はじめに
GoogleがIDB(米州開発銀行)と連携し、ラテンアメリカのAI普及・デジタル変革を加速する3つの新施策を2026年4月15日に発表しました。本稿では、AIレポートの公開、公務員向けAI研修アカデミーの設立、デジタル公共インフラへの5億円規模の支援という3つの取り組みを解説します。
参考記事
- タイトル: Partnering with Latin American governments on 3 new AI initiatives
- 著者: Karan Bhatia(Vice President, Government Affairs and Public Policy)
- 発行元: Google(The Keyword)
- 発行日: 2026年4月15日
- URL: https://blog.google/company-news/inside-google/around-the-globe/google-latin-america/new-ai-initiatives-latin-america/
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要点
- GoogleはIDB(米州開発銀行)と連携し、ラテンアメリカ向けのAIレポート公開、公務員向けAI研修アカデミー設立、デジタル公共インフラ支援という3施策を発表した
- 新たに発表したAIレポートによれば、戦略的なAI導入によりラテンアメリカのGDPは年間3.6〜6.7%(最大約2,420億ドル)押し上げられる可能性がある
- IDBとApoliticalが共同でAI研修アカデミーを設立し、公務員向けにスペイン語・ポルトガル語・英語での無償AI研修を提供する
- Google.orgはデジタル公共インフラ普及を支援するため、国際非営利ファンド「Co-Develop」に500万ドルを拠出する
- ブラジルやメキシコではすでにGeminiを活用した業務効率化の事例が生まれている
詳細解説
ラテンアメリカにおけるAIへの期待と現状
Googleの発表によれば、ラテンアメリカはAIへの楽観度が世界的に突出して高い地域です。GoogleとIpsos共同の「Our Life with AI」レポートによれば、AIへの期待感はメキシコで69%、ブラジルで61%、アルゼンチンで58%に達しており、北米・欧州など先進国圏を大きく上回る水準にあります。
こうした期待はすでに具体的な成果として現れつつあります。ブラジルでは連邦税務当局がGoogle Cloud上のGeminiを活用してグアルーリョス空港の手荷物検査を自動化し、担当職員がより高リスクな案件に集中できる体制を構築しました。メキシコでは連邦会計検査院(ASF)がGoogleのAIツールを導入し、従来10カ月を要していた監査作業をわずか数分に短縮したと報告されています。国家規模での行政効率化という観点から見ると、AIが「業務改善ツール」を超えた公共インフラとしての役割を担いはじめていると考えられます。
施策①:AI導入を後押しするレポートの公開
Googleはコンサルティング会社Foresightと連携し、「AI Works for Spanish Speaking Latin America」と題するレポートを発表しました。これはGoogleが新興・途上国のAI活用推進を目的として展開する「AI Sprinters」プログラムの一環として作成されたものです。
Googleによれば、同レポートの試算では、ラテンアメリカが戦略的かつ責任ある形でAIを導入した場合、年間GDPに3.6〜6.7%相当、最大で約2,420億ドルの経済効果が生まれる可能性があるとされています。IDBの推計によれば、この金額はラテンアメリカの年間インフラ投資不足額に相当し、地域全体の公衆衛生支出の約半分を賄えるレベルとのことです。
経済効果を実現するための柱として、レポートは4点を挙げています。第一に 人材 ——AI時代に対応した労働力育成と教育の近代化。第二に インフラ ——クラウド容量と高速通信の整備。第三に 技術革新 ——中小企業のAI移行支援と産学連携の促進。第四に 政策整備 ——国家AI戦略の策定とイノベーションを阻害しない証拠に基づく規制の設計です。この枠組みは、技術と制度の両面から包括的に整備しなければAIの経済効果が一部にしか届かないという認識を反映していると思います。
施策②:公務員向けAI研修アカデミーの設立
IDBとApoliticalは、ImplementaLACプラットフォーム上に新たな「AIアカデミー」を設立します。コンテンツはGoogleが支援して構築した「Government AI Campus」を基盤としており、スペイン語・ポルトガル語・英語(およびその他言語)で無償のAI研修を政府職員に提供します。
公務員向けのAI研修は、民間のAIスキル開発とは異なる文脈で重要だと思います。行政サービスの利用者は社会全体に及ぶため、公務員がAIを適切に理解・活用できる能力を持つことは、AI恩恵の「公共財化」に直結する課題です。本ブログでは先日、Google.orgが製造業従事者向けにAI研修への1,000万ドル投資を発表したことを取り上げましたが(→ https://jobirun.com/google-org-manufacturing-institute-ai-training/ )、今回はその対象が公共セクターへと広がっている点が注目されます。
施策③:デジタル公共インフラへの500万ドル支援
Google.orgは、デジタル公共インフラ(DPI)の普及を支援するグローバル非営利ファンド「Co-Develop」に500万ドルを拠出することを発表しました。DPIとは、デジタルIDや決済システムのように、複数の国・機関が共同で利用・再利用できる基盤技術を指します。専用システムをゼロから開発するコストを抑えながら、デジタルサービスへのアクセスを広げることができる点が特徴です。
具体的な事例として挙げられているのが「IdLAC」です。IDBとの連携のもと、ラテンアメリカ・カリブ海諸国の12カ国に安全なデジタルIDシステムを展開するプロジェクトで、発行されたデジタルIDは国境を越えて相互に認証されます。たとえば、ブラジルの市民がコロンビアやアルゼンチンを旅行する際、入国手続き、ワクチン接種証明の確認、処方箋の提示といった手続きをシームレスに行えるようになります。地域レベルでのデジタルIDの相互運用は、行政サービスの利便性向上だけでなく、正式な経済活動への参加を促す基盤となる可能性があります。
まとめ
GoogleとIDBによる今回の3施策は、AIレポートによる政策指針の提供、公務員向けの無償研修、デジタル公共インフラへの投資という三層構造で、ラテンアメリカのAI移行を包括的に後押しするものです。実現に向けた課題は残りますが、公共部門を通じてAIの恩恵を広く届けようとする取り組みとして注目されます。政府のAI準備状況については、過去に取り上げた「Government AI Readiness Index 2025」もあわせてご覧いただければと思います。(→ https://jobirun.com/government-ai-readiness-index-2025-global-trends/ )
