はじめに
Fast Companyが2026年3月23日に発表した「世界で最も革新的な企業2026」ランキングで、GoogleがAI部門を含む総合首位を獲得しました。本稿では、同誌に掲載されたSundar Pichai CEOへの長編インタビューをもとに、ChatGPT登場以降のGoogle/Alphabetの戦略と現在地を解説します。
参考記事
- タイトル: Google CEO Sundar Pichai’s plan to make Gemini the only AI that matters
- 著者: Harry McCracken
- 発行元: Fast Company
- 発行日: 2026年3月23日
- URL: https://www.fastcompany.com/91502632/google-most-innovative-companies-2026
要点
- Fast Companyの「2026年世界で最も革新的な企業」でGoogleがAI部門を含む総合首位を獲得した
- 2022年11月のChatGPT登場直後にGoogleは「コードレッド」を宣言し、AIを最優先課題として開発を加速させた
- 2025年11月発表のGemini 3 Proは、OpenAIおよびAnthropicの競合モデルを複数の業界標準ベンチマークで上回った
- AlphabetはAppleとのGemini活用提携を経て2026年1月に時価総額4兆ドルを初めて達成し、同社株は2025年4月の底値から2倍以上に上昇した
- Alphabetは2026年に最大1,850億ドルの設備投資を計画しており、テキサス州だけで400億ドル規模のデータセンター建設を進めている
詳細解説
ChatGPT登場とGoogleの「コードレッド」
Pichaiは2015年にGoogleのCEOに就任した直後から「AIファースト」の時代を宣言し、「一日を通じてユーザーを支える知的アシスタント」という構想を2016年の株主書簡にも記していました。しかしその先見性があっても、OpenAIが2022年11月30日にChatGPTを公開した際には「この技術が想定よりずっと早く広まる」と直感したと振り返っています。
ChatGPT登場からわずか3週間後、Googleは「コードレッド」を宣言し、他のプロジェクトを一時停止してAI開発を最優先する体制を敷きました。2023年2月には対話型AI「Bard」を発表しましたが、当初の評価は厳しく、「急いで市場に出した」印象をぬぐえなかったとされています。その後Bardは基盤モデルと名称を統一する形で「Gemini」へと刷新されました。なお、この時期にGoogle共同創業者のSergey Brinが採用判断やコードレビューに至るまで現場に復帰し、Pichaiは「創業者がエンジニアと並んでモデルの細部を詰めている光景ほど、チームへの動機づけになるものはない」と述べています。
Google DeepMind設立と研究体制の再編
2023年4月、Googleは長年にわたり独立して運営されていた二つのAI研究機関を統合しました。一方のGoogle Brainは、2017年に「Attention Is All You Need」という論文でトランスフォーマー(現在のすべての生成AIを支える基盤技術)を提唱した8名の研究者を輩出した組織です。もう一方のDeepMindはロンドンを拠点とし、タンパク質の立体構造を予測する「AlphaFold」を開発してDemis HassabisとJohn Jumperが2024年のノーベル化学賞を受賞した研究機関です。
統合後の「Google DeepMind」はHassabisが率い、Google Brainの共同創業者Jeff DeanがChief Scientistを務めています。CTOのKoray Kavukcuogluは「純粋な研究であっても、現実の世界に影響を与えるという意識と、Google全体との協力関係のもとで進める必要がある」と述べており、研究から製品化へのサイクルが加速したと言えます。2025年6月にはKavukcuogluがGoogleのChief AI Architectも兼務し、Pichaiに直属する立場となっています。
Gemini 3とNano Bananaが生んだ勢い
2025年11月に発表されたGemini 3 Proは、複数の業界標準ベンチマークでOpenAIやAnthropicの競合モデルを上回り、OpenAIのSam Altman CEOが社内メモで「当面は外部の空気が厳しくなると思う」と認めるほどの反響を呼びました。翌月には軽量・高速なGemini 3 Flash、さらに数学・科学特化の高性能版Gemini 3 Deep Thinkも展開され、開発者向けのコーディングプラットフォーム「Antigravity」(Claude CodeやCursorとの競合)も同時にリリースされています。
Gemini 3のリリースに先立つ2025年夏には、画像編集AI「Nano Banana」がSNS上で急拡散し、Geminiアプリのダウンロード数がApple・Googleのアプリストアで一時的にChatGPTを上回る場面もありました。「ほぼ超能力をユーザーの手に渡したような感覚だった」とGeminiアプリを担当するJosh WoodwardはFast Companyに語っています。Googleはこれまでこうしたバイラルな瞬間を演出することが苦手とされてきましたが、Nano Bananaを機にその文化が変わりつつあると複数の業界関係者が指摘しています。
ユーザー数と市場シェアの現在地
Geminiアプリの月間アクティブユーザーについては、Googleはアプリとウェブ両方を合算して7億5,000万人としています。一方、市場調査会社Sensor Towerのデータではアプリ単体での月間アクティブユーザーは3億7,600万人(前年比480%増)で、ChatGPTの9億4,500万人と比べると依然大きな差があります。AIチャットボットサイトへのトラフィックシェアでも、Similarwebによれば、GeminiはChatGPTの63%に対して22%(前年比670%以上増)にとどまっており、ユーザー規模の面では追いかける立場が続いています。
ただし、企業の実力を測る株価や財務指標では様相が異なります。Alphabetの株価は2025年4月の底値から2倍以上に上昇し、2026年1月にはAppleとの提携(将来のSiriなどのApple AI機能をGeminiで動かす内容)を背景に時価総額が初めて4兆ドルを達成しました。
Geminiの製品統合と収益化戦略
Geminiは現在、Google検索(AI OverviewsおよびAI Mode)、Gmail、Google Meet、YouTube、Android、さらにはWaymoの自動運転ロボタクシーにも統合されています。WaymoはGeminiを特に複雑な走行シナリオ(前方車両が炎上している場合の判断など)に活用しているといいます。Pichaiは「まったく異なるように見える複数のビジネスを、同じ根幹技術がけん引している」と述べており、Googleが持つ多様な製品群がGemini展開の強みになると考えられます。
収益化面では、月額8ドルから250ドルまでの3段階のAIサービスプランを提供するほか、検索のAI OverviewsやAI Modeでは2025年から広告の試験掲載を開始しています。Target・Walmart・Etsy等との商取引リンク連携も進行中です。他方、Demis HassabisはOpenAIがChatGPTに広告を導入したことへの驚きを公言し、Geminiには当面広告を組み込まない方針を示しています。世界最大の広告プラットフォームを持つGoogleが、少なくとも短期的にはGeminiを広告なしで運営できることは、競合に対する差別化要因の一つと言えます。
インフラ投資と今後の課題
Fast Companyの記事によれば、Alphabetは2026年の設備投資として最大1,850億ドルを見込んでおり、これは2025年の約2倍の規模です。テキサス州で3つの大規模なAI・クラウドデータセンターキャンパスに400億ドルを投じるほか、アーカンソー・アイオワ・ミズーリ・オクラホマ・サウスカロライナ・バージニア各州でも投資が続いています。OpenAIがSoftBankやOracleと組む「Stargate」構想(最大5,000億ドル)に比べると注目度は低いものの、Googleは自社設計のTPU(テンソル処理ユニット)チップを活用した独自インフラを長年積み上げてきた点が強みとされています。
課題も率直に認められています。Pichaiは「技術を無理に押しつけることへの反発がある」と述べており、アナリストからはワープロや表計算など既存の生産性ツールへのGemini統合が「有用ではない」との声も上がっています。また、エージェントAIについてWoodwardは「当たり外れがあり、遅い」と認めており、実用レベルへの引き上げが今後の焦点になると考えられます。
まとめ
Fast Companyの首位獲得は、ChatGPT登場以降約3年間のGoogleの底力を示す出来事と言えます。Gemini 3の性能向上、Nano Bananaによる話題創出、大規模なインフラ投資、そしてAppleとの大型提携——これらが重なった結果として、Alphabetの市場評価は大きく変わりました。Pichaiが2016年から描いてきた「ユニバーサル・アシスタント」の構想がどこまで現実に近づいているのか、引き続き注目です。
