【ニュース解説】IBM、ハイブリッドAIで企業変革を加速: watsonxとLinuxONEの最新技術が拓く未来

目次

はじめに

 本稿では、IBMが発表したエンタープライズ向け生成AIの進化を加速する新しいハイブリッド技術について、解説します。

 IBMは、企業が自社のデータを用いてAIエージェントを構築・展開する際の障壁を取り除くことを目指しており、そのための具体的なソリューションが提示されました。特に、watsonxプラットフォームの拡張ハイブリッドクラウド全体での統合自動化、そしてAIワークロードに最適化されたインフラストラクチャの強化が注目されます。

引用元記事

・本稿中の画像に関しては特に明示がない場合、引用元記事より引用しております。
・記載されている情報は、投稿日までに確認された内容となります。正確な情報に関しては、各種公式HPを参照するようお願い致します。
・内容に関してはあくまで執筆者の認識であり、誤っている場合があります。引用元記事を確認するようお願い致します。

要点

 IBMは、企業のAI導入における課題解決を目指し、以下の主要な発表を行いました。

  • AIエージェント構築の簡素化と強化: watsonx Orchestrate にて、ノーコードからプロコードまで対応するツール群により、5分以内でのAIエージェント構築を可能にし、80以上の主要ビジネスアプリケーションとの統合を実現します。HR、営業、調達といった特定ドメインのエージェントや、ウェブ調査などのユーティリティエージェントも提供されます。
  • ハイブリッドクラウド統合の自動化によるROI向上: 新しい webMethods Hybrid Integration ソリューションにより、アプリケーション、API、イベントなどをハイブリッドクラウド全体でインテリジェントに自動連携させ、3年間で176%のROIを達成可能と試算されています。
  • エンタープライズデータの価値最大化: watsonx.data の進化により、オープンデータレイクハウスとデータファブリック機能を統合し、非構造化データを含むあらゆるデータをAIで活用可能にします。これにより、従来のRAGと比較して40%精度向上したAIエージェントが実現できるとされています。
  • セキュアでスケーラブルなAIインフラ: 新しい LinuxONE 5 は、1日あたり4500億回の推論処理能力を持ち、オンチップAIプロセッサや量子安全暗号技術を搭載することで、安全かつ大規模なAI処理を実現します。

詳細解説

1. AIエージェント開発・運用の革新: watsonx Orchestrate

 IBMは、AIエージェントを単なるチャットボットから、実際に業務を遂行するシステムへと進化させることを目指しています。watsonx Orchestrate は、その中核を担うプラットフォームです。

  • ビルド・ユア・オウン・エージェント:
    • 特筆すべきは、わずか5分で独自のAIエージェントを構築できるという点です。これは、ノーコードのビジュアルツールから、専門家向けのプロコード開発環境まで、多様なスキルセットのユーザーに対応する包括的なツール群によって実現されます。
    • これにより、企業は特定のニーズに合わせて、迅速にAIエージェントをカスタマイズし、デプロイできます。
  • 事前構築済みドメインエージェントとユーティリティエージェント:
    • HR(人事)、営業、調達といった特定の業務ドメインに特化したエージェントが提供されるため、導入後すぐに価値を発揮できます。
    • 加えて、ウェブサイトからの情報収集や計算といった汎用的なタスクを実行するユーティリティエージェントも用意されており、これらを組み合わせることで複雑なワークフローも自動化できます。
  • 広範なアプリケーション連携:
    • Adobe、AWS、Microsoft、Oracle、Salesforce Agentforce、SAP、ServiceNow、Workdayなど、80以上の主要なエンタープライズアプリケーションとのシームレスな統合が可能です。これにより、既存システムとの連携が容易になり、AIエージェントが企業全体のデータやプロセスにアクセスできるようになります。
  • エージェントオーケストレーションとオブザーバビリティ:
    • 複数のAIエージェントやツールが連携して複雑なプロジェクトに取り組む際の協調動作(オーケストレーション)を管理する機能が提供されます。
    • また、エージェントのパフォーマンス監視、ガードレール設定、モデル最適化、ガバナンスといったライフサイクル全体を通じた可観測性(オブザーバビリティ)も確保され、信頼性の高い運用を支援します。
  • Agent Catalog:
    • watsonx Orchestrate 内に新設される Agent Catalog では、IBMおよびBox、MasterCard、Oracle、Salesforce、ServiceNowといったパートナーエコシステムが提供する150以上のエージェントや事前構築済みツールに容易にアクセスできます。例えば、SalesforceのAgentforceと連携する営業エージェントや、Slackに組み込める対話型HRエージェントなどが利用可能になります。

 これらの機能強化により、企業はAIエージェントをより手軽に、かつ広範囲な業務に適用できるようになり、生産性向上や意思決定の迅速化が期待できます。

2. ハイブリッド環境におけるインテグレーションの進化: webMethods Hybrid Integration

 AIの導入が進むにつれて、オンプレミスとマルチクラウド環境に散在するAPI、アプリケーション、システム間の連携が大きな課題となっています。IBMは、この課題に対応するため、次世代ソリューションとして webMethods Hybrid Integration を発表しました。

  • インテリジェントなエージェント駆動型オートメーション:
    • 従来の固定的なワークフローではなく、インテリジェントでエージェント駆動型の自動化を実現します。これにより、アプリケーション、API、B2Bパートナー、イベント、ゲートウェイ、ファイル転送など、ハイブリッドクラウド環境における多様な統合ポイントを効率的に管理できます。
  • 大幅なROIと効率改善:
    • Forrester Consultingによる独立した調査では、webMethodsの統合機能を導入した複合組織において、3年間で176%のROI、ダウンタイムの40%削減、複雑なプロジェクトにおける時間節約33%、単純なプロジェクトにおける時間節約67%といった成果が報告されています。これは、統合プロセスの自動化と効率化がいかに大きなビジネスインパクトをもたらすかを示しています。
  • IBMの広範な自動化ポートフォリオとの連携:
    • このソリューションは、アプリケーション開発・統合、インフラ自動化、テクノロジービジネス管理にまたがるIBMの広範な自動化ポートフォリオを補完します。
    • HashiCorpとの連携(インフラプロビジョニングのためのTerraform、シークレット管理のためのVaultなど)により、ハイブリッド環境全体での自動化が強化され、セキュアな設定、一貫したポリシー適用、スケーラブルな運用がサポートされます。

 webMethods Hybrid Integration は、AI時代に不可欠なデータのサイロ化を防ぎ、シームレスなデータフローを実現するための鍵となる技術と言えるでしょう。

3. 非構造化データの解放とAI精度向上: watsonx.data

 契約書、スプレッドシート、プレゼンテーション資料などに埋もれた非構造化データは、企業にとって最も価値がありながら十分に活用されていないリソースの一つです。IBMは、この非構造化データをAIで活用可能にするため、watsonx.data を進化させました。

  • オープンデータレイクハウスとデータファブリックの融合:
    • 新しい watsonx.data は、オープンデータレイクハウスにデータリネージ追跡やガバナンスといったデータファブリック機能を統合します。これにより、企業はサイロ化されたデータ、多様なフォーマットのデータ、クラウド間に散在するデータを一元的に管理し、統制を効かせながら活用できるようになります。
  • RAGの精度向上:
    • 企業は watsonx.data を用いて、AIアプリケーションやエージェントを非構造化データと接続できます。IBMの内部テストによれば、これにより従来のベクトル検索のみのRAG(Retrieval Augmented Generation)と比較して、AIの回答精度が40%向上する可能性があるとされています。これは、より文脈に即した正確な情報をAIが生成するために非常に重要です。
      ※前提知識: RAGとは、大規模言語モデル(LLM)が外部の知識ベースから関連情報を検索し、その情報を基に回答を生成する技術です。検索対象となるデータの質と量が、AIの回答精度に大きく影響します。
  • watsonx.data integration と watsonx.data intelligence:
    • データオーケストレーションツール watsonx.data integration と、AIを活用して非構造化データから深い洞察を抽出する watsonx.data intelligence も発表されました。これらはスタンドアロン製品として、また一部機能は watsonx.data を通じて提供されます。
  • DataStax買収意向とMeta Llama Stackとの連携:
    • IBMは最近、非構造化データの生成AI活用に強みを持つDataStaxの買収意向を発表しました。これにより、クライアントは追加のベクトル検索機能を利用できるようになります。
    • さらに、watsonx はMetaのLlama Stack内でAPIプロバイダーとして統合され、企業がオープン性を核として生成AIを大規模に展開する能力を強化します。
  • Content-Aware Storage (CAS):
    • IBM Fusion上でサービスとして利用可能になった新しいCAS機能は、非構造化データの継続的なコンテキスト処理を提供し、抽出された情報をRAGアプリケーションが容易に利用できるようにすることで、推論までの時間を短縮します。

 これらの機能強化により、企業はこれまで活用が難しかった非構造化データを含む、あらゆるエンタープライズデータをAIの燃料として活用し、より精度の高い洞察や自動化を実現できるようになります。

4. AIスケールのためのインフラストラクチャ: IBM LinuxONE 5

 大規模なAIワークロードを処理するためには、高性能でセキュアなインフラストラクチャが不可欠です。IBMは、この要求に応えるため、最新のLinuxプラットフォーム IBM LinuxONE 5 を発表しました。

  • 圧倒的なAI処理性能:
    • LinuxONE 5 は、1日あたり最大4500億回のAI推論処理を実行できる能力を持ちます。これは、大量のトランザクション処理と並行してAI推論を行うような、エンタープライズレベルの要求に応えるものです。
    • この性能は、IBMのTelum IIオンチップAIプロセッサやIBM Spyre Accelerator(2025年第4四半期にPCIeカード経由で提供予定)といった最先端のAIアクセラレータによって実現されます。
  • 高度なセキュリティ機能:
    • 機密コンテナ(Confidential Containers)により、処理中のデータを含むワークロード全体を保護します。
    • IBMの先駆的な量子安全暗号技術との新たな統合により、将来の量子コンピュータによるサイバー攻撃にも備えます。これは、長期的なデータ保護の観点から非常に重要です。
  • コストと消費電力の削減:
    • クラウドネイティブなコンテナ化されたワークロードを、比較対象のx86ソリューションから LinuxONE 5 に移行することで、5年間で最大44%の総所有コスト(TCO)削減が可能になると試算されています。これは、エネルギー効率の高さと集約率の向上によるものです。
  • パートナーシップによるエコシステムの強化:
    • IBMは、AMD、CoreWeave、Intel、NVIDIAとのGPU、アクセラレータ、ストレージに関する協業を拡大し、計算集約型のワークロードやAIによって強化されたデータ処理のための新しいソリューションを提供します。

 LinuxONE 5 は、企業がAIを大規模に、かつセキュアに展開するための強力な基盤となり、特に金融サービスやヘルスケアなど、ミッションクリティカルな領域でのAI活用を加速させることが期待されます。

まとめ

 本稿では、IBMが発表したエンタープライズ向け生成AIを加速するための新しいハイブリッド技術について詳細に解説しました。

 watsonx OrchestrateによるAIエージェント開発の民主化と高度な連携機能、webMethods Hybrid Integrationによるハイブリッドクラウド全体のインテリジェントな自動化、watsonx.dataの進化による非構造化データを含む全社データのAI活用、そしてLinuxONE 5によるセキュアで高性能なAI処理基盤の提供は、企業がAIを本格的に導入し、その価値を最大限に引き出すための重要なマイルストーンと言えるでしょう。 

 これらの技術は、単に個々のAIモデルの性能を向上させるだけでなく、AIを企業の既存システムや業務プロセスに深く統合し、実質的なビジネス成果を生み出すことを目的としています。今後のIBMの動向、そしてこれらの技術がエンタープライズAIの未来をどのように形作っていくのか、引き続き注目していく必要があるでしょう。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次