[開発者向け]AnthropicがOSS向け無料脆弱性スキャン「OSS Scanner」を開始——人の確認を待たずに最新報告を届ける

目次

はじめに

 Anthropicは2026年10月8日、オープンソースソフトウェア(OSS)向けの参加型の脆弱性スキャンサービス「OSS Scanner」を開始しました。Project Glasswingでの経験をもとに、同社の最も強力なモデルが定期的に無料でセキュリティ診断を行います。本稿では、その仕組みと検証結果、参加方法を整理します。

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要点

  • OSS Scannerは、参加を申し込んだOSSプロジェクトに、Claude Mythosを含む最も強力なモデルで定期的な脆弱性スキャンを無料で提供するサービスである
  • 報告はモデルが生成したもので、人によるレビューや仕分けを経ないため、迅速に届く一方で誤りを含む可能性がある
  • 各報告には、単体で動く再現手順、脆弱性の説明、可能な場合は修正パッチの候補が含まれる
  • 初期版の検証では、48プロジェクトの重大・高深刻度の指摘97件のうち88%が同社の開示基準を満たし、誤検知は1件だった
  • 参加資格はOSS-Fuzzに近い基準で判断され、重要なプロジェクトのコアメンテナーがGitHubのリポジトリにPRを送って申し込む

詳細解説

背景:見つかる脆弱性に人の確認が追いつかない

 Anthropicによれば、言語モデルの脆弱性発見能力は急速に向上しています。学術的な脆弱性発見のベンチマークCyberGymでは、LLMが見つけられる脆弱性の割合が、昨年初めの20%未満から今年は85%超に上がりました。その結果、OSSのメンテナーがLLMから受け取る報告も、質の低いものが中心だった状態から、質の高いバグ報告へと変わったとしています。

 同社は過去6か月、最新のモデルで世界の重要なソフトウェアプロジェクトの脆弱性を探してきました。見つかった脆弱性の候補は2万9,000件を超えましたが、人手で確認・仕分けできたのは約6,000件にとどまります。6,000件は大きな数ですが、発見を検証する人の能力がボトルネックになっているといいます。Project Glasswingの開始1か月で1万件を超える脆弱性が見つかった頃から、発見の速さに検証が追いつかない構図は続いていると読めます。

 一方で、最初の報告を受け取ったメンテナーから、未検証の報告と修正案をまとめて送ってほしいと求められることが増えています。これまでに、未検証でもすべてほしいと希望したメンテナーに、約5,000件の報告を直接送ったといいます。現在はエクスプロイト(脆弱性を悪用する攻撃コード)を数分で作れるため、脆弱性を早く見つけて対処できるプロジェクトほど、同じ弱点を急いで探す攻撃者からソフトウェアを守りやすくなるという考えです。

 同社は、人が確認した脆弱性報告を、既存の協調的脆弱性開示(CVD:発見者と開発者が連携して修正前に公表を控える手順)で引き続き手作業で開示していくとしています。特に、自分たちで報告を仕分ける余力のないプロジェクトにはこの方法を続け、そのうえで、報告ができ次第すぐに受け取りたいプロジェクト向けに、任意の「優先ルート」を用意したという位置づけです。

 本稿としては、「人の確認を待つ安全さ」と「早く知ることの安全さ」のどちらを取るかを、プロジェクト自身が選べるようにした点が、この仕組みの要だと受け止めています。発見が人の確認を上回る状況では、報告を受け取る側の体制づくりも問われていると考えられます。

OSS Scannerの仕組み

 OSS Scannerは、ファジング(ランダムな入力を大量に与えて不具合を探す手法)でOSSの脆弱性を探すGoogleの「OSS-Fuzz」が、OSSのエコシステムにもたらした良い影響に着想を得て作られました。企業のシステム防御を支援する一般向けのコードスキャン・修正製品「Claude Security」とは別に、OSSプロジェクトに無料でセキュリティ監査を提供します。

 主な特徴は次のとおりです。

  • 完全にモデル生成の報告: 人によるレビューや仕分けを経ないため、より速く頻繁にスキャンできる一方、報告が誤っていたり無効だったりする可能性がある
  • 最も強力なモデルを使用: Claude Mythosを含む同社の最も強力なモデルで生成し、OSSプロジェクトに最大の防御上の優位をもたらすことを目指す
  • 報告の中身: 単体で動く再現手順、脆弱性の説明(可能な場合は、バグが入り込んだ時点を二分探索で特定する「バイセクション」の結果を含む)、修正パッチの候補(ある場合)

 同社は過去数週間、数十のOSSプロジェクトでこの仕組みを検証しました。初期の開示には数百件のバグ報告が含まれ、組み合わせると認証なしで遠隔からコードを実行できる(RCE)攻撃につながる複数の脆弱性も見つかったといいます。今回、このサービスをより多くのプロジェクトに広げます。

 再現手順と修正案がセットになっている点は、メンテナーの負担を考えると重要だと思います。報告を受け取った側が「本当に起きるのか」をすぐ確かめられ、直し方の出発点も得られるため、限られた人数で運営されている多くのOSSにとって使いやすい形だと考えられます。

メンテナーからの評価

 初期版のOSS Scannerとモデルの生の出力を試したメンテナーからは、次のような声が寄せられています。

  • PostgreSQL(Noah Misch氏): 指摘のうちPostgreSQLの欠陥を突き止めたものの割合が非常に高く、ほぼそのまま使える修正案付きの報告もあった。優先ルートのおかげで、最新の問題を正式リリース前に修正できた
  • OpenSSL Corporation(Anton Arapov氏): Project Glasswing以前、約18か月前のAIによる報告はひどいものだったが、Anthropicからの報告は、モデルの生の出力も含め、人からの報告と同等かそれ以上だった。特に実際のエクスプロイトが添付されていると、すぐに検証できるため、エンジニアの作業はほぼ終わったも同然だという
  • wolfSSL(Todd Ouska氏): 受け取った74件のうち2件を除いてすべて有効で、5件がCVE(公開された脆弱性の識別番号)になった。パッチが添付されていたため、既存の検証・修正の手順にそのまま組み込めた
  • HotCRP(Eddie Kohler氏): HotCRPの複雑な権限モデルをよく理解した、丁寧で明確な報告で、優先順位づけも適切だった
  • curl(Daniel Stenberg氏): 対処に値する複数の問題が見つかり、その中にはここ数年で報告されたcurlの脆弱性の中でも最も深刻なものの1つが含まれていた

 curlのStenberg氏は、かつてAIが生成した質の低いバグ報告に悩まされてきたことを公に語ってきた人物として知られています。本稿としては、そうした立場のメンテナーが価値を認めている点に、AIによる脆弱性報告の質の変化がよく表れていると受け止めています。

精度の検証結果

 初期版を検証するため、Anthropicは、CVDの発見を確認している専門のペネトレーションテスター(侵入テストの専門家)に、48プロジェクトから見つかった重大・高深刻度の脆弱性97件を確認してもらいました。結果は次のとおりです。

区分件数
同社のCVDの基準を満たした85件(88%)
本物だが既知の問題やスキャン内の他の指摘と重複11件
無効(誤検知)1件

 その後、多くの指摘をメンテナーに送りましたが、重大・高深刻度の指摘が無効だと言われることはまれで、これまでのOSSでの取り組みと一致しているといいます。一方で、深刻度の評価が過大な場合や、スキャナーがプロジェクトの脅威モデル(どのような攻撃を想定して守るか)を誤解している場合があるとの指摘も受けています。同社は、スキャナーが完璧だとは保証できないものの、メンテナーの意見とモデルの改良に基づいて改善を続けるとしています。

 「重大・高深刻度」に絞った検証である点には注意が必要だと思います。それより深刻度の低い指摘の精度は、この数字からは分かりません。参加を検討するプロジェクトは、報告を受け取る量と、それを確認する自分たちの体制のバランスを考えておくことが大切だと考えています。

参加方法

 対象となるプロジェクトのコアメンテナーは、標準のプロジェクト用テンプレートに沿って、指定のGitHubリポジトリにプルリクエストを送ることで申し込めます。詳しい案内は拡張版のFAQで提供されています。参加資格はOSS-Fuzzと同様の基準で判断され、プロジェクトがインフラや利用者のセキュリティに重大な影響を持つことが求められ、個別に判断されます。

 OSS Scannerが合わない場合の選択肢として、同社は2つのプログラムも案内しています。

  • Cyber Verification Program: 資格のあるセキュリティ専門家に、高度なサイバー機能と、遮断の少ない分類器を提供する
  • Claude for OSS: 脆弱性の修正やOSSプロジェクトの改善のために、Claude Max 20xのサブスクリプションを無料で提供する

 日本でも、多くの企業やサービスがOSSに支えられています。国内のメンテナーが関わる重要なプロジェクトにとっても、無料で最先端モデルの診断を受けられる選択肢が増えたことは意味があると思います。

まとめ

 OSS Scannerは、人の確認を待たずにモデルの報告を受け取れる選択肢をOSSに提供します。早く知ることと誤報への備えのバランスを各プロジェクトが選べる点が特徴だと思います。Claude Code Securityによる脆弱性検出もあわせてご覧ください。

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