はじめに
米国の国防総省がAnthropicとの契約関係を断つ可能性を検討していることが明らかになりました。Axiosが2026年2月15日に報じた内容によると、軍事利用における一定の制限を求めるAnthropicの姿勢に対し、国防総省が「すべての合法的目的」での利用を要求しており、数ヶ月にわたる困難な交渉の末、関係解消も視野に入れているとのことです。
参考記事
- タイトル: Exclusive: Pentagon threatens to cut off Anthropic in AI safeguards dispute
- 著者: Dave Lawler, Maria Curi
- 発行元: Axios
- 発行日: 2026年2月15日
- URL: https://www.axios.com/2026/02/15/claude-pentagon-anthropic-contract-maduro

要点
- 国防総省はAnthropicに対し「すべての合法的目的」での軍事利用を求めているが、Anthropicは大規模な米国民監視と完全自律型兵器の2つを禁止範囲として主張している
- ベネズエラのマドゥロ大統領拘束作戦でClaudeが使用された際、Anthropic幹部がPalantir幹部に問い合わせを行い、緊張が高まった
- Anthropicは昨年夏に国防総省と最大2億ドル規模の契約を締結し、Claudeは機密ネットワークに導入された最初のモデルである
- OpenAI、Google、xAIはいずれも通常ユーザー向けの制限を軍事利用において解除することに同意している
- 国防総省の当局者は、個別の利用ケースごとにAnthropicと交渉する必要がある現状は実用的でないと主張している
詳細解説
国防総省が求める「すべての合法的目的」での利用
Axiosによれば、国防総省は主要なAI研究機関4社に対し、兵器開発、情報収集、戦場作戦など最も機密性の高い領域を含む「すべての合法的目的」での軍事利用を認めるよう求めています。国防総省の高官は、Anthropicが主張する制限範囲には相当なグレーゾーンがあり、個別の利用ケースごとに交渉したり、Claudeが予期せず特定の用途をブロックしたりする状況は実用的でないと述べています。
この「すべての合法的目的」という基準は、機密・非機密の両方の利用に適用されることを国防総省は主張しており、Anthropicとの契約縮小や完全解消を含む「すべての選択肢がテーブルに乗っている」と明言しています。ただし、同高官は代替手段を整える必要があるとも認めています。
Anthropicの安全性方針:2つの禁止領域
Anthropicは、大規模な米国民の監視と完全自律型兵器の2つの領域を利用禁止として譲らない姿勢を示しています。同社の広報担当者は、「米国の国家安全保障を支援するためのフロンティアAIの利用にコミットしている」と述べつつも、これらの制限は同社の利用方針における「厳格な制限」であり、現在の作戦とは無関係だと説明しています。
完全自律型兵器とは、人間の介入なしに標的の選択や攻撃の決定を行う兵器システムを指すと一般的に理解されています。国際的には、このような兵器システムの開発や配備について倫理的・法的な議論が続いており、一部の国や市民社会組織が規制を求めています。Anthropicの方針は、こうした国際的な議論と軌を一にするものと考えられます。
マドゥロ拘束作戦での使用が緊張を高める
緊張が最近高まったきっかけは、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を拘束する軍事作戦において、AnthropicのパートナーであるAIソフトウェア企業Palantirを通じてClaudeが使用されたことでした。国防総省高官によれば、Anthropicの幹部がPalantirの幹部に対し、作戦でClaudeが使用されたかどうかを問い合わせたとのことです。
同高官は、「その作戦では明らかに交戦があり、人が撃たれたため、ソフトウェアが使用されたことに難色を示すような形で問い合わせが行われた」と述べています。ただし、Anthropicの広報担当者はこれを明確に否定し、「国防総省と特定の作戦におけるClaudeの使用について議論していない。技術的な事項に関する日常的な議論以外で、業界パートナーとも議論していない」と説明しています。
この齟齬は、国防総省とAnthropicの間の認識の違いを示していると思います。軍事作戦での具体的な使用方法について、両者がどこまで情報共有すべきか、という根本的な問題が浮き彫りになっています。
他のAI企業との比較
Axiosによれば、OpenAIのChatGPT、GoogleのGemini、xAIのGrokはすべて非機密環境で使用されており、3社とも通常ユーザーに適用される安全ガードレールを国防総省との作業において解除することに同意しています。国防総省は現在、これらのモデルを機密空間に移行することについて交渉しており、機密・非機密の両方で「すべての合法的目的」基準を適用することを求めています。
国防総省高官の主張では、3社のうち1社がすでにこれらの条件に同意し、残りの2社もAnthropicより柔軟な姿勢を示しているとのことです。また、同高官は「他のモデル企業は専門的な政府向けアプリケーションにおいて遅れている」と認め、Claudeを迅速に置き換えることは困難だと述べています。
この状況は、AI企業の安全性方針の違いを浮き彫りにしています。Anthropicは技術が制御不能になるリスクについてCEOのダリオ・アモデイ氏が繰り返し懸念を表明してきたことで知られており、国防総省高官も同社を「技術の潜在的危険性に関して最もイデオロギー的」なAI研究機関だと評しています。
Anthropicの機密ネットワーク導入実績
Anthropicは昨年夏に国防総省と最大2億ドル規模の契約を締結しました。Claudeは国防総省が機密ネットワークに導入した最初のモデルであり、この点でAnthropicは先駆者としての実績を持っています。
同社の広報担当者は「だからこそ、当社は機密ネットワークにモデルを配置した最初のフロンティアAI企業であり、国家安全保障の顧客向けにカスタマイズされたモデルを提供した最初の企業です」と述べ、国家安全保障分野へのコミットメントを強調しています。
また、Claudeは現在、国防総省を含む政府全体で、情報関連の幅広い用途に使用されており、同社の利用方針に沿った形で運用されているとのことです。
内部のバランス:エンジニアの懸念
Axiosの報道では、AnthropicがCEOの安全性への懸念に加えて、国防総省との協力をめぐる社内エンジニアの不安にも対処する必要があると指摘されています。この内部の力学に詳しい情報源によると、技術者コミュニティの中には軍事利用に対する倫理的な懸念を持つ者もいると考えられます。
AI企業における倫理的な企業文化と、国家安全保障への貢献という要請のバランスは、業界全体で議論されているテーマです。Anthropicの場合、創業時から「AI安全性」を中核価値として掲げてきた経緯があり、この姿勢が社内外のステークホルダーからの期待を形成していると思います。
まとめ
AnthropicとDepartment of Pentagon との契約をめぐる対立は、AI技術の軍事利用における安全性と実用性のバランスという根本的な問題を浮き彫りにしています。完全自律型兵器や大規模監視への制限を堅持するAnthropicの姿勢は、同社の企業理念を反映していますが、「すべての合法的目的」での利用を求める国防総省との間には大きな隔たりがあります。今後の展開は、AI業界全体の軍事協力のあり方に影響を与える可能性があると考えられます。

