[ニュース解説]DeepMind CEO デミス・ハサビスが語るAGI・規制・労働市場の未来

目次

はじめに

 Google DeepMindの共同創業者兼CEOであるデミス・ハサビス氏が、2026年4月7日に公開されたポッドキャスト「20VC with Harry Stebbings」に出演し、AGIの定義と到達時期、AIの技術的課題、規制のあり方、労働市場への影響、エネルギー問題まで幅広いテーマについて語りました。本稿では、そのインタビューの内容を詳しくお伝えします。

参考記事

  • タイトル: Demis Hassabis: Why AGI is Bigger than the Industrial Revolution & Where Are The Bottlenecks in AI
  • 著者: Harry Stebbings(インタビュアー)
  • 発行元: 20VC(YouTube)
  • 発行日: 2026年4月7日
  • URL: https://www.youtube.com/watch?v=SSya123u9Yk

要点

  • ハサビス氏はAGIを「人間の脳が持つすべての認知能力を備えたシステム」と定義し、5年以内に実現する可能性が高いと述べた
  • スケーリング則の限界については否定的で、現在も計算資源の拡大から大きな恩恵を得ていると語った
  • AIの未解決課題として「継続学習」「長期計画」「一貫性のなさ」の3点を挙げた
  • AGIの社会的インパクトを「産業革命の10倍の変化が10倍の速度で起きる」と表現し、雇用の大規模な変化を認めつつも新たな高賃金雇用の創出を見込んでいる
  • AI安全性については国際的な認証制度と独立した監査機関の設立を理想として掲げた

詳細解説

AGIの定義と到達時期

 ハサビス氏はAGIを「人間の脳が持つあらゆる認知能力を示すシステム」と一貫して定義しています。脳は「汎用知能が可能であることを示す、現時点で知られている唯一の存在証明」であり、それがAGIの基準であるべきだと語りました。

 到達時期については確率分布のかたちで考えており、「5年以内に実現する可能性が十分ある」と述べています。これはDeepMind創業時の2010年に予測した「20年程度」という見立てとほぼ一致しており、当初から大きくずれていないと発言しています。2010年当時はAI研究を行う者がほとんどおらず、「行き詰まり」とみなされていた時代だっただけに、その見通しの一貫性は注目に値すると思います。

最大のボトルネックはコンピュート

 現在のAI開発における最大の制約としてハサビス氏が挙げたのが、コンピュート(計算資源)です。理由は2つあります。ひとつはスケーリング則に基づくモデルの拡張そのもの、もうひとつは新しいアルゴリズムのアイデアを検証する「実験のためのコンピュート」です。研究者が新しいアイデアを持つたびに、それを適切な規模でテストする必要があるため、研究者が多いほどコンピュートの需要も増えると説明しています。

 スケーリング則の「頭打ち」論については否定的です。「大幅な性能向上が指数関数的に続くわけではないが、既存のシステムをさらにスケールアップすることで引き続き大きな恩恵が得られている」と述べており、完全な飽和状態にはないという立場を取っています。

AIに今も欠けている能力

 現在のAIが得意な分野については「動画モデルや対話型の世界モデル(Genieなど)は、5〜10年前に見せていたら驚くほどの水準に達している」と評価しています。一方で未解決の課題として以下の3点を挙げました。

 まず 継続学習(continual learning) です。現在のモデルは訓練終了後に新しいことを学ぶ能力が低く、人間の脳が睡眠中に記憶を統合(コンソリデーション)するような仕組みがまだ実現されていないと語りました。

 次に 長期計画(long-term planning) です。現在のシステムは数年単位の長い時間軸で計画を立てることが苦手で、人間のような階層的プランニングが課題として残っています。

 3つ目が 一貫性のなさ です。ハサビス氏はこれを「ギザギザの知性(jagged intelligences)」と表現しており、同じ内容の質問でも表現を少し変えるだけで基本的な問題で失敗することがあると指摘しています。汎用知能であれば、問い方が変わっても同様に対応できるべきだという考えです。

DeepMindが急速に進歩した理由

 2〜3年前と比較してDeepMindが急速に進化した背景について、ハサビス氏は主に組織的な変化を挙げています。Google BrainやGoogle Researchなどに分散していた優秀な人材と計算資源を一元化し、スタートアップのように集中的・高速に動くことで最前線に返り咲いたと説明しました。「過去15年間のAI業界の重要な突破口の約90%は、Google Brain、Google Research、DeepMindのいずれかによるものだ」とも述べており、組織統合によってその研究資産を最大限活かせるようになったと見られます。

オープンソースの行方

 オープンソースモデルの将来像について、ハサビス氏は「最先端から1歩遅れた位置」になるという見立てを示しました。フロンティアモデルの新しいアイデアをオープンソースコミュニティが再実装するまでに概ね6ヵ月かかるとしており、その差は縮まらないと考えているようです。

 一方でDeepMindは「Gemma」シリーズと呼ばれるオープンソースモデルのスイートを積極的に展開しており、小規模な開発者・研究者・スタートアップ初期段階・エッジコンピューティングの用途に向けて「そのサイズにおいてベストインクラスを目指す」と語りました。

AGIが変える科学・医療

 AGIの最大の価値をハサビス氏は科学と医療の分野に見ています。AlphaFoldによるタンパク質構造予測の成果を踏まえ、スピンアウト企業「Isomorphic Labs」では化合物設計・毒性評価など創薬プロセス全体の解決を目指しており、「5〜10年以内に創薬エンジン全体の完成」を見込むと述べました。

 臨床試験の長期化という課題については、AIによる人体代謝のシミュレーションや患者層別化(ゲノムに基づいた最適薬剤の特定)が貢献できると説明しています。将来的にはAI由来の薬剤が規制当局の信頼を獲得することで、動物実験の省略や投与量設定の効率化も視野に入ると見ているようです。

AI規制のあり方

 AI安全性については2つのリスクを挙げました。ひとつは悪意ある行為者による「デュアルユース(二重用途)」の問題、もうひとつはAGIに向かうにつれてエージェント・自律型システムが人間の意図する範囲から逸脱するリスクです。

 理想的な規制として「国際的な最低基準」と「独立した認証制度」を提唱しています。具体的には、AIシステムが「欺瞞(deception)」のような望ましくない特性を持たないことをテストするベンチマークの策定と、英米のAI安全機関のような独立機関による監査を組み合わせた「品質マーク(kite mark)」的なアプローチを描いていました。国際的な枠組みとして原子力の国際原子力機関(IAEA)に似た組織の設立も提案しています。

労働市場・経済格差への影響

 労働市場の変容については「過去の技術革命でも多くの雇用が失われた一方、想像もしなかった新しい高賃金の仕事が生まれてきた」という歴史的パターンを踏まえつつも、今回のインパクトはより大きいと認めています。「AGIの到来は産業革命の10倍の変化が10倍の速度で、つまり1世紀ではなく10年で展開する」という表現はその規模感を示しています。

 経済格差については、年金基金や政府系ファンドがAI関連企業に投資することで利益を広く分配する仕組みや、生産性向上による恩恵を社会インフラに充てる再分配の仕組みが重要になると語りました。また短期(現在〜1年)にはAIは「過大評価されている」と認めつつ、10年単位では「革命的な変化がまだ十分に理解されていない」という見方も示しています。

エネルギー問題と融合炉

 AI開発が電力需要を急増させている問題については、「AIが中長期的にはエネルギーコストを上回る価値を生む」との見方を示しました。電力網の最適化で「30〜40%の効率改善」が得られると見込んでおり、Commonwealth Fusionとの核融合研究や新型バッテリー・超電導体の開発においてもAIが不可欠な役割を果たすと語りました。

まとめ

 ハサビス氏のインタビューは、AGIの技術的課題から規制・労働・エネルギーまで現在進行形の問いを幅広く射程に入えたものでした。「5年以内のAGI」という見立ての根拠、「ギザギザの知性」という現状の本質的な課題、そして科学・医療への期待と国際的な安全規制の必要性は、AI開発の最前線にいる人物の視点として引き続き注目されます。

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