではなく、高級とは何かについての議論を生み出そうとしたのかもしれない」とBBCのインタビューで述べています。
業界関係者の評価——許容できる使い方とは
今回の騒動をめぐり、ファッション業界の専門家や現場からさまざまな見解が示されています。
マンチェスター・メトロポリタン大学ファッション研究所のプリシラ・チャン上級講師は、過去の技術革新が「多くの無料のポジティブな宣伝」をもたらした例を挙げつつも、AIにはその逆のリスクがあると指摘しました。「高級ファッションブランドは特に、最新技術がブランドイメージにプラスになるかどうかを慎重に考える必要がある」との見解を示しています。
一方、TikTokで240万人のフォロワーを持つフォトグラファーのタティ・ブルーニングは、ファッションハウスがAIを使うことに「基本的には賛成できない」としながらも、限定的な用途には余地があると述べました。具体的には、レタッチや小さな編集、ムードボードの作成などは「クリエイティブなエコシステムへの侵害にならない」使い方として容認できると説明しています。ただし、「AIによる加工・編集」と「AI画像生成」は明確に異なると強調しており、この区別が今後の業界標準を考えるうえでの重要な論点と言えます。
広がるAI活用——ファッション業界の現状
今回批判を受けたグッチだけでなく、バレンティノやH&Mといったブランドもジェネレーティブ(生成)AIツールのソーシャルコンテンツや広告への活用を探っています。各社はこれを「クリエイティブな取り組み」として位置づけていますが、消費者の受け止め方は一様ではありません。
生成AIは、画像生成・動画生成・テキスト生成など多様な用途で急速に普及しており、コスト削減や制作効率の向上に寄与するとされています。ただし、高級ブランドにとってはブランド価値の維持が最優先課題であり、その観点から効率優先のAI活用が逆効果になるリスクは、今後も慎重に検討される必要があると思います。
まとめ
グッチのAI画像騒動は、ブランドが標榜する「職人技」と生成AI活用との緊張関係を改めて浮き彫りにしました。業界専門家が指摘するように、高級ブランドにとってAI活用の是非はブランド価値に直結します。「どこまでAIを使うか」という問いは、ファッション業界だけでなく、AIを活用するすべての企業にとっても共通のテーマと言えます。
