はじめに
Anthropicが2026年4月、AIを活用したサイバーセキュリティ強化イニシアティブ「Project Glasswing」を発表しました。AWS・Microsoft・Google・Ciscoなど12の大手企業・団体が参加し、未公開の最新フロンティアモデル「Claude Mythos Preview」を防御目的に活用する取り組みです。本稿では、この発表の全体像と技術的な背景を解説します。
参考記事
- タイトル: Project Glasswing: Securing critical software for the AI era
- 著者: Anthropic
- 発行元: Anthropic
- 発行日: 2026年4月
- URL: https://www.anthropic.com/glasswing
要点
- Project GlasswingはAWS・Apple・Broadcom・Cisco・CrowdStrike・Google・JPMorganChase・Linux Foundation・Microsoft・NVIDIA・Palo Alto Networksなど12の主要組織が参加するサイバーセキュリティ強化イニシアティブである
- Claude Mythos Previewは未公開のフロンティアモデルで、主要OS・ブラウザすべてにわたって数千件のゼロデイ脆弱性を自律的に発見した
- サイバーセキュリティ評価ベンチマークCyberGymでMythos Previewは83.1%を記録し、次世代モデルのClaude Opus 4.6(66.6%)を大きく上回る
- Anthropicは本取り組みにおいて最大 1億ドル 分のモデル使用クレジットを提供し、オープンソースセキュリティ団体への直接寄付として 400万ドル を拠出する
- Claude Mythos Previewは一般公開を予定しておらず、将来的に安全対策を整備した後、Mythosクラスのモデルを広く展開することを目指している
詳細解説
Project Glasswingとは
Anthropicが主導するProject Glasswingは、AIの高度なコーディング・推論能力をサイバー防衛に活かすことを目的とした業界横断の取り組みです。参加企業は、AWS・Apple・Broadcom・Cisco・CrowdStrike・Google・JPMorganChase・Linux Foundation・Microsoft・NVIDIA・Palo Alto Networksの11組織にAnthropicを加えた計12組織で、さらに40以上の追加組織にもMythos Previewへのアクセスが提供されています。
このイニシアティブが生まれた背景には、AIモデルのコーディング能力が急速に向上し、ごく一部の熟練した人間のセキュリティ専門家を除けば、脆弱性の発見・悪用において人間を凌駕するレベルに達しているという認識があります。Anthropicはこの能力を攻撃者に先駆けて防衛側で活用するため、緊急性を持って行動する必要があると判断しました。
Claude Mythos Previewの脆弱性発見能力
Claude Mythos Previewはここ数週間で、主要なOS全種およびWebブラウザ全種を含む重要なソフトウェアから、数千件のゼロデイ脆弱性を発見しました。ゼロデイ脆弱性とは、ソフトウェア開発者にまだ知られていない未公開の欠陥のことです。Anthropicによれば、これらの脆弱性の多くを、人間の誘導なしに完全自律で特定・悪用方法まで開発したとのことです。
具体的な発見例として、Anthropicは以下の3件を公開しています。
- OpenBSD(ファイアウォール等の重要インフラで使われる高セキュリティOSとして知られる)に潜んでいた 27年もの長期間未発見 の脆弱性。接続するだけでリモートからマシンをクラッシュさせられる欠陥でした。
- FFmpeg(動画エンコード・デコードに広く使われるライブラリ)の 16年前 から存在したバグ。自動テストが500万回ヒットしても検出できなかったコード行で発見されました。
- Linuxカーネル(世界のサーバーの大部分を動かすOS)で複数の脆弱性を連鎖させ、一般ユーザー権限からマシン完全制御への権限昇格を可能にするルートを自律的に発見。
これらはすでに各ソフトウェアのメンテナーに報告・修正済みです。長年にわたる人間のレビューや大規模な自動テストをくぐり抜けてきた欠陥をAIが自律的に見つけたという点は、セキュリティの世界における能力の質的な変化を示していると言えます。
ベンチマークが示す性能差
サイバーセキュリティ分野の評価指標として、Anthropicはセキュリティ脆弱性の再現能力を測るCyberGymの結果を公開しています。Mythos Previewは 83.1% を記録し、Claude Opus 4.6の 66.6% を大幅に上回りました。
サイバーセキュリティ能力の基盤となるコーディング・推論のベンチマークでも、Mythos Previewは際立った数値を示しています。
| ベンチマーク | Mythos Preview | Opus 4.6 |
| SWE-bench Verified | 93.9% | 80.8% |
| SWE-bench Pro | 77.8% | 53.4% |
| Terminal-Bench 2.0 | 82.0% | 65.4% |
| GPQA Diamond | 94.6% | 91.3% |
| Humanity’s Last Exam(ツールなし) | 56.8% | 40.0% |
| BrowseComp | 86.9% | 83.7% |
SWE-benchはソフトウェアエンジニアリングの実課題でモデルの能力を評価する標準的なベンチマークです。SWE-bench Verifiedで93.9%という数値は、実際のコードリポジトリで報告されたバグ修正タスクの大半を自律的にこなせるレベルを示しており、セキュリティ用途以外でも広範な活用可能性があると考えられます。
Anthropicの資金コミットメントと参加者へのアクセス
Anthropicはこの取り組みへの投資として、Mythos Preview使用クレジット最大 1億ドル分 を提供します。また、Linux FoundationのAlpha-OmegaおよびOpenSSFへの 250万ドル、Apache Software Foundationへの 150万ドル の寄付(合計400万ドル)を通じて、オープンソースソフトウェアのメンテナーが変化に対応できるよう支援します。
研究プレビュー期間終了後は、Mythos Previewを入力 25ドル/百万トークン、出力 125ドル/百万トークン で参加者向けに提供予定で、Claude API・Amazon Bedrock・Google Cloud Vertex AI・Microsoft Foundryからアクセスできます。
今後の展開と課題
Anthropicによれば、90日以内に学んだ成果、修正済み脆弱性、開示可能な改善内容について公表する予定です。また、脆弱性開示プロセス・ソフトウェア更新手順・オープンソースのサプライチェーンセキュリティ・規制産業向けの基準といった複数の領域で実践的推奨事項を策定する計画が示されています。
Claude Mythos Previewは一般公開を予定していません。将来的には安全対策を整えたうえで、Mythosクラスのモデルを広く展開することを目指すとのことで、まず次期Claude Opusモデルで安全対策の構築・検証を進めるとされています。なお、この安全対策によって正当な業務が制限されるセキュリティ専門家向けには、申請制のCyber Verification Programが設けられる予定です。
まとめ
Project Glasswingは、AIのコーディング能力が攻撃にも防御にも利用できる水準に達した現在、防衛側がその能力を先取りして活用するための業界横断的な取り組みです。Claude Mythos Previewが数十年単位で見逃されてきた脆弱性を自律的に発見できたという事実は、セキュリティの実務がどう変わりうるか、一つの具体的な示唆を与えてくれます。今後の安全対策の整備と知見の公開がどう進むか、注目したいところです。
