はじめに
Googleが 、Google DeepMind(GDM)の体制変更を発表しました。デミス・ハサビス氏がGDMのChairとAlphabetのChief Scientistに就き、日々の運営はコライ・カヴクチュオール氏が引き継ぎます。本稿では、人事の中身と背景を整理します。
参考記事
メイン記事:
- タイトル: The next chapter of our AI momentum
- 著者: Sundar Pichai、Demis Hassabis
- 発行元: Google(The Keyword)
- 発行日: 2026年8月5日
- URL: https://blog.google/company-news/inside-google/message-ceo/next-chapter-ai-momentum/
関連情報:
- タイトル: Demis Hassabis no longer DeepMind CEO to focus on new AGI role, Jeff Dean departs
- 著者: Abner Li
- 発行元: 9to5Google
- 発行日: 2026年8月5日
- URL: https://9to5google.com/2026/08/05/demis-hassabis-deepmind/
- タイトル: Google DeepMind CEO Demis Hassabis is stepping aside
- 発行元: Axios
- 発行日: 2026年8月5日
- URL: https://www.axios.com/2026/08/05/google-deepmind-demis-hassabis-ai
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要点
- デミス・ハサビス氏はGoogle DeepMindのCEOを退き、GDMのChairおよびAlphabetのChief Scientistに就任する。Isomorphic Labsの経営は継続する
- 後任として、GDMの最高技術責任者(CTO)兼GoogleのChief AI Architectであるコライ・カヴクチュオール氏がSVPに昇格し、スンダー・ピチャイCEOの直轄となる
- カヴクチュオール氏はGeminiのモデル開発、フロンティアAI研究、Geminiアプリおよび開発者向けチームを統括する
- 27年間在籍したジェフ・ディーン氏はGoogleを離れ、サンジェイ・ゲマワット氏らと公益法人「Discovery Loop」を設立する。Googleは創業投資家兼クラウドパートナーとして関与する
- 発表当日、Alphabetの株価は約4%下落したとAxiosなど複数のメディアが報じている
詳細解説
ハサビス氏が担う「AGIと科学」の役割
ピチャイ氏のメッセージによれば、今回の変更の狙いは、AIフロンティアでの開発を加速させることと、AGI(汎用人工知能)および科学の未来を形づくることの両立にあります。ハサビス氏はこれまで対外的な発信に多くの時間を割いてきており、AGIの将来像に専念できる役割について両氏で長く議論してきたと説明されています。
ハサビス氏自身は社内向けメッセージで、AGIが手の届くところにあると感じており、次の一手を誤らないことが重要だと述べています。そのうえで、GDMの日常的な運営責任を手放し、大きな絵姿に集中する時間を確保する時期だと判断したとしています。新体制でもピチャイ氏と戦略・グローバルなAGI課題で連携し、ロンドンの新オフィス「Platform 37」を拠点にGDM幹部への助言を続ける方針です。
あわせて、創薬AIを手がけるIsomorphic Labsへの関与を強める考えも示されました。AIの第一の応用先は人間の健康の改善であるべきだという同氏の持論は以前から知られており、AIによる「バイオレジリエンス」戦略の公開など、GDMとIsomorphic Labsの連携はすでに具体化しています。今回の役割変更は、その方向性をさらに進めるものだと考えられます。
運営を引き継ぐカヴクチュオール氏
GDMの日々の運営は、カヴクチュオール氏がSVPとして引き継ぎます。同氏はGDMのCTOでありGoogleのChief AI Architectを務めてきた人物で、ピチャイ氏に直接レポートする形になります。担当範囲はGeminiのモデル開発、フロンティアAI研究、Geminiアプリと開発者向けチームで、実質的にGoogleのAI開発の中核を横断する構成です。
ピチャイ氏によれば、カヴクチュオール氏はDeepMindの初期から在籍し、13年の在籍期間中に深層学習チームを立ち上げ、音声合成のWaveNetや強化学習のDQNといった成果を主導してきました。DQNはAtariのゲームを人間並みの水準でプレイした研究として知られ、WaveNetは波形を直接生成する方式で音声合成の品質を大きく引き上げた技術です。いずれも現在のGeminiに直結する技術ではありませんが、GDMの研究の系譜を象徴する仕事だと言えます。
ハサビス氏はメッセージのなかで、次期モデルであるGemini 4の進捗にも触れています。実務面ではすでにカヴクチュオール氏がモデル開発を統括してきた経緯があり、今回の人事はその状態を正式なものにした側面が強いと考えられます。
ジェフ・ディーン氏の退社と「Discovery Loop」
もう一つの大きな変更が、27年間Googleに在籍したジェフ・ディーン氏の退社です。ディーン氏はGoogle初期の検索インフラから、現在のAI時代を支えるニューラルネットワークの研究まで、同社の技術的転換点の多くに関わってきました。今後はGoogle Senior Fellowのサンジェイ・ゲマワット氏とともに、機械学習・科学・工学の発見を加速させることを目的とした独立した公益法人(Public Benefit Corporation)を設立します。
9to5Googleによれば、この新会社は「Discovery Loop」という名称で、Geminiの共同リードを務めていたオリオル・ヴィニャルス氏も参加します。Axiosはさらに、Google Brain共同創業者のクオック・レ氏も加わると伝えています。Googleは創業投資家およびクラウドパートナーとして関与し、機械学習システムと関連インフラの研究フレームワークで協業を続けるとされています。
公益法人という形態は、株主利益だけでなく定款に掲げた公益目的の追求を法的に位置づける仕組みです。研究成果の扱いや資金調達の設計に影響する選択であり、単なるスピンアウトとは異なる意図が込められている可能性があります。
発表の背景にあるGoogleのAI事業の現況
ピチャイ氏は今回のメッセージで、事業の好調さもあわせて示しています。Geminiのモデルは開発者や企業からの需要が高く、Geminiアプリの月間利用者は9億5,000万人を超えたとされています。オープンモデルのGemmaは累計ダウンロード数が9億回を突破し、Flashモデルは高い需要があり、サイバーセキュリティ向けモデルも稼働中だと説明されました。
同時に、改善が必要な領域に注力しているという記述も含まれています。ハサビス氏がメッセージの結びで、インフラからクラウド、フロンティアモデル、AIファーストのアプリケーションまで全レイヤーを備えた唯一の企業だと述べている点は、Googleが掲げてきたフルスタック戦略の延長線上にある主張だと言えます。
一方、市場の受け止めは慎重でした。Axiosは、発表を受けてAlphabetの株価が4%超下落したと伝えています。長年AI部門の顔だった2人が同日に役割を変えたことで、体制移行の不確実性が意識された面があると考えられます。もっとも、ハサビス氏はGoogleを離れるわけではなく、助言役として残る構図です。実際の影響は、Gemini 4をはじめとする次期モデルの完成度と提供時期によって評価されていくのではないかと思います。
まとめ
今回の発表は、ハサビス氏をAGIと科学の長期テーマに、カヴクチュオール氏をモデル開発と製品の実行に、それぞれ役割を分けた再編だと整理できます。ディーン氏の退社という節目も重なりました。Googleの全体戦略については、フルスタック戦略を扱った記事もあわせてご覧いただければと思います。
