はじめに
NVIDIAが2026年2月3日、金融サービス業界における第6回年次調査レポート「金融サービスにおけるAIの状況」を発表しました。800名以上の金融業界関係者を対象とした本調査では、AI投資が実験段階から収益化段階へ移行し、明確な投資対効果を生み出していることが明らかになりました。本稿では、この調査結果をもとに、金融業界におけるAI活用の現状と今後の方向性を解説します。
参考記事
- タイトル: パイロット運用から収益化へ:金融サービス業界では AI 投資とオープンソースの活用が倍増していることが調査で明らかに
- 著者: Kevin Levitt
- 発行元: NVIDIA公式ブログ
- 発行日: 2026年2月3日
- URL: https://blogs.nvidia.co.jp/blog/ai-in-financial-services-survey-2026/
要点
- NVIDIAの第6回年次調査によれば、金融機関の89%がAI活用によって年間収益の増加と年間コストの削減を達成した
- 経営陣の73%がAIを将来の成功に不可欠と認識し、ほぼ全企業が今後1年間でAI予算を増額または維持する計画である
- 回答者の84%がオープンソースモデルやソフトウェアを自社のAI戦略において重要と評価している
- エージェント型AIの活用が進んでおり、42%が使用または評価中で、21%がすでに本番導入している
- AI活用は概念実証段階から本番環境での実装段階へと移行し、不正検知、リスク管理、カスタマーサービスなど重要業務での成果が明確化している
詳細解説
AI投資の投資対効果が明確化
NVIDIAの調査によれば、金融機関の89%がAI活用によって年間収益の増加と年間コストの削減を達成したと回答しました。具体的には、64%の回答者がAIによって年間収益が5%以上増加したと述べており、そのうち29%は10%以上の増加を実現しています。
コスト面でも同様の成果が見られ、61%がAIによって年間コストが5%以上削減されたと回答し、25%は10%以上の削減を達成しました。
投資対効果をもたらしたAIのユースケースとしては、文書の処理と管理、顧客体験とエンゲージメント、アルゴリズム取引、リスク管理など、幅広い業務領域が挙げられています。このように具体的な成果が数値で示されることで、AI投資の正当性が経営レベルで認識されつつあると考えられます。
回答者の52%が、金融サービスにおいてAIがもたらした最大の改善点として業務効率の向上を挙げており、48%が従業員の生産性向上を最大の成果の一つとしています。これらの数値は、AIが単なる技術的な実験ではなく、実際のビジネス成果を生み出すツールとして定着しつつあることを示していると言えます。

オープンソースモデルが金融AI戦略の中核に
調査によれば、回答者の84%が「オープンソースモデルやソフトウェアは自社のAI戦略において重要である」と回答し、そのうち43%が「非常に重要」または「極めて重要」と評価しています。

オープンソースモデルが注目される理由として、柔軟性と効率性が挙げられます。金融機関は自社のニーズに合わせて開発ツールをカスタマイズし、独自のデータを組み込むことで精度をさらに高めることができます。
Tigon Advisory CorpのCEO、Helen Yu氏は「自社の取引データ、顧客とのやり取りの履歴、市場インテリジェンスを使ってこれらのモデルをファインチューニングし、競合他社には真似できないAI機能を構築することで、真の価値が生まれる」と述べています。
オープンソースモデルの活用は、ベンダーロックインを回避し、コスト効率を高める手段としても有効と考えられます。ただし、Evident Insightsの共同創設者Alexandra Mousavizadeh氏が指摘するように、ドメイン特化型タスクでは独自のアプローチがより優れたパフォーマンスを発揮することもあるため、状況に応じて最適なモデルを選択する能力が求められると思います。
AIエージェントの導入が加速
調査では、エージェント型AIの活用が急速に進んでいることも明らかになりました。NVIDIAによれば、42%の回答者がエージェント型AIを使用または評価しており、21%がすでに本番環境でAIエージェントを導入していると回答しています。
AIエージェントは、高レベルの目標に基づいて、リーズニング、計画、複雑なタスクの実行を自律的に行うよう設計された高度なAIシステムです。従来のルールベースのシステムと比較して、状況に応じた柔軟な判断が可能になると考えられます。
Gefferie Groupの決済ストラテジスト、Dwayne Gefferie氏は「エージェント型AIシステムによって、取引を最適な決済ネットワークへ自律的にルーティングし、リアルタイムの発行元のシグナルに基づいてリトライロジックを動的に調整できるようになった。従来のルールベースのシステムでは不可能だった200ミリ秒未満でのルーティング判断が可能」と述べています。
このように、決済業務において具体的な成果が報告されており、承認率がわずか1ベーシスポイント改善するだけでも直接的な収益向上につながる点が、AIエージェント投資の魅力となっていると思います。
AI活用の成熟度が上昇
調査では、金融機関におけるAI活用の成熟度が顕著に上昇していることも示されました。NVIDIAによれば、自社でAIを積極的に活用していると答えた回答者は65%に上り、前年の45%から大幅に増加しています。
生成AIについても、使用または評価していると答えた回答者は61%で、前年比で52%増加しました。この数値は、金融機関が概念実証(PoC)段階から本番環境でのAIアプリケーション導入へと移行していることを示していると考えられます。
経営陣の73%がAIを将来の成功に不可欠であると回答し、ほぼ全員が今後1年間でAI予算を増額または維持すると述べています。具体的には、約41%が既に成果を上げているAIソリューションへの再投資や改善など、AIワークフローや本番運用の最適化に投資すると回答しています。
また、34%が組織内でAI活用を拡大することを視野に入れ、追加のユースケースを見つけることに予算を投じており、30%がオンプレミスやクラウドなどのAIインフラの構築やアクセス拡充に重点を置いて投資すると答えました。
このように、AI投資の焦点が実験から実装・拡大へとシフトしていることが、明確な数値として表れていると言えます。
まとめ
NVIDIAの調査は、金融サービス業界におけるAI活用が実験段階から収益化段階へと明確に移行していることを示しています。89%が投資対効果を実感し、オープンソースモデルとAIエージェントの活用が加速する中、金融機関はAIを競争力の源泉として位置づけつつあります。今後、独自データを活用した差別化と、状況に応じた最適なAI技術の選択がより重要になると考えられます。
