[ニュース解説]AIを禁止も放置もせずに教える——米国初の「AIテーマ」公立高校の取り組み

目次

はじめに

 IBM Thinkは2026年9月17日、米国初の「AIテーマ」公立高校を名乗るジョージア州のセッキンガー高校を取材した記事を公開しました。本稿では、同校のAI教育の枠組みと授業の実例、米国の学校現場の調査データ、各地の教育政策の動きを整理して紹介します。

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要点

  • セッキンガー高校はChatGPT公開の3か月前の2022年に開校し、6つの要素からなるAIフレームワークを全教員の授業に組み込んでいる
  • 同校では、AIツールを使う前に少なくとも1週間、その倫理的な使い方を教えることになっている
  • 同校の生徒は数学・読解・科学で州平均を上回っている
  • IBMの調査では、教員の62%がAIを授業などに使う一方、生徒のAIリテラシーを支える準備ができていると答えたのは27%にとどまる
  • 少なくとも35州が学校向けのAIガイダンスを公表し、27州がAI教育に関する法案を検討している

詳細解説

「AIテーマ」を掲げる公立高校

 記事によれば、セッキンガー高校はアトランタ郊外のジョージア州ビュフォードにあり、ChatGPT公開の3か月前にあたる2022年に、全米初の「AIテーマ」公立高校として開校しました。使命として、新しい技術を恐れずに取り入れ、AIが将来のキャリアにとって重要な道具であり鍵となるスキルだと生徒に示すことを掲げています。AIに関する科目と、全教員が授業で使うAIフレームワークを通じてこれを実践しており、職場で求められるのと同じように、AIを責任を持って効果的に使う方法を学ぶべきだという考えに立っています。

 同校には全米の学区から注目が集まっており、他の学区の担当者に向けた見学や手法の説明を定期的に行っています。AIを積極的に取り入れる流れは広がっており、ニューヨーク市は小中学校でのAI利用を1年間停止すると発表する一方で、高校生にはAIの仕組みや偏り、リスク、倫理、キャリアへの影響を学ぶ「AIクリティカルシンキング」の単元を導入しました。

教員・保護者調査が示す準備不足

 一方で、多くの学校にはこうした計画がありません。IBMが依頼し、Morning Consultが実施した米国のK-12(幼稚園から高校まで)の教育者・管理職・保護者への調査では、AIの普及に学校の準備が追いついていない実態が示されています。

  • 教員の62%がAIを授業や指導に使っており、58%が週に1回以上教室で使っている
  • 生徒がAIを理解していると答えたのは50%で、責任を持って使えている、職場で使う準備ができていると考える人はさらに少ない
  • 52%が、生徒がAIに過度に依存することを懸念している
  • 生徒のAIリテラシーを支える準備が十分にできていると感じているのは27%にとどまる

 保護者1,029人のうち77%が子どもの教室でのAIの使われ方に意見を言いたいと答えた一方、学校で子どもが受けているAIの指導を明確に理解しているのは20%でした。

 記事は背景として、生徒が直面する厳しい進路状況も挙げています。大学出願先が広がって合格率が下がり、就職市場も応募の増加と景気の減速で競争が激しくなっています。世界経済フォーラムの報告書は2030年までに約1億7,000万の新たな雇用が生まれると予測する一方、既存の9,200万の雇用が置き換わるとしています。2026年卒業生は高校生活のすべてをこの技術とともに過ごした最初の世代で、テキサス州の卒業生アンジェリン・リーさんは「AIが真似できない、自分が突出して得意な分野を見つける必要がある」と語っています。

 こうした状況で、AIを全面的に禁止したり、教室での手書きを義務づけたりする学校もあれば、方針がないまま教員が手探りしている学校もあります。技術の進化が速く、作った方針がすぐ古くなることを管理職が恐れている点が、多くの学校に共通する課題だと記事は指摘しています。

「Netflixが来る」——6要素のAIフレームワーク

 同校のAIフレームワークづくりの中心となったのは、2017年にグイネット郡公立学区のイノベーション担当責任者に就いたババク・モスタギミ氏です。グイネット郡はジョージア州最大、全米でも有数の規模を持つ公立学区で、18万2,000人以上の生徒が在籍しています。当時の教育長からは「私たちはBlockbuster(かつての大手レンタルビデオチェーン)で、Netflixがやってくる」と、学区にとっての脅威と対応策を探るよう指示されたといいます。同氏はマッキンゼー・グローバル・インスティテュートの報告書をもとに、若者を将来に備えさせるうえでの存亡に関わる脅威はAIと自動化の組み合わせだと結論づけ、学区は2019年にAI学習フレームワークを公開しました。

 2022年に開校したセッキンガー高校には、このフレームワークが最初から組み込まれています。6つの要素は次のとおりで、教員は授業計画から実際の指導まで、1つ以上の要素を取り入れるよう求められています。同校に進学する小学校3校と中学校1校も同じフレームワークに従っています。

  • プログラミング: コーディングのスキルと論理的思考を身につける
  • データサイエンス: AIが機械学習モデルだけでなく、スプレッドシートやグラフのような道具にも広く組み込まれうることを学ぶ
  • 数学的推論: 計算論的思考を学び、あらゆる式や手順がアルゴリズムであることを理解する
  • 創造的問題解決: AIをブレインストーミングやデザイン思考、仲間との協働に役立てる(人気の高い要素)
  • 倫理
  • 応用経験: 上級の工学系の授業で特に多く取り入れられている

 選択制の3科目からなるAIコースも用意されており、AIの歴史を学ぶ「AIの基礎」、倫理的な使い方を学ぶ「AIの概念」、基本的な使い方を学ぶ「AIの応用」で構成されています。

 生徒のガブリエル・ワトキンスさんによれば、最も重要なのは倫理です。教員がAIツールを紹介する前には、少なくとも1週間その倫理的な使い方を教えることになっており、フレームワークはAIを近道ではなく「スーパーパワー」として教えるよう設計されているといいます。校長のジミー・フィッシャー氏は、生徒には熟練した使い手であると同時に倫理的な使い手になってほしいと語っています。学区は2024年にEDSAFE AI Allianceと提携して責任あるAI利用の方針を作り、現在はMicrosoft CopilotとGoogle Geminiを生徒と職員向けに契約しています。

 本稿としては、「AIを使う前に、まず使い方の倫理を教える」という順番が制度として決められている点が、同校の取り組みの核になっていると受け止めています。

授業の実例と成果

 ワトキンスさんは1年生のときにAP人文地理(大学レベルの内容を学ぶ上級科目)で、2014年にアトランタを襲った冬の嵐「スノーマゲドン」を題材に学びました。支援を受けた人数や物資が届くまでの時間など数千のデータ点を、Google SheetsやExcelで分析し、AIと予測分析を使って州の復旧費用の予測や予算判断の検証を行ったといいます。ワトキンスさんは「効率を上げるためにAIを使ったけれど、人間の思考と創造性を犠牲にしたことはない」と振り返っています。

 この課題を今も使う社会科教員のスコット・ギャフニー氏によれば、データ分析が数日から1回の授業で終わるようになった分、嵐が現実に与えた影響を話し合ったり、別のシナリオを試したりする時間が増えました。U.S. News & World Reportによれば、同校の生徒は数学・読解・科学で州平均を上回っています。

 AIで作業時間を短縮し、その分を議論や考察に振り向けるという使い方は、学校に限らず職場のAI活用でも目指されている形と重なると思います。なお、州平均を上回る成績がAI教育の効果だけによるものかどうかは、記事からは読み取れない点に注意が必要だと考えています。

禁止から戦略的な活用へ

 公教育の改革を研究するCRPE(Center on Reinventing Public Education)のブリー・デュソー氏によれば、生成AIへの最初の反応は禁止による抵抗でしたが、その後状況は大きく変わりました。CRPEの2024年の調査では、先行して導入した学区で最も多い戦略は、成績表のコメントや評価基準の作成、授業計画を支援するMagicSchoolやSchoolAIといった教員向けAIツールの試験導入でした。

 CRPEが追跡する先行導入の学区は、2024-25年度以降に40から79に増えました。最も大きな変化は、AIの取り組みを学校全体の教育目標に沿わせるようになったことだとされ、18校を調べた別の研究でも、教育のビジョンに沿っていないAIツールは効果が限られたと報告されています。ただし同氏は、大半の学区はまだ戦略的にAIに取り組めていないものの、教員や職員のAI利用は増え続けているとも述べています。

 IBMはこの秋、教育長や教育者など100人を対象に、IBMや他のパートナーによるAI研修を提供するK-12向けのAIリーダー・フェローシップを始めます。IBMの最高インパクト責任者ジャスティナ・ニクソン=サンティル氏は、教育におけるAIの唯一のプレイブックは存在せず、学校のリーダーが単独で判断を迫られるべきではないと述べています。

「正解工場」にしないために

 生徒と教員のAI利用は、公式に推奨されているかどうかにかかわらず増え続けています。RAND Corporationの2025年の報告では生徒と教員の半数以上が生成AIを使っており、College Boardの2025年の調査では高校生の84%が学業に生成AIを使っていました(最も使われていたのはChatGPTで69%)。記事は、問題は生徒がAIを使うかどうかではなく、どう使うかだとしています。

 シカゴのUIC College Prepで9年生に数学を教えるナサニエル・パーマー氏は、「学校を『正解工場』だと考える生徒もいる」と話します。正解を得るためにAIを使っても概念の理解にはつながらないため、テストや小テストでのAI利用は認めず、学習や練習問題の作成に使うことを勧めています。生徒には使いたいツールを事前に率直に相談するよう伝えており、課題の提出後に使ったと分かるより、先に話し合う方を選んでいるといいます。

 ペンシルベニア大学ウォートン校のアダム・グラント教授は、手書きの作文や対面試験に戻すだけでは不正は解決できず、倫理や不正の不公平さについて生徒と率直に話し合う必要があると論じています。セッキンガー高校のフィッシャー校長も、「AIだけで簡単に終えられる課題なら、授業の設計を見直し、批判的思考や創造性、協働、個別の応用を求める課題にすべきだ」と教員に伝えています。

 日本でも、高校生の73.7%が生成AIを利用しているという学研の調査があり、生徒が使う前提でどう授業を設計するかという問いは共通していると考えられます。AIの使用を禁じるか認めるかではなく、課題そのものを見直すという校長の方針は、E資格講座のような社会人向けの学びの場にも通じる視点だと思います。

一貫した教育政策への険しい道

 政策面では、少なくとも35州が学校向けのAIガイダンスを公表し、27州がAI教育に関する法案を検討しています。法案の内容は、生徒のAI利用に保護者の同意を求めるものから、AI関連の科目の履修を義務づけるものまで幅があります。2025年にはホワイトハウスがAI教育に関するタスクフォースを設置しました。外部組織との連携も進んでおり、2024年にはSmarter Balanced Assessment ConsortiumとIBM Consultingが、責任ある実装とAIガバナンスに配慮した評価テストへのAI活用の方法をまとめています。

 ただしデュソー氏は、今年度も多くの生徒が、AIの使い方について明確な計画のない学校で場当たり的な状況に置かれる可能性があると述べています。教員のAIへの理解や利用状況にも大きな幅があり、パーマー氏は、多くの教員が使い方に迷いつつも反対はしていない「中間」にいると話しています。

 記事は、すべての計画がうまくいくわけではないとも指摘しています。6州で展開する私立の「AI活用」校Alpha Schoolについて、404 MediaとWiredが、AIで作られた誤りのある教材や、保護者への説明と教室の実態の食い違いを報じたことを紹介しています。モスタギミ氏は、セッキンガー高校の取り組みは子どもを一日中画面に向かわせてAIにすべてを任せるものではなく、AI時代に人間のスキルを深めるものだと理解されれば、懸念の大半は解消すると語っています。フィッシャー校長は、フレームワークの見直しについて教員や管理職と話し合いを続けているとし、学区もその知見をグイネット郡の全校に広げています。

まとめ

 セッキンガー高校は、AIを禁止も放置もせず、倫理を先に教え、課題の設計を見直すことで活用を進めています。国内の教育現場でどう生かせるかを考えるうえでは、OpenAIとCodeAIによる高校生向けのAIリテラシー教育もあわせてご覧いただければと思います。

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