[ニュース解説]Claudeがリーマン予想の関連問題で新結果——臨界線上の零点の下限を41.6%から67.2%へ

目次

はじめに

Anthropicが2026年8月10日、未公開の研究版Claudeがリーマン予想に関連する未解決問題で新たな結果を得たと発表しました。リーマンゼータ関数の零点のうち仮説を満たす割合の下限が、41.6%から67.2%に更新されています。本稿では、その内容と検証の経緯を解説します。

参考記事

メイン記事:

関連情報:

  • タイトル: Zeta23 — a Lean 4 formalization of “More than two thirds of the zeros of the Riemann zeta function lie on the critical line”
  • 発行元: Anthropic (GitHub)
  • URL: https://github.com/anthropics/zeta-23-lean

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要点

  • 未公開の研究版Claudeが、リーマンゼータ関数の零点のうち臨界線上にある割合の下限を41.6%から67.2%に引き上げたとAnthropicが発表した
  • 発端は社員による「リーマン予想に本気で挑んでほしい」という指示であり、今回の結果はその過程で生まれた副産物である
  • 探索はClaude Code上の2セッションで行われ、出力トークンは合計3,100万、約60体のサブエージェントが動員された
  • 結果はAnthropic所属の数学者2名と外部の専門家2名が確認し、Lean 4による形式的証明がGitHubで公開されている
  • Anthropicは、今回の手法がリーマン予想そのものの証明につながるとは見ていないとしている

詳細解説

リーマンゼータ関数と「臨界線上の零点」という問題

 リーマン予想は1859年に提示された未解決問題で、クレイ数学研究所のミレニアム懸賞問題として100万ドルの賞金が設定されています。Anthropicの説明によれば、リーマンゼータ関数は素数の分布を記述する関数で、この関数が0の値をとる点(零点)のひとつひとつが素数の並びに関する情報を加えていきます。リーマン予想は、そうした零点がすべて特定の垂直な直線(臨界線)上にあるという主張です。

 予想そのものは現在も証明も反証もされていませんが、周辺では研究が積み重ねられてきました。そのひとつが、「零点のうち少なくとも何割が臨界線上にあるか」を保証する下限を上げていく研究です。この定数は長い時間をかけて41.6%まで引き上げられていました。証明の全体に手が届かなくても、確実に言えることを少しずつ増やしていく進め方だと考えられます。

41.6%から67.2%へ——Claudeが見つけた組み合わせ

 Anthropicによれば、今回Claudeが見つけたのは、既存研究の組み合わせ方でした。1973年にMontgomeryが導入した零点の分布に関する手法は、リーマン予想が真であることを前提としていました。近年、Baluyot、Goldston、Suriajaya、Turnage-Butterbaughらの一連の研究によって、この前提なしでMontgomeryの手法を使えるようになっています。Claudeはこの成果と、2000年のBombieriの論文を組み合わせることで、下限を67.2%まで引き上げられることを示しました。

 技術的には、Weilに由来する二次形式を備えた関数空間を構成し、臨界線上の零点と線外の零点を正定値・負定値の部分空間として同時に扱う点が要になっているとAnthropicは説明しています。GitHubで公開されたLean 4版の形式化では結果が定理A〜Eに整理されており、相異なる零点の割合(5/6以上)やディリクレL関数への一般化も含まれています。67.2%は、窓関数を最適化した定理Dに対応します。

60体のサブエージェントによる1日半の探索

 Anthropicによれば、指示を出したのは数学者ではない社員のJarred Sumner氏で、「本気で挑んでほしい」と伝えた後の数学的な判断はモデルに委ねられました。最初にClaudeは650個のアイデアを試しましたが、いずれもうまくいかなかったとされています。2回目の試行では、Claudeは約1日半かけて約60体のサブエージェントを統率し、合計で2,400回のシェルコマンドを実行し、数百本のPythonスクリプトを書いています。内訳は、中心的なアイデアを組み立てた2体、それを補助した13体、アイデアを試みたものの至らなかった30体、議論の正しさを検証する13体、論文の初稿を書いた2体でした。 役割を分けたエージェント同士が互いの成果を査読する 構成で、既知の零点に対する数千回の数値チェックも並行して行われたとされています。

 この間、Sumner氏の入力はほぼ励ましのメッセージに限られていたとAnthropicは記しています。Claudeは当初、意味のある進展を出せることに懐疑的だったとされ、Anthropicはその理由を、未解決問題の難しさやAIモデルの限界を学習してきたためではないかと推測しています。モデルの自己評価が探索の継続を左右し得る点は、長時間の自律タスクを設計するうえで示唆的だと思います。

検証はどう行われたか

 確からしさの確認は複数の層で行われています。Claude自身がサブエージェントに証明のレビューや反例探索をさせたほか、arXivから54本の論文を取得して先行研究との重複を確認し、独立に一から証明し直す作業も行っています。そのうえでClaudeは論文化を自ら提案し、人間の数論研究者による検証を推奨したとのことです。

 実際にAnthropic所属の数学者Levent Alpöge氏とRalph Furman氏が内容を精査し、専門家向けの補足ノートを作成しました。この分野の専門家であるBrian Conrey氏とDan Goldston氏も論文を確認しています。並行して社員のEric Easley氏との協働でLean 4による形式化が作られ、検証ツールcomparatorを通過したとされています。リポジトリには、証明が未完成部分(sorry)を含まず、Lean標準の3公理以外に仮定を置いていないことが明記されています。形式検証まで通っている点は、再現性を確認しやすくする要素だと考えられます。

 AIが数学の未解決問題に関与した事例はこれが初めてではなく、2026年5月にはOpenAIの推論モデルが80年来の離散幾何学の予想を反証した例 もありました。今回はリーマン予想そのものではなく周辺の下限の更新であり、Anthropicもこの手法が予想の証明につながるとは考えていないとしています。それでも、既存研究を横断して組み合わせる作業が自動化されつつある点は、研究の進め方に影響していくと思います。

まとめ

 未解決問題への挑戦から、周辺問題の下限が41.6%から67.2%に更新されました。人間の数学者による確認と形式検証の両方を経ている点が、今回の発表の特徴だと思います。AIと数学の関係については、研究レベルの証明課題への挑戦を扱った過去記事 もあわせてご覧いただければと思います。

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