[ニュース解説]AI生成の架空判例を訴訟書類に使用——米国弁護士に過去最大級の約1,400万円制裁

目次

はじめに

 サンディエゴの弁護士が、生成AIによって作られた架空の判例を含む書類をオレゴン連邦裁判所に提出したとして、約9万6,000ドル(約1,400万円)の制裁金を科されました。The San Diego Union-Tribuneが2026年4月4日に報じたこの事案は、米国における法律分野でのAIハルシネーション制裁としては最大級と見られています。

参考記事

要点

  • サンディエゴの弁護士スティーブン・ブリガンディに、AIハルシネーションを含む書類の提出を理由として約9万6,000ドルの制裁が科された
  • 3件の申立書には合計15件の存在しない判例と、正当な法的権威への8件の捏造引用が含まれていた
  • 担当判事は依頼人ジョアン・クーヴレットが書類を作成した可能性が高いとする「説得力ある証拠」があると認定した
  • 現地代理弁護士ティム・マーフィーにも約1万4,200ドルの制裁が科され、総額は11万ドルを超えた
  • 判事はクーヴレットの全訴訟請求を永久に棄却するという、同種事案では異例の処分を下した

詳細解説

制裁の規模と背景

 The San Diego Union-Tribuneの報道によれば、本件の制裁はオレゴン連邦地裁のマーク・クラーク判事が下したものです。ブリガンディ弁護士に科された制裁金の内訳は、懲戒的制裁として1万5,500ドル、相手方弁護士費用として約8万500ドルで、合計約9万6,000ドルにのぼります。現地代理弁護士ティム・マーフィーへの制裁(約1万4,200ドル)を加えると、総額は11万ドルを超えます。

 世界各地のAIハルシネーション事案を追跡しているフランスの弁護士ダミアン・シャルロタンは、これを米国における同種事案での「過去最高額」と評しています。クラーク判事自身も判決文の中で「急速に拡大するAI誤用制裁事案の中でも、この事案は程度と件数の両面において悪名高い例外だ」と述べており、法曹界における本件の異例性が際立っています。

問題となった書類の内容

 問題の書類は2025年初頭から複数回にわたって提出されました。3件の申立書には合計15件の存在しない判例と、正当な法的権威に誤って帰属させた8件の捏造引用が含まれていました。

 「ハルシネーション」とは、生成AIが実在しない判例や引用を、あたかも実在するかのように流暢な文体で生成してしまう現象を指します。法律文書では判例の正確性が論理の根拠となるため、この問題は特に深刻です。実際、今回のように複数の架空判例が複数の書類にわたって含まれていた事案は、これまでの同種事案と比べても質・量ともに重大と判断されています。

ブリガンディ弁護士の主張と認定内容

 ブリガンディ弁護士はThe San Diego Union-Tribuneの取材に対し「私は書類を作成していない」と主張しており、AIを個人的に使用したことも否定しています。一方でオレゴン州弁護士会への回答では、問題の申立書に「生成AI素材が含まれていた」こと、「引用をすべて確認しなかったのは間違いだった」ことは認めています。

 誰が書類を作成したかという問いに対しては、弁護士と依頼人の両者が「弁護士・依頼人間の秘匿特権」を理由に明確な回答を避けました。クラーク判事はこの沈黙について「複数回にわたって説明の機会を与えられたにもかかわらず、何も答えなかったことがすべてを物語っている」と指摘しています。

依頼人クーヴレットへの疑いと「説得力ある証拠」

 クラーク判事は依頼人のジョアン・クーヴレットが書類を作成した可能性が高いと認定しました。相手方(弟たち)の弁護士が提出した証拠によれば、クーヴレットは過去に複数の訴訟で自己代理(本人訴訟)を行っており、同じオレゴン州の関連訴訟でも今回と類似した架空判例を含む書類を提出していたとされています。

 判事はこの証拠を「説得力がある」と評した上で、クーヴレット本人への直接の制裁は見送りつつも、全訴訟請求を永久に棄却するという実質的に最も重い処分を選択しました。法律分野でのAI誤用に対して訴訟自体を終結させる「終了制裁」が下されるのは異例であり、判事自身も「これほど適切な事案はほかにない」と述べています。

現地代理弁護士の責任範囲

 オレゴン州の弁護士ティム・マーフィーは問題の書類の作成にも確認にも関与していないと述べています。判事もその事実は認めましたが、地元裁判所の規則に反して「訴訟に実質的に参加しなかった」として相手方弁護士費用の15%にあたる約1万4,200ドルの負担を命じました。マーフィー自身も「ブリガンディをもっと監督すべきだった」と認めており、現地代理人としての確認義務が問われた形です。

 今回の事案は、書類の作成者だけでなく、その確認に関与した(あるいは関与すべきだった)全員が責任を問われる可能性があることを示していると考えられます。AIを使った書類の提出に関わる弁護士には、内容確認の実質的な義務があることが改めて示された事例と言えます。

まとめ

 今回の事案は、法律文書における生成AIの無確認利用がいかに深刻な結果をもたらすかを示しています。制裁額の大きさに加え、訴訟自体の永久棄却という処分は、AIハルシネーションを見落とした場合の代償が非常に大きいことを改めて示していると思います。AI活用が広がる中で、出力内容の確認プロセスをいかに整備するかが、今後ますます重要な課題になると考えられます。

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