[開発者向け]LLMには数学的な限界がある──エージェント型AIの可能性を問う研究

目次

はじめに

 大規模言語モデル(LLM)を基盤とするAIエージェントには、数学的に証明可能な限界が存在する──。こうした研究結果が、米国の技術メディアGizmoDoによって2026年1月23日に報じられました。本稿では、この報道をもとに、LLMの計算能力の限界と、エージェント型AIや汎用人工知能(AGI)の実現可能性について解説します。

参考記事

要点

  • Vishal SikkaとVarin Sikka(父子研究者)の論文は、LLMが一定の複雑さを超える計算やエージェント的タスクを実行できないことを数学的に証明した
  • 複雑な計算が必要なプロンプトやタスクに対して、LLMはタスクの完了に失敗するか、誤った実行をする
  • この研究結果は、完全に自律的なエージェント型AIによってAGIを実現するという期待に疑問を投げかける
  • Apple、Benjamin Rileyなど他の研究者も、LLMには真の推論能力や思考能力がないと結論づけている
  • Elon Muskが予測する「年内に人間の知能を超えるAI」の実現可能性は極めて低い

詳細解説

LLMの計算能力に関する数学的証明

 Gizmodoによれば、Vishal SikkaとVarin Sikkaの父子研究者による論文は、複雑な数式を用いて、LLMが一定の複雑さを超える計算やエージェント的タスクを実行できないことを数学的に証明したとされています。この論文は当初あまり注目されませんでしたが、技術メディアWiredによって取り上げられたことで再び脚光を浴びました。

 論文の結論は比較的シンプルです。LLMに提供される特定のプロンプトやタスクが、モデルが処理可能な範囲を超える複雑な計算を必要とする場合、モデルは要求されたアクションの完了に失敗するか、タスクを誤って実行するというものです。

 大規模言語モデルは、大量のテキストデータから統計的パターンを学習し、次に来る単語を予測する仕組みで動作します。この方式は、一見すると複雑な質問にも答えられるため、人間のような思考や推論を行っているように見えますが、実際には統計的な処理に基づいています。今回の研究は、この統計的処理には数学的な限界があることを示したと考えられます。

エージェント型AIとAGI実現への疑問

 Gizmodoの報道では、この研究結果がエージェント型AI──人間の監督なしに複数のステップを含むタスクを完全に自律的に完了できるモデル──によってAGI(汎用人工知能)を実現するという期待に冷や水を浴びせるものだと指摘されています。

 エージェント型AIは、2024年以降、多くのAI企業が注目している技術領域です。例えば、ユーザーが「来週の会議資料を作成して」と指示すると、AIが自律的に情報収集、資料作成、レビュー、完成までを行うといった用途が想定されています。

 しかし、今回の研究が示す数学的限界は、こうしたエージェント型AIが処理できるタスクの複雑さには上限があることを意味します。これは、AIが人間の知能を超える「AGI」の実現可能性について、AI企業が語る「空は限界だ」という楽観的な見通しよりもはるかに低い天井を設定するものと言えます。

他の研究による同様の指摘

 Gizmodoによれば、LLMの限界を指摘する研究は今回が初めてではありません。記事では以下の事例が紹介されています。

 2025年、Appleの研究者らは、LLMが実際の推論や思考を行う能力を持たないという論文を発表しました。この研究では、LLMが推論しているように見える結果を生成していても、それは見かけ上のものであり、真の論理的思考ではないと結論づけられました。

 また、Cognitive Resonance社の創業者Benjamin Rileyは、LLMの動作原理から考えて、LLMが私たちが「知性」と呼ぶものを真に達成することは決してないと主張しました。LLMは、入力されたテキストから次に来る単語の確率分布を計算するという仕組み上、本質的な理解や創造性を持つことはできないという考え方です。

 さらに、LLMを活用したAIモデルが新規性のある創造的なアウトプットを生成できるかをテストした研究もあり、その結果は「あまり感動的ではない」ものだったとGizmodoは報じています。

 こうした研究群は、LLMが一定の有用性を持ち、今後も改善される可能性はあるものの、現在の形態では人間の知能を超えることは非常に難しいことを示唆していると思います。

Elon Muskの予測との対比

 記事は、テスラやSpaceXのCEOであるElon Muskが最近、AIが年内に人間の知能を超えると主張したことに言及しています。Muskは過去にも楽観的なAI予測を行ってきましたが、今回の研究を含む一連の証拠は、そうした予測の実現可能性が極めて低いことを示していると考えられます。

 ただし、「人間の知能を超える」という表現自体が曖昧であり、特定の領域やタスクにおいてAIが人間を上回ることと、汎用的な知能として人間を超えることは異なる概念です。現在のAIは、画像認識や特定のゲーム、データ分析など限定された領域では既に人間を超える性能を示していますが、あらゆる状況に適応できる汎用的な知能という意味では、まだ遠い目標と言えます。

まとめ

 LLMには数学的に証明可能な計算能力の限界があり、エージェント型AIやAGIの実現には想定以上の障壁があることが明らかになりました。ただ、これは現在のLLM技術が無価値であることを意味するものではなく、適切な用途と限界を理解した上で活用することの重要性を示していると思います。今後、AI技術がどのような形で進化していくのか、引き続き注目していきたいところです。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次