はじめに
OpenAIの開発者ブログが2026年9月4日、新モデル「Astra」で住宅の3Dビジュアライゼーションを制作した記録を公開しました。本稿では、一文のブリーフからBlenderの編集可能なシーンを立ち上げ、Unreal Engine 5で歩き回れるようにするまでの進め方を解説します。
参考記事
メイン記事:
- タイトル: Architectural visualization with Astra
- 著者: Thomas Ricouard
- 発行元: OpenAI Developers Blog
- 発行日: 2026年9月4日
- URL: https://developers.openai.com/blog/architectural-visualization-with-astra
関連情報:
- タイトル: GPT-6 Astra: A new generation of intelligence
- 発行元: OpenAI
- 発行日: 2026年9月3日
- URL: https://openai.com/index/gpt-6-astra/
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要点
- 最初のプロンプトは「ミニマルだが精緻な家具と庭を備えた美しい家を、シネマティックな照明で」という結果の記述のみであり、間取り図も家具リストも与えていないとされる
- AstraはBlenderのPython API(bpy)経由で編集可能なシーンを生成し、自らプレビューレンダリングを点検して構図・照明・植栽の干渉などを修正したと説明されている
- 家を大型化する段階では、モデリングに入る前に間取り図を作成して方向性を確認し、その承認後に部屋を構築する手順が取られた
- 30秒のカメラツアーは1080p・30fpsの900フレームをCyclesで個別にレンダリングし、フレーム補間なしで映像化された
- BlenderのシーンはFBXとJSONのシーン記述を介してUnreal Engine 5へ移植され、一人称の歩行操作に加えてドアや照明、エスプレッソマシンの操作が実装された
詳細解説
一文のブリーフから編集可能なシーンへ
Astraは、2026年9月3日にOpenAIが公開した新しいフラッグシップモデルで、コンピュータ操作やソフトウェア開発を得意とすると説明されています。今回の記事は、そのAstraをCodex上で使い、3Dシーンを作らせた実践記録にあたります。
最初の指示は、間取り図も家具の指定も含まない一文でした。美しい家、ミニマルだが精緻な家具、庭、そして光と素材と時間帯を考慮したシネマティックな雰囲気。これに対してAstraは、BlenderのPython API(bpy)を通じて編集可能なシーンを構築し、建築、造作、家具、植栽、マテリアル、ライト、カメラまでを生成しました。著者はこの家を「Solace」と名付けています。
注目されるのは、Astraが一度の生成で終わらず、自分の出力を点検していた点です。プレビューレンダリングを確認して構図と照明を調整し、植栽の干渉やソファに掛けたスローの状態といった細部を修正したと記されています。画像を生成するのではなく、後から編集できるジオメトリとして出力されるため、 この時点の成果物がそのまま次の工程の入力になる という構造になっています。この違いは、生成物を作品として受け取るか、作業中のデータとして受け取るかの分かれ目だと考えられます。
間取り図を先に描いてから建てる
次に著者は、家族が実際に暮らせる規模の住宅への拡張を求めます。ここで出された指示は「まず間取り図を描いてほしい。それを検証してから発展させよう」というものでした。
Astraが提案したのは、植栽のある中庭を囲む平屋のコの字型プランです。中央の棟にリビング、ダイニング、キッチンを置き、両翼に3つの寝室、書斎、浴室、ドレッシングルームを配置しています。さらにパントリー、ランドリー、収納といった裏方の空間も含まれていました。
この段階を挟んだことで、部屋が通路化していないか、翼棟の間の移動がキッチンの作業動線を横切らないかといった、家具を足すだけでは答えの出ない論点を先に確認できたと説明されています。生成AIに大きな成果物を一度に作らせるのではなく、 構造を決める図面の段階でいったん止めて合意を取る という進め方は、3D制作に限らず応用の効く型ではないかと思います。
なお著者は、この間取りはあくまでビジュアライゼーションであり、実際の建築に用いるには敷地・構造・建築基準の専門的な検討が必要だと明記しています。
家具・素材・照明を詰めていく
拡張版の「Garden House」では、家具のモデリングが部屋の説得力を支えました。ソファのクッションとパイピング、曲面の椅子フレーム、書籍、中空の陶器。ベッドはフレーム、すのこ、マットレス、成形された寝具まで作られ、ワードローブには内部の棚とハンガーパイプがあります。書斎の机にはケーブルマネジメント、モニター、キーボード、キャスター付きの椅子が置かれました。
クッションや寝具は布シミュレーションではなく形状として作られているため、結果が計算に依存しない点も触れられています。キッチンや浴室でも、シンクや洗面ボウルに実際の開口と中空形状が与えられ、オーブンの内部やカトラリーの引き出し、パントリーの棚まで作り込まれました。
マテリアルにはPoly Havenのスキャンテクスチャ(オーク、ウォールナット、プラスター)が併用され、木目の向きと縮尺が家具の寸法に合わせられています。作業中には、ステンレスシンクの法線(面の向きを示す情報で、光の当たり方を左右する)が原因でボウルの平坦部が歪んで見える問題が見つかり、法線とエッジの丸みを修正して解決したという記述もあります。近距離のカットに耐えるかどうかは、こうした細部の積み重ねで決まると言えます。
仕上げの段階では、照明も見直されました。部屋を平坦に見せていた隠しフィルライトを削除し、残る光を暖色寄りにして、光源を実際に見えている器具と一致させています。天井照明をモデリングし、光を透過するシェードの内側に発光する電球を配置したことで、ハイライトと影が室内の物と対応するようになったと説明されています。あわせて、皿やカトラリー、開いた日記、眼鏡、マグ、鍵といった生活の痕跡が加えられました。
30秒のカメラツアーを演出する
著者は次に、1080pで30秒の家のツアーを、動きのある人間的なカメラワークで作るよう依頼します。Astraはこれを4つのカットに分け、主棟、書斎、浴室、寝室を巡る構成にしました。
カメラは床から約1.65メートルの高さに置かれ、24〜26mmのレンズが選ばれています。カットの始めと終わりで速度をイージングし、抑制した歩行の揺れを加え、視線を家具や外の景色へ向ける。プレビューで無地の壁を映し続けていたショットや、終わり方が不自然なショットは作り直されました。建築を明瞭に見せるため被写界深度は使わず、Cyclesで900フレームを個別にレンダリングし、適応サンプリングとOpenImageDenoiseでノイズを抑えています。
この工程は、動画生成モデルで映像を作るのとは性質が異なります。フレーム補間を行わず、確定したシーンからレンダリングしているため、映っている家具は先の工程で作った同じジオメトリです。整合性が保証される一方、1フレームずつ計算する時間がかかる方式だと言えます。その後、プールを含む屋外の5秒が追加され、4Kの静止画5点も出力されました。
Unreal Engine 5で歩き、触れるようにする
プロジェクトの途中では、家をUnreal Engine 5で歩けるようにする作業も行われています。Astraは承認済みのBlenderファイルを起点に、エクスポートとインポートのパイプラインを自作しました。評価済みのジオメトリをFBXで書き出し、あわせて各パーツの配置、使用マテリアル、ライトとカメラの位置を記録したJSONのシーン記述を生成しています。
移行時には、BlenderのメートルとUnrealのセンチメートル、座標系の向きの違いが処理され、繰り返し使われる樹木は共有ジオメトリのインスタンスとして扱われました。マテリアルはBlenderとUnrealで仕組みが異なるため、対応するUnrealマテリアルを組み直しています。ただし一部のシェーダー挙動は近似であり、見た目を合わせるには目視の確認が必要だったと記されています。
最後に一人称キャラクター、歩行操作、開始地点、そしてコリジョンが加えられました。床は歩ける、壁と家具とガラスは通り抜けられない、近くの木の幹は障害物にするが、すべてのシダを見えない壁にはしない。最終的にはmacOS用のネイティブアプリとしてパッケージされています。
その後の更新では、ドアや引き出しの開閉、照明のオンオフ、エスプレッソマシンの操作といったインタラクションが追加されました。抽出のシーケンスはボタンを押し、カップにコーヒーを注ぎ、液面が上がるところまで再現されています。Blenderで作った細部に振る舞いが与えられたかたちで、モデルを見るだけでは分からない空間の使い勝手を確かめる手段になっていると考えられます。
建築以外への応用
著者は同じ進め方を別の題材にも適用しています。太陽を囲むダイソン球を作る「HELIOS」では、収集パネルが数千枚単位で作られ、地球側から見た構成では5,120枚の外殻に3つの開口が設けられました。宇宙船を作る「Shipyard」では、船体のパネルや継ぎ目、ドッキング機構が後段のパスで追加されています。モネのジヴェルニーの庭を参照した水の庭も、参考資料を調べたうえで周囲の建物や植栽が発展させられました。
いずれの例でも、Astraがプレビューを見て自分で問題を見つけ、次のパスで直しているという構造は共通しています。OpenAIによれば、Astraは複数視点のレンダリングから3Dオブジェクトを再構成するBenchCADで95.9%のスコアを記録しており、立体を扱う作業への適性が示されています。ただしこれは提供元による評価であり、実際の制作では今回のように人間が方向性を決め、出力を見て次の指示を出す往復が前提になっていると言えます。
まとめ
一文のブリーフから間取り図の合意、家具と照明の作り込み、そして歩ける空間へ。今回の記録で一貫していたのは、AIに任せる範囲と人が決める範囲を工程ごとに切り分けている点だと思います。AIと3D制作ツールの連携については、過去記事でも整理していますので、あわせてご覧ください。
