はじめに
Googleが2025年10月29日、AIノート作成ツール「NotebookLM」のチャット機能を大幅に強化したことを発表しました。コンテキストウィンドウの8倍拡大、会話メモリの6倍増強、応答品質の50%向上に加え、全ユーザーがチャットの目的や役割を自由に設定できる「ゴール設定機能」が利用可能になりました。本稿では、この発表内容をもとに、NotebookLMの進化した機能と実用上の可能性について解説します。
参考記事
- タイトル: Chat in NotebookLM: A powerful, goal-focused AI research partner
- 著者: Anuja Agrawal (Senior Staff Lead, NotebookLM)
- 発行元: Google Blog
- 発行日: 2025年10月29日
- URL: https://blog.google/technology/google-labs/notebooklm-custom-personas-engine-upgrade/
要点
- NotebookLMのチャット機能において、コンテキストウィンドウが8倍、マルチターン会話能力が6倍以上に拡大し、大規模なドキュメントコレクションの分析性能が大幅に向上した
- 最新のGeminiモデルを活用したバックエンド改善により、複数の情報源を使用する応答の満足度が50%向上した
- ユーザーの初期プロンプトを超えて複数の角度から自動的に情報を探索し、より深い洞察を提供する機能が追加された
- 会話履歴が自動保存されるようになり、長期プロジェクトでもセッションを中断・再開できるようになった
- 全ユーザーがチャットに特定の目的、声、役割を設定できる「ゴール設定機能」が利用可能になり、研究アドバイザーやマーケティング戦略家など多様な用途に対応できる
詳細解説
処理能力と会話能力の大幅な拡張
Googleによれば、NotebookLMのチャット機能において、Geminiモデルの100万トークンという完全なコンテキストウィンドウが全プランで利用可能になりました。これにより、大規模なドキュメントコレクションを分析する際のパフォーマンスが大幅に向上したとのことです。
また、マルチターン会話の処理能力が6倍以上に増強され、長時間の対話でもより一貫性のある適切な応答が得られるようになりました。コンテキストウィンドウとは、AIモデルが一度に処理できる情報量を示す指標です。100万トークンは、おおよそ書籍数冊分に相当する情報量であり、従来のチャットボットと比較して格段に多くの文脈を保持したまま対話できることを意味します。
複数の角度から情報を探索する新機能
Googleの発表では、NotebookLMが情報源内の情報を見つける方法が強化されたと説明されています。新たに、ユーザーの初期プロンプトを超えて、自動的に複数の角度から情報源を探索し、発見した内容を単一の洗練された応答に統合する機能が追加されました。
この機能は特に大規模なノートブックで重要とされており、最も関連性の高い情報に基づいた高品質で信頼性のある回答を提供するために、慎重なコンテキストエンジニアリングが施されています。従来の検索ベースのシステムでは、ユーザーが指定したキーワードに直接合致する情報のみを取得する傾向がありましたが、この新機能により、より包括的で多角的な情報収集が可能になったと考えられます。
会話履歴の自動保存とセキュリティ
長期的なプロジェクトをサポートするため、会話履歴が自動的に保存されるようになりました。ユーザーはセッションを終了しても、後から会話履歴を失うことなく再開できます。また、会話履歴はいつでも削除可能で、共有されたノートブックにおいても、チャット内容は本人にのみ表示されます。
この機能は、今後1週間かけて段階的にロールアウトされる予定です。研究プロジェクトや業務文書の分析など、長期間にわたって同じ資料セットと対話を続ける用途では、この継続性が特に価値を持つでしょう。
応答品質の50%向上
最新のGeminiモデルを活用したバックエンド改善により、複数の情報源を使用する応答において、ユーザー満足度が50%向上したとGoogleは報告しています。この改善は、処理能力の拡張、会話コンテキストと履歴の大幅な増強、そして情報検索方法の強化が組み合わさった結果と言えます。
満足度の測定方法については詳細が明らかにされていませんが、一般的にはユーザーフィードバックや評価スコアなどの指標が用いられると考えられます。50%という数値は、実際のユーザー体験において顕著な改善が見られたことを示唆しています。
全ユーザーに開放されたゴール設定機能
今回のアップデートで注目すべきは、全ユーザーがチャットに特定の目的、声、役割を設定できる「ゴール設定機能」が利用可能になった点です。チャット画面の設定アイコンをクリックすることで、チャットの振る舞いと達成したい目的を自由に記述できます。
Googleが提案する使用例には、以下のようなものがあります:
- PhD候補として扱う: 研究アドバイザーとして、すべての前提を厳密に検証し、論理的誤謬を特定し、研究を根本から防御させる
- マーケティング戦略家として振る舞う: 分析的で直接的な即座の行動計画を提示し、目標を迅速に達成するための具体的戦略と重要なステップに焦点を当てる
- 3つの異なる視点から分析: 証拠と論理的一貫性に焦点を当てる厳密な学術的視点、非自明なつながりと革新的応用を探す創造的戦略家の視点、結論のギャップや欠陥を積極的に探す懐疑的レビュアーの視点から分析
- テキストベースシミュレーションのゲームマスターとして機能: 特定の目標とステップ制限のある高度なシナリオを提示し、ユーザーの選択に応じてリアルで鮮明な結果を物語る
これらの例から、学術研究、ビジネス戦略立案、批判的分析、創造的探索など、多様な用途に対応できることがわかります。ロールプレイ機能と見ることもできますが、本質的には、AIの応答スタイルと思考アプローチを特定のタスクや目的に最適化する仕組みと言えるでしょう。
まとめ
NotebookLMの今回のアップデートは、処理能力と会話能力の大幅な拡張、情報検索の高度化、そして全ユーザーへのゴール設定機能の開放という3つの柱で構成されています。特に100万トークンのコンテキストウィンドウと、用途に応じてAIの振る舞いをカスタマイズできる柔軟性は、研究支援ツールとしての実用性を大きく高めたと言えるでしょう。長期プロジェクトでの活用を視野に入れた会話履歴の保存機能も、実務での継続的な利用を後押しする要素になりそうです。
