[論文紹介]なぜ応募者はAI面接を選ぶのか?AI面接が人間の面接官を上回る理由

目次

はじめに

 近年、採用活動におけるAIの活用が注目されていますが、その効果については未知数な部分も多くありました。特に、AIによる面接が応募者にどのような影響を与え、採用結果をどう変えるのかは、多くの企業が関心を寄せるテーマです。本稿では、AI面接が人間の面接官よりも優れた成果を出したという興味深い研究結果について、その背景や詳細を分かりやすく解説します。

参考記事

要点

  • AI(音声チャットボット)による面接は、人間が実施する面接と比較して、採用オファー数を12%、就職率を18%、30日後の定着率を17%向上させた。
  • 応募者はAI面接官に対して人間よりも偏見(特に性差別)が少ないと感じ、面接体験に対する満足度も高かった。
  • AI面接は人間よりも多くのトピック(中央値でAI:9、人間:5)をカバーし、応募者から採用に関連する情報をより多く引き出すことができた。
  • 最終的な採用決定は全て人間が行ったが、AIが面接した応募者のパフォーマンスを高く評価する傾向が見られた。
  • 応募者に選択肢を与えた場合、78%が人間ではなくAIによる面接を選択した。

詳細解説

研究の背景:AI面接はバイアスを助長するのか?

 これまで、採用プロセスにAIを導入することについては、特定の層に対して不利益をもたらす「バイアス」への懸念が主に議論されてきました。AIが過去のデータから学習する際、データに含まれる人間社会の偏見まで学習してしまい、特定の性別や人種の応募者を不当に低く評価する可能性があるからです。実際にアメリカの一部の州では、採用におけるAIの利用を制限する動きも見られます。

 しかし、本研究はこうした懸念とは異なる側面に光を当てています。AI面接は本当にリスクだけなのでしょうか。むしろ、人間が持つ無意識の偏見を排除し、より公平で効率的な採用を実現できるのではないか、という視点から大規模な実地実験が行われました。

どのように実験したのか?

 本研究は、ある人材紹介会社と協力し、非常に大規模かつ実践的な形で行われました。

  • 対象者: 約50の職種に応募した約70,000人の資格を持つ候補者。職種の多くは、フィリピンのコールセンターにおけるエントリーレベルの顧客サービス職でした。
  • 実験方法: 応募者はランダムに以下の3つのグループに分けられました。
    1. 人間の採用担当者による面接を受けるグループ
    2. AIチャットボットによる面接を受けるグループ
    3. 人間かAIか、面接官を自分で選べるグループ
  • 使用されたAI: 「Anna AI」という音声入出力が可能な大規模言語モデル(LLM)が用いられました。
  • 評価プロセス: 最も重要な点は、面接の実施方法に関わらず、最終的な採用判断は全て人間の採用担当者が行ったことです。担当者は、面接の音声記録、書き起こし、そして標準化されたテストのスコアを基に、同じ評価基準で合否を決定しました。これにより、純粋な「面接官としてのAI」の能力を測定することが可能になりました。

明らかになったAI面接の具体的な効果

 実験の結果、AI面接は多くの指標で人間の面接を上回る結果を示しました。

1. 採用数と定着率の向上

 最も注目すべきは、採用成果への直接的な影響です。Anna AIによる面接を受けた応募者は、人間による面接を受けた応募者よりも採用オファーを受ける確率が12%高くなりました。さらに、オファーを受けた後、実際に就職に至る確率も18%高いという結果が出ています。これは、企業と応募者の双方にとってミスマッチが少なかったことを示唆しており、30日後の定着率が17%向上したというデータもそれを裏付けています。

2. 応募者の満足度と公平感

 応募者側の体験も大きく向上しました。AIの面接を受けた応募者は、その面接体験を肯定的に評価する可能性が71%も高かったのです。特に興味深いのは、公平性に関する認識です。自由回答形式のアンケートでは、AIに面接された応募者は、面接官から性別による差別を受けたと感じる割合が半分に減少しました。これは、AIが客観的で一貫した対応をすることで、応募者が「公平に評価されている」と感じやすくなることを示しています。

3. 情報収集能力の高さ

 なぜAIはより良い結果を生み出せたのでしょうか。その一つの答えが、面接の質にあります。分析の結果、Anna AIは中央値で9つのトピックについて質問したのに対し、人間の面接官は5つに留まりました。AIはより網羅的に質問することで、応募者から採用判断に有益な情報をより多く引き出すことに成功していました。これは、人間のようにその場の雰囲気や先入観に左右されず、構造化された対話を徹底できるAIの強みと言えるでしょう。

まとめ

 本稿で紹介した研究は、採用面接におけるAIの役割について新たな視点を提供してくれます。これまで懸念されてきたバイアスの問題を乗り越え、AIはむしろ人間が持つ偏見を低減し、より公平で効果的な採用プロセスを構築する上で強力なツールとなり得る可能性を示しました。

 応募者がリラックスして多くの情報を話せる環境を作り出し、結果として採用数や定着率の向上に繋がるという事実は、多くの企業にとって示唆に富むものです。

 もちろん、今回の研究はコールセンターという特定の職種を対象としており、この結果が全ての職種に当てはまるわけではありません。しかし、AIが単なるコスト削減や効率化の道具ではなく、応募者体験を向上させ、企業と候補者のより良いマッチングを生み出す可能性を秘めていることは間違いありません。今後、人間とAIがそれぞれの強みを活かして協働する、新しい採用の形が広がっていくことが期待されます。

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