はじめに
本稿では、近年の企業による人員削減の背景に、公には語られていないAI(人工知能)の役割が存在する可能性について掘り下げていきます。多くの企業が人員削減の理由を「事業の再構築」や「最適化」と説明する中で、その実態はAIによる業務の代替であるケースが少なくないことを、本稿は、米ニュース専門放送局CNBCが発行した「In recent layoffs, AI’s role may be bigger than companies are letting on」という記事をもとに解説します。
参考記事
- タイトル: In recent layoffs, AI’s role may be bigger than companies are letting on
- 発行元: CNBC
- 発行日: 2025年7月20日
- URL: https://www.cnbc.com/2025/07/20/in-job-losses-ais-role-may-be-bigger-than-companies-say.html
要点
- 企業は人員削減の理由としてAIによる代替を公にせず、「リストラ」や「組織再編」といった曖昧な言葉を用いる傾向がある。
- 専門家は、この曖昧な表現が、法的な問題や社会的な反発を避けるための戦略であり、AIによる雇用の置き換えを隠すためのものであると指摘している。
- AIは特定の業務(コンテンツ制作、カスタマーサービス、人事など)で能力を発揮する一方、品質保証や複雑な判断など、依然として人間の介入が必要な領域も多い。
- 一度AIによって削減された雇用は、国内での再雇用ではなく、海外へのアウトソーシングに繋がりやすい構造がある。
- フリーランサーから始まったAIによる代替の波は、正社員の雇用にも影響を及ぼし始めており、将来的には大規模な雇用の変化が予測されている。
詳細解説
「リストラ」という言葉の裏側で起きていること
近年、好調な経済状況にもかかわらず、多くの企業で人員削減が続いています。その際、企業が公式に発表する理由は「事業の再構築(リストラクチャリング)」や「業務の最適化」といったものがほとんどです。しかし、専門家たちは、これらの言葉の裏でAIによる人間の仕事の置き換えが静かに進行していると指摘しています。
なぜ企業はAIの役割を公言しないのでしょうか。その背景には、法的なリスクや従業員、社会からの反発を避けたいという思惑があります。ハーバード大学の講師であるクリスティン・インジ氏は、「『人をAIに置き換える』と公言する企業はほとんどありません。たとえそれが実態であってもです」と述べています。AI導入の事実を伏せることで、企業はネガティブなイメージを避けつつ、水面下で自動化を進めることができるのです。
もちろん、IBMやフィンテック企業のKlarnaのように、AIによる人員削減を公表している企業も存在します。しかし、これらはまだ例外的なケースと言えるでしょう。多くの企業は、AI導入と人員削減のタイミングが一致していても、その直接的な因果関係を認めることには消極的です。
AIは人間の仕事をどう変えるのか?
現在、AIによる代替が進んでいるのは、主に定型的な業務やデータ処理が中心となる職種です。具体的には、コンテンツ制作、オペレーション、カスタマーサービス、人事といった分野が挙げられます。生成AIやAIエージェントの能力向上により、これらの業務の多くが自動化されつつあります。
しかし、AIは万能ではありません。ITアウトソーシング企業の専門家であるテイラー・ガウチャー氏は、「AIはプロセスの70%から90%を自動化できますが、最後の1マイル(最終工程)は依然として人間の力が必要です」と指摘します。特に、品質の最終確認(QA)、倫理的な判断、そして予測不可能な例外的なケースへの対応は、今のAIには難しい領域です。
企業もこの限界に気づいていますが、一度削減した人員を再び国内で雇用するのではなく、よりコストの低い海外の労働力に頼る傾向があります。つまり、AIが仕事を完全に代替できなかったとしても、その穴埋めは国内の雇用回復には繋がりにくいという現実があります。
最初に影響を受けるのは誰か
AIによる雇用の代替という波は、まずフリーランサーや業務委託契約者から始まりました。特に、コピーライティング、グラフィックデザイン、ビデオ編集といったクリエイティブな分野で、企業は契約者に対して「AIツールに切り替える」と直接的に通告するケースが増えました。企業にとって、正社員よりも契約関係にあるフリーランサーの方が、契約を終了しやすいという事情があります。
語学学習アプリで知られるDuolingo社が、契約していた翻訳者をAIに置き換える方針を発表した際に大きな反発を受けたことは象徴的な出来事です。この一件以降、企業はAIによる人員削減について、より一層慎重な姿勢を見せるようになりました。しかし、この流れはすでに正社員にも及び始めており、もはや他人事とは言えない状況です。
まとめ
本稿では、CNBCの記事を基に、企業が公表する「リストラ」の裏に隠されたAIによる雇用の代替という実態について解説しました。企業は法的なリスクや社会的な反発を恐れ、AIの役割を公に語りませんが、水面下では着実に自動化が進んでいます。
世界経済フォーラムの報告によれば、今後5年間で世界の企業の41%がAI導入によって従業員を削減すると予測されています。AIはまだ人間の全ての仕事を奪うわけではありませんが、雇用の構造を大きく変えつつあることは間違いありません。この大きな変化の時代において、私たち一人ひとりが自身のスキルを見つめ直し、変化に適応していくことが、これまで以上に重要になっていくでしょう。