はじめに
Z.aiとAlibabaのQwenチームは2026年8月26日、効率重視の新アーキテクチャモデル「GLM-5.3-Flash」と「Qwen3.8-Flash-Next」を相次いで公開しました。本稿では両モデルのHugging Face公開情報をもとに、設計思想と実装方法を解説します。
参考記事
メイン記事:
- タイトル: GLM-5.3-Flash (Model Card)
- 発行元: Z.ai(Zhipu AI)
- 発行日: 2026年8月26日
- URL: https://huggingface.co/zai-org/GLM-5.3-Flash
- タイトル: Qwen3.8-Flash-Next (Model Card)
- 発行元: Alibaba Qwenチーム
- 発行日: 2026年8月26日
- URL: https://huggingface.co/Qwen/Qwen3.8-Flash-Next
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要点
- Z.aiは2026年8月26日、GLM-5シリーズで初めてネイティブにマルチモーダル対応した「GLM-5.3-Flash」を公開した。3,200億パラメータ中180億が活性化するMoE構成で、疎注意と線形注意を組み合わせたハイブリッドアーキテクチャを初採用している
- Alibabaは同日、次世代「Qwen4」アーキテクチャのプレビュー版として「Qwen3.8-Flash-Next」を公開した。1,250億パラメータ中60億が活性化する構成に加え、Nグラム埋め込みという新方式を導入している
- GLM-5.3-Flashは匿名モデル「Ox Alpha」としてOpenRouterやOpenCodeで先行提供され、話題化した後に正体が明かされるという公開手法が取られた
- 両モデルともHugging Faceで重みが公開されており、SGLangやvLLMなど複数の推論フレームワークでの自前運用が案内されている
- Qwen3.8-Flash-Nextはネイティブで26万2,144トークン、YaRNによる拡張で最大100万トークンのコンテキスト長に対応する
詳細解説
なぜ同日に2社が発表したのか
GLM-5.3-Flashは、MoE(Mixture of Experts、入力ごとに一部のパラメータのみを稼働させる仕組み)構成でモデル全体は3,200億パラメータ、実際に稼働するのは180億パラメータです。Z.aiによれば、GLM-5.2と比べて複数のベンチマークで上回りながら価格は10分の1で、コーディングとエージェント関連の指標ではClaude Opus 4.8に近づいているといいます。GLM-5.2の解説記事でも100万トークンのコンテキストウィンドウとローカル実行環境を紹介していますが、GLM-5.3-Flashはその後継として設計が刷新されたモデルにあたります。
一方のQwen3.8-Flash-Nextは、Alibabaの説明によれば次世代「Qwen4」アーキテクチャの実験的なプレビュー版という位置づけで、完成版の旗艦モデルではありません。Qwen3.8-27Bの解説記事では27B級デンスモデルの実装を扱いましたが、今回のQwen3.8-Flash-Nextは125Bパラメータ中6Bが活性化するMoE構成で、コミュニティが量子化やパイプラインを事前に準備できるよう、旗艦モデルに先立って設計を公開する狙いがあるとされています。
アーキテクチャの特徴
GLM-5.3-Flashの技術的な特徴は、GLMシリーズで初めて疎注意機構(Sparse Attention、重要な部分だけに注意を向ける方式)と線形注意機構(Linear Attention、計算量を入力長に比例させる方式)を組み合わせたハイブリッド構成を採用した点です。これにより長文コンテキストの処理コストを抑えつつ、精度を維持できるとされています。あわせてManifold-Constrained Hyper-Connections(mHC)という手法でスケーリング効率を高めており、30兆トークン規模のマルチモーダル事前学習データと組み合わせることで、より少ない計算量で高い性能を引き出しているとのことです。
Qwen3.8-Flash-Nextでは、Gated DeltaNetとQwen Sparse Attention(QSA)を組み合わせたハイブリッド注意機構が採用されています。QSAは個々のトークンを選択するのではなく、マイクロブロック単位で処理する方式で、エージェント向けの長文コンテキスト処理における遅延を大きく削減するとされています。また、残差接続にゲート機構を組み込んだGated Residualや、短いNグラム単位でインデックスするNグラム埋め込みという手法も導入されており、Qwenチームによれば、これによりメモリ制約のあるアクセラレータでもパラメータのスケーリングを効率化できるといいます。
両モデルとも、従来のTransformer標準構成から距離を置き、長文コンテキストの処理効率を重視した設計に踏み込んでいる点は共通していると言えます。ハイブリッド注意機構の採用が相次いでいる背景には、エージェント型のワークロードが長い文脈を扱う機会が増えていることが影響していると考えられます。
ベンチマーク性能
Z.aiの発表によれば、GLM-5.3-FlashはAutomationBench(業務自動化のワークフローを評価するベンチマーク)で48.8を記録し、Claude Opus 4.8の41.0、DeepSeek-V4-Vision-Expの38.8を上回りました。前世代のGLM-5.2は26.2だったとのことで、世代間の伸び幅としては特に大きいとされています。
Qwen3.8-Flash-Nextのモデルカードによれば、エージェント関連のベンチマークでも比較優位が示されています。長時間タスクを評価するCoWorkBenchでは73.9を記録し、Qwen3.8-27Bの70.7、Claude Opus 4.6(Max)の68.2を上回りました。モバイル操作を評価するAndroidWorldでも84.5を記録し、同条件のClaude Opus 4.6(Max)の62.0を大きく上回っています。ただし、これらの数値はいずれもモデル開発元による自社報告であり、独立した第三者評価との比較は今後の検証を待つ必要があると思います。
前提条件・環境構築
両モデルともHugging Faceで重みが公開されており、SGLang、vLLM、TokenSpeedといった推論フレームワーク(モデルを実際に稼働させるサーバーソフトウェア)経由での利用が案内されています。GLM-5.3-FlashはさらにTransformers、KTransformers、Unslothにも対応しています。
注意: 大規模MoEモデルはパラメータ数が数百億〜数千億規模にのぼるため、フル精度での実行にはハイエンドのGPU環境が必要です。個人環境で試す場合は、Unslothが提供する量子化版(パラメータの精度を落として軽量化したモデル)の利用を検討するとよいと思います。
実装例:Qwen3.8-Flash-NextをAPI経由で呼び出す
Qwen3.8-Flash-NextはOpenAI互換のChat Completions API(対話形式でモデルを呼び出す標準的なインターフェース)で利用できます。以下は、参考記事に掲載されたサンプルコードをもとにした基本的な呼び出し例です。
# openaiパッケージが必要です。pip install -U openai でインストールできます
from openai import OpenAI
# ベースURLとAPIキーは環境変数から読み込まれます
client = OpenAI()
messages = [
{"role": "user", "content": "2つのソート済み連結リストをマージするPython関数を書いてください。"},
]
# reasoning_effortで思考の深さを指定します(xhigh/medium/lowの3段階)
completion = client.chat.completions.create(
model="Qwen/Qwen3.8-Flash-Next",
messages=messages,
reasoning_effort="xhigh",
)
print(completion)reasoning_effort は思考の量を調整するパラメータで、既定値は最も深く考える「xhigh」です。エージェント的なタスクでは、思考量を下げても1ターンあたりの応答は速くなる一方、分析不足による失敗や再試行が増え、結果的に処理全体が長引く場合があると参考記事は指摘しています。なお、これは参考記事のサンプルコードをもとにしており、実行環境によっては別途モデルのホスティング設定が必要な点にご留意ください。
長文コンテキストを扱う場合は、YaRN(Yet another RoPE extensioN、位置エンコーディングを調整して対応可能な文脈長を拡張する手法)という技術でネイティブの26万2,144トークンから最大100万トークンまで拡張できます。vLLMやSGLangなど主要フレームワークで設定ファイルを書き換えることで有効化できるとのことです。
GLM-5.3-Flashの利用方法
GLM-5.3-Flashは、reasoning_effort パラメータ(low/high/maxの3段階、既定はmax)で思考の深さを、clear_thinking パラメータで思考過程の出力有無を制御できます。チャット用途では、参考記事はclear_thinking=trueを明示的に指定することを推奨しています。ベンチマークの再現を目的とする場合は、既定のmaxのまま利用するとよいと参考記事に記載されています。
まとめ
GLM-5.3-FlashとQwen3.8-Flash-Nextは、いずれもハイブリッド注意機構によって長文コンテキストの処理効率を高めた新世代モデルです。両社が同日に発表した背景には、エージェント型AIの普及に伴う長文コンテキスト処理へのニーズの高まりがあると考えられます。今後の独立した第三者評価の結果にも注目したいと思います。
