はじめに
老舗百科事典ブランドのEncyclopedia BritannicaとMerriam-Websterが2026年3月14日、OpenAIをマンハッタン連邦裁判所に提訴しました。Reutersが3月16日に報じたこの訴訟は、AIモデルの学習に使われた著作物の権利をめぐる議論に新たな局面をもたらしています。
参考記事
- タイトル: Encyclopedia Britannica sues OpenAI over AI training
- 著者: Blake Brittain
- 発行元: Reuters
- 発行日: 2026年3月16日
- URL: https://www.reuters.com/legal/litigation/encyclopedia-britannica-sues-openai-over-ai-training-2026-03-16/
要点
- Encyclopedia BritannicaとMerriam-Websterが、AIモデルの学習への無断利用を理由にOpenAIをマンハッタン連邦裁判所に提訴した
- 訴状によれば、OpenAIはブリタニカの約10万件の記事を無断でコピーしてGPTモデルの学習に使用したとされる
- ChatGPTがブリタニカの百科事典エントリや辞書定義をほぼそのままの形で出力し、ウェブトラフィックを奪っていると主張されている
- OpenAIは「フェアユース(公正利用)」に基づく正当な利用だと主張している
- ブリタニカは昨年もAIスタートアップのPerplexity AIを提訴しており、その訴訟は現在も係争中である
詳細解説
訴訟の概要と主な申し立て
Reutersによれば、Encyclopedia BritannicaとMerriam-Websterは2026年3月14日、OpenAIをニューヨーク州マンハッタンの連邦裁判所に提訴しました。訴状では、OpenAIがブリタニカの百科事典記事や辞書エントリを含む約10万件のコンテンツを無断でコピーし、ChatGPTを含むGPT大規模言語モデル(LLM)の学習データとして使用したと主張しています。
さらに、ChatGPTがブリタニカのコンテンツを「ほぼそのままの形」(near-verbatim)で出力することで、本来ならブリタニカのウェブサイトを訪問するはずだったユーザーを奪っているとも指摘されています。AIが生成する要約や回答がオリジナルコンテンツへのアクセスを代替するかたちでトラフィックを減らす、という構造的な問題は、メディア・出版業界がAI企業に広く問題提起している点です。こうした「コンテンツのカニバリゼーション(共食い)」は、AI普及とともに業界全体での議論が深まっている課題と言えます。
商標侵害と「ハルシネーション」の問題
著作権侵害に加えて、ブリタニカはOpenAIが商標権も侵害していると主張しています。具体的には、OpenAIがブリタニカのブランド名を無断で引用することで、あたかもブリタニカから利用許諾を得ているかのような印象を与えていると訴えています。また、ChatGPTがブリタニカを誤った情報の出典として引用する「ハルシネーション(AIによる誤情報の生成)」も問題として取り上げられました。
ハルシネーションとは、大規模言語モデルが事実と異なる情報を確信を持って出力する現象を指します。著名なブランドが誤情報の出典として引用されると、そのブランドの信頼性を損なうリスクがあると考えられます。ブリタニカは、損害賠償金(金額は特定せず)および侵害差し止めの裁判所命令を求めています。
OpenAIの立場——フェアユースをめぐる論点
OpenAIの広報担当者は、「当社のモデルはイノベーションを後押しするものであり、公開されているデータで学習しており、フェアユースに基づいている」と述べました。フェアユースとは、著作権で保護されたコンテンツであっても、変革的な利用(transformative use)など一定の条件を満たす場合には著作権侵害に当たらないとするアメリカの法的概念です。AI企業はこの原則を根拠に、許諾なしのデータ学習を正当化するケースが多く見られます。
ただし、フェアユースの解釈は判例ごとに判断が異なり、AIの学習目的での利用が「変革的」と認められるかどうかは、現時点ではまだ司法上の決着がついていない論点です。今後の裁判所の判断が業界の実務にも影響を与えると考えられます。
相次ぐ著作権訴訟——業界全体の文脈
今回の訴訟は、著作権者であるメディア・出版社がAI企業の学習データ利用を問題視する一連の法的紛争の一つです。Reutersによれば、これまでに著者や報道機関を含む多くの著作権者がAI企業を相手取った訴訟を提起しています。ブリタニカ自身も2025年、AI検索スタートアップのPerplexity AIを提訴しており、その訴訟は現在も係争中です。
AIの学習データとフェアユースをめぐる法的な枠組みは形成途上にあり、各地の連邦裁判所での判断の積み重ねが今後の業界慣行を左右すると考えられます。AI活用を検討する企業にとっても、学習データの調達方法や著作権処理は、中長期的に注視すべき経営上のリスク要因になる可能性があります。
まとめ
Encyclopedia Britannicaによる今回の提訴は、AI学習データの著作権問題をめぐる法廷闘争がさらに広がっていることを示しています。フェアユースの解釈や学習データの適法性については、今後の司法判断が注目されます。AIを活用する企業やサービス開発者にとって、データ利用の法的リスクは引き続き意識しておきたい論点です。
