[ニュース解説]MWC 2026が示したAIの3つの潮流——自律ネットワーク、量子セキュリティ、AIスマートフォン

目次

はじめに

 IBMのテックメディア「IBM Think」が2026年3月9日に報じた内容をもとに、バルセロナで開催された世界最大規模のモバイル・無線通信カンファレンス「Mobile World Congress(MWC)2026」の主要トピックを解説します。本稿では、今年のMWCで注目を集めた3つのテーマについて紹介します。

参考記事

要点

  • MWC 2026では「自律ネットワーク」「量子セキュリティ」「スマートフォンへのAI統合」の3分野でAIの浸透が示された
  • IBMのRahul Kumar氏によれば、昨年の「エージェントAI」から今年は「自律ネットワーク」がキーワードとなり、コスト削減や収益成長などビジネス成果への貢献が重視されている
  • IBMのMark Hughes氏は、量子コンピュータによる暗号解読リスクに備え、今すぐ自社の暗号化状況を把握することの重要性を訴えた
  • Samsungは、Galaxy AIを通じたスマートフォンへのAI統合に加え、2030年までに製造工場をAI駆動型に移行する計画を発表した

詳細解説

自律ネットワーク——ビジネス成果が問われる段階へ

 IBMのテレコム・メディア担当シニアパートナー兼バイスプレジデントであるRahul Kumar氏はMWC会場から、今年の最重要キーワードとして「自律ネットワーク(Autonomous Networks)」を挙げました。自律ネットワークとは、AIと自動化の技術を組み合わせ、人間の介入をほとんど必要とせずにネットワークの運用・管理・自己修正を行う通信インフラを指します。

 ただしKumar氏は、自動化そのものが目的ではないと強調しています。「何らかのビジネス成果に向けて前進しなければならない」とし、通信ネットワークにおけるビジネス成果として、コスト削減、柔軟性向上、応答時間の短縮、そして収益化・収益成長を具体的に挙げました。技術導入の目的を「業務効率」だけでなく「収益」まで広げている点は、通信事業者がAI投資に求める実利的な視点を反映していると考えられます。

 自律ネットワークの概念自体は数年前から議論されてきましたが、今年のMWCでは「実装フェーズ」の文脈で語られるケースが増えており、投資対効果の検証が本格化している段階と言えます。

量子セキュリティ——「今から準備を」という警鐘

 IBMのブースでは、量子コンピュータを冷却する冷凍技術を模したオブジェクトが展示されました。ウェディングケーキ状の多層構造にゴールドのアクセントとケーブルを組み合わせた大型展示物で、量子コンピューティングが理論から企業実装の段階へ移行しつつある様子を視覚的に示すものでした。なお、実際の量子チップは指の爪程度のサイズとのことです。

 IBMのサイバーセキュリティサービス担当グローバルマネージングパートナーであるMark Hughes氏はMWCで講演し、組織が今すぐ取り組むべき課題を提示しました。十分に成熟した量子コンピュータが将来的に悪意ある利用者の手に渡った場合、現在広く使われている暗号化技術が解読されるリスクがあるためです。

 Hughes氏はまず「経営幹部として、自社内でどのような暗号化技術が動いているかを把握することが第一歩」と述べました。そのうえで、通信事業者が量子耐性アルゴリズムや「量子セーフシェル(quantum-safe shells)」を活用することでインフラを保護できると説明しています。量子耐性アルゴリズムとは、量子コンピュータによる解読に耐えられるよう設計された暗号方式のことで、国際的な標準化作業が進んでいる分野です。現時点では実用的な量子コンピュータの脅威はまだ先の話ですが、暗号インフラの更新には時間がかかることから、早期の準備が重要と考えられます。

スマートフォンがエージェントAIの「玄関口」に

 MWC会場の各所では、スマートフォンが日常のエージェント型AIへの入り口になりつつある様子が示されました。エージェント型AI(Agentic AI)とは、ユーザーの指示を単に処理するだけでなく、文脈を理解し、自律的に複数のアクションを組み合わせてタスクを遂行するAIの形態です。

 Samsungのモバイル事業を統括するTM Roh氏は、同社のオンデバイスAI「Galaxy AI」について、「ユーザーの意図を理解し、ニーズを先読みし、アプリやウェアラブル、新たなデバイス形態をまたいでユーザーに代わって行動する」レイヤーと説明しました。これは、これまでのスマートフォンが「ユーザーの指示を実行するツール」だったのに対し、「ユーザーの代理として動くエージェント」へと役割が変化しつつあることを示していると考えられます。

 さらにSamsungは、エージェントAI戦略を消費者向けデバイスにとどまらず、産業インフラ分野にも拡張することを発表しました。2030年までにグローバルの製造拠点をAI駆動型工場へ転換する計画を掲げており、AIエージェント、デジタルツイン(Digital Twin:物理的な設備や工程をデジタル空間上に再現するシミュレーション技術)、リアルタイムデータ分析を組み合わせて、生産最適化・品質管理・オペレーションの強化を図るとしています。

まとめ

 MWC 2026は、AIが特定のアプリケーションにとどまらず、通信インフラ・セキュリティ・デバイスという「スタックの下層」へと浸透しつつあることを示しました。自律ネットワークの実用化、量子リスクへの早期対応、そしてスマートフォンを中心としたエージェントAIの展開は、今後の企業のIT戦略に大きく影響する動向として引き続き注目されます。

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