[ニュース解説]Microsoft-OpenAI パートナーシップの新展開:約1350億ドル投資とAGI時代への備え

目次

はじめに

 OpenAIが2025年10月28日、Microsoftとのパートナーシップに関する新たな契約を発表しました。OpenAIの公益法人化とMicrosoftによる約1350億ドルの投資、そしてAGI(汎用人工知能)到達後の取り決めなど、AI業界の今後を左右する重要な内容が含まれています。本稿では、この発表内容をもとに、両社の関係性の変化と今後の展望について解説します。

参考記事

要点

  • MicrosoftはOpenAIの公益法人化と資本再構成を支援し、約1350億ドルの投資を行い約27%の株式を保有する
  • AGI到達の宣言は独立した専門家パネルによる検証が必要となり、MicrosoftのIP権利は2032年まで延長される
  • OpenAIは第三者との共同製品開発が可能になり、Microsoftも独自にAGI開発を追求できるようになった
  • OpenAIは2500億ドル相当のAzureサービスを追加契約し、一定の基準を満たすオープンウェイトモデルをリリース可能になる

詳細解説

パートナーシップの基本構造と投資規模

 OpenAIによれば、2019年から続いてきたMicrosoftとのパートナーシップは、今回の新契約によって次の段階に進むことになりました。Microsoftは、OpenAIの取締役会が進める公益法人(PBC: Public Benefit Corporation)への移行と資本再構成を支援します。

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 資本再構成後、Microsoftの投資額は約1350億ドルと評価され、OpenAI Group PBC全体の約27%の株式を保有することになります。これは、従業員、投資家、OpenAI財団を含むすべての所有者を考慮した転換後希薄化ベースでの数値です。OpenAIの直近の資金調達の影響を除くと、Microsoftは従来の営利部門において32.5%の株式を保有していました。

 公益法人とは、営利活動と社会的使命を両立させる企業形態です。OpenAIはもともと非営利研究機関として設立されましたが、大規模な研究開発には資金調達が必要なため、営利部門を設けてきました。今回のPBC化により、営利と公益のバランスをより明確な形で制度化すると考えられます。

AGI到達に関する取り決めの変更

 今回の契約で特に注目されるのが、AGI(汎用人工知能)に関する取り決めです。AGIとは、人間と同等またはそれ以上の知的能力を持つAIのことを指します。

 OpenAIによれば、AGIが到達したという宣言は、今後は独立した専門家パネルによる検証が必要となります。これは、AGI到達という重要な判断に客観性を持たせるための措置と言えるでしょう。

 Microsoftが保有するIP権利については、モデルと製品の両方に対して2032年まで延長され、AGI到達後のモデルも対象に含まれることになりました。ただし、適切な安全対策を講じることが条件とされています。

 一方、研究IP(モデルやシステムの開発に用いられる機密的な手法)に関する権利は、専門家パネルがAGIを検証するか、2030年のいずれか早い方まで維持されます。研究IPには、社内展開や研究専用のモデルが含まれますが、モデルアーキテクチャ、重み、推論コード、ファインチューニングコード、データセンターのハードウェア・ソフトウェアに関するIPは含まれず、これらの非研究IPについてMicrosoftは権利を保持し続けます。

両社の独立性の向上

 新契約では、両社がより独立して活動できる条項が追加されました。OpenAIは、第三者と共同で製品開発を行うことが可能になります。API製品は引き続きAzure独占となりますが、非API製品は任意のクラウドプロバイダーで提供できるようになりました。

 同様に、Microsoftも単独または第三者との協力によってAGIを独自に追求できるようになりました。ただし、MicrosoftがOpenAIのIPを使用してAGIを開発する場合、AGI宣言前のモデルは計算量の閾値に従う必要があり、その閾値は現在の主要モデルの訓練に使用されるシステムサイズよりも大幅に大きく設定されています。

 これらの変更は、両社がパートナーシップを維持しながらも、それぞれの戦略的自由度を高めることを可能にしています。AI業界の競争が激化する中で、柔軟性を確保する狙いがあると推測されます。

商業的な取り決めの変更

 収益分配の契約は、専門家パネルがAGIを検証するまで継続されますが、支払いはより長期にわたって行われることになりました。

 OpenAIは、追加で2500億ドル相当のAzureサービスを購入する契約を結びました。一方で、Microsoftはこれまで持っていたOpenAIの計算資源プロバイダーとしての優先交渉権を失うことになります。この変更により、OpenAIは計算資源の調達において、より多くの選択肢を持つことができると考えられます。

 また、OpenAIは米国政府の国家安全保障関連の顧客に対して、クラウドプロバイダーを問わずAPI アクセスを提供できるようになりました。さらに、一定の能力基準を満たすオープンウェイトモデルをリリースすることも可能になりました。

 オープンウェイトモデルとは、モデルの重みパラメータを公開するモデルのことで、研究者や開発者がモデルを自由に利用・改良できるようになります。OpenAIがこれまで比較的クローズドな姿勢を取ってきたことを考えると、これは注目すべき変化と言えるでしょう。

MicrosoftのIP権利から除外される領域

 新契約では、MicrosoftのIP権利からOpenAIの消費者向けハードウェアが除外されることになりました。OpenAIは最近、独自のハードウェア製品の開発に関心を示しており、この除外条項により、ハードウェア分野での独立性が確保されたと考えられます。

まとめ

 今回の新契約は、Microsoft-OpenAIパートナーシップの基本的な枠組みを維持しながら、両社により大きな戦略的自由度を与える内容となっています。OpenAIの公益法人化、AGI到達に関する客観的な検証プロセス、そして両社の独立性向上は、AI技術の発展と社会実装において重要な意味を持つでしょう。今後、両社がそれぞれどのような戦略を展開していくのか、注目されます。

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