[技術紹介]アプリに最適なAI/MLソリューションを見つける:Googleのツール選択ガイド

目次

はじめに

 AIやMLが発達し身近なものになってくる中で、アプリケーションに人工知能(AI)や機械学習(ML)の機能を組み込みたいと考えることが多くなってきています。そうした状況を踏まえて、Googleが提供する様々なAI/MLソリューションの中から最適なものを選ぶための手助けとなる情報を提供しています。GoogleのAndroid Developersブログに掲載された記事「Find the right AI/ML solution for your app」を基に、選択方法を紹介していきます。

引用元記事

要点

  • アプリ開発におけるAI/MLソリューション選択は、データタイプ(テキスト、画像、音声、動画)、タスクの複雑さ、データサイズなどを考慮する必要がある。
  • AI/ML機能の提供方法には、主にオンデバイス処理とクラウドベース処理の2種類が存在し、それぞれにメリット・デメリットがある。
  • オンデバイスソリューション(例:Gemini Nano、ML Kit)は、コスト、プライバシー保護、オフライン機能の面で利点がある。
  • クラウドベースソリューション(例:Firebase経由のGemini Pro/Flash、Imagen)は、より強力なモデルや大規模データ処理、高度なカスタマイズに適している。
  • 生成AI(コンテンツ作成や編集)と従来の機械学習(予測、分類、パターン認識)は、解決したい課題に応じて使い分けることが重要である。
  • Googleは、ML Kit、LiteRT、MediaPipe、Firebase AI Logic SDKなど、多様なニーズに対応する開発ツールを提供している。

詳細解説

 現代のアプリケーション開発において、AI/ML技術の統合はユーザー体験を向上させ、新たな価値を生み出すための鍵となっています。しかし、利用可能なソリューションは多岐にわたり、どれを選べば良いか迷うことも少なくありません。本稿では、Googleが提供するガイドを参考に、その選択プロセスを具体的に紹介します。

AI/MLソリューション選択における考慮事項

 まず、アプリにAI機能を組み込む際に考慮すべき基本的な要素がいくつかあります。

  • データの種類: テキスト、画像、音声、動画など、扱うデータの種類によって最適なモデルやアプローチが異なります。
  • タスクの複雑さ: 単純な要約から、専門知識を必要とする複雑なタスクまで、AIに何をさせたいかによって必要なモデルの能力が変わります。例えば、短いテキスト入力の処理と、長大なドキュメントの分析では、適したソリューションが異なります。
  • データサイズ: 処理するデータの量も重要な要素です。これにより、オンデバイスで処理するのか、クラウドベースのAIを利用するのかの判断材料の一つとなります。

 これらの要素を考慮することで、例えばデバイス上で動作する軽量なGemini Nanoを利用するのか、あるいはFirebaseを通じてクラウドベースのより強力なAI(Gemini FlashGemini ProImagenなど)を利用するのか、といった大まかな方向性が見えてきます。

オンデバイス推論の力

 AI/ML機能をAndroidアプリに追加する際、処理をデバイス上で行うか、クラウドを利用するかを選択できます。オンデバイスソリューションは、特に注目すべき選択肢です。

  • メリット:
    • コスト: クラウド利用料がかからず、追加コストなしで結果を得られます。
    • プライバシー: 入力データがローカルで処理されるため、ユーザーのプライバシー保護が強化されます。
    • オフライン機能: インターネット接続なしでも確実に機能するため、信頼性が向上します。
  • 主なツールと技術:
    • Gemini Nano: Androidデバイス上で直接推論(学習済みモデルを使って予測や判断を行うこと)を実行できます。テキストや画像を扱う場合、まずはML KitのGenAI APIから始めるのが良いでしょう。これらはGemini Nanoを搭載し、特定のオンデバイス向けタスクにファインチューニング(既存の学習済みモデルを特定のタスクやデータセットに合わせて追加学習・調整すること)されています。ML Kit GenAI APIは、テキストの要約校正書き換え画像の説明生成といったユースケースを実装できます。
    • Gemini Nano Experimental Access: ML Kit GenAI APIが提供する基本的なユースケースを超えて、Gemini Nanoでより柔軟なカスタムプロンプトを使用したい場合に検討します。
    • 従来の機械学習タスク: 独自のカスタムモデル(例えば、Googleが提供するオープンモデルGemmaや、特定のユースケースに特化した他のモデル)を実装することも可能です。その際、LiteRTのようなツールが、最適化されたパフォーマンスのための事前設計済みモデルアーキテクチャを提供します。
  • ハイブリッドソリューション: オンデバイスモデルとクラウドモデルの両方を活用するハイブリッドアプローチも考えられます。例えば、チャットの会話やブログ記事のような小さなテキストデータにはローカルモデルを使用し、PDFのような大きなデータソースや追加の知識が必要な場合には、より強力なGeminiモデルを備えたクラウドベースのソリューションを利用するといった使い分けです。

高度なGeminiモデルの統合

 Android開発者は、Firebase AI Logic SDKを使用して、強力なGemini ProGemini Flash、そして画像生成モデルImagenといったGoogleの高度な生成AI機能をアプリケーションに統合できます。このSDKは、より大きなデータニーズに対応し、これらの高性能なマルチモーダルAIモデルへのアクセスを可能にすることで、拡張された機能と適応性を提供します。

  • Firebase AI Logic SDKの利点:
    • 開発者は最小限の労力で、クライアントサイドからGoogleのAIモデルを呼び出すことができます。
    • Gemini ProやGemini Flashのようなモデルはクラウドで推論を実行し、画像、音声、動画、テキストなど、さまざまな種類の入力を処理する能力をAndroidアプリに与えます。
  • モデルの特徴:
    • Gemini Pro: 複雑な問題の推論や広範なデータの分析に優れています。
    • Gemini Flashシリーズ: 優れた速度と、ほとんどのタスクに対応できる十分なコンテキストウィンドウ(AIモデルが一度に処理できる情報量や文脈の長さ)を提供します。

従来の機械学習の使いどころ

 テキスト、画像、コードなどのコンテンツを作成・編集する生成AIは非常に有用ですが、現実世界の問題の多くは、従来の機械学習(ML)技術を用いる方が適切に解決できる場合があります。

  • 従来のMLが得意なタスク:
    • 予測、分類、検出、既存データ内のパターン理解など。
    • これらのタスクにおいて、従来のMLは生成モデルよりも効率的で、計算コストが低く、実装が簡単な場合が多いです。
  • 従来のMLフレームワークの利点:
    • 入力の分析、特徴の識別、学習済みパターンに基づく予測に焦点を当てたアプリケーションに対して、堅牢で最適化された、より実用的なソリューションを提供します。
  • Googleの関連ツール:
    • ML KitLiteRTMediaPipeといったツールは、特にモバイルやエッジコンピューティング環境において、これらの非生成的なユースケースに特化した強力な機能を提供します。

ML Kitによる機械学習統合の開始

 ML Kitは、一般的な機械学習タスクに対応する、本番環境ですぐに利用可能なモバイル最適化ソリューションを提供し、MLの専門知識がなくても利用できます。

  • 特徴:
    • GoogleのML専門知識をAndroidおよびiOSアプリに直接導入できる使いやすいモバイルSDK(Software Development Kit:特定のソフトウェアを開発するために必要なツール群)です。
    • モデルのトレーニングや最適化ではなく、機能開発に集中できます。
    • バーコードスキャン、テキスト認識(OCR: Optical Character Recognition、光学的文字認識)、顔検出、画像ラベリング、オブジェクト検出・追跡、言語識別、スマートリプライなどのための構築済みAPI(Application Programming Interface:ソフトウェア同士が情報をやり取りするための規約や仕組み)とすぐに使えるモデルを提供します。
  • 利点:
    • これらのモデルは通常、オンデバイス実行用に最適化されており、低遅延、オフライン機能、データがデバイス上に留まることによるプライバシー強化を保証します。
  • 選択基準:
    • モデルをトレーニングしたり、生成的な出力を必要とせずに、確立されたML機能をモバイルアプリに迅速に追加したい場合に選択します。Googleの最適化済みモデルを使用したり、カスタムTensorFlow Liteモデルを展開したりして、アプリに「スマート」な機能を効率的に強化するのに最適です。

LiteRTによるカスタムMLデプロイ

 より詳細な制御が必要な場合や、独自のMLモデルを展開したい場合は、LiteRTとGoogle Play開発者サービス上に構築されたカスタムMLスタックを使用します。

  • 特徴:
    • 高性能なML機能を展開するための基本要素を提供します。
    • LiteRTは、リソースに制約のあるモバイル、組み込み、エッジデバイス上でTensorFlowモデルを効率的に実行するために最適化されたツールキットであり、メモリ、電力、ストレージの消費が少ない、大幅に小型で高速なモデルを実行できます。
    • LiteRTランタイムは、エッジデバイス上のさまざまなハードウェアアクセラレータ(GPU、DSP、NPU)に高度に最適化されており、低遅延の推論を可能にします。
  • 選択基準:
    • スマートフォン、IoTデバイス、マイクロコントローラなど、計算能力やバッテリー寿命が限られたデバイス上で、学習済みのMLモデル(一般的には分類、回帰、検出用)を効率的に展開する必要がある場合に選択します。速度とリソース節約が最重要視されるエッジでのカスタムまたは標準的な予測モデルの展開に適したソリューションです。

MediaPipeによるリアルタイム認識の構築

 MediaPipeは、ライブおよびストリーミングメディア向けに設計された、オープンソースでクロスプラットフォームのカスタマイズ可能な機械学習ソリューションを提供します。

  • 特徴:
    • ハンドトラッキング、ポーズ推定、顔メッシュ検出、オブジェクト検出などの複雑なタスクに対応する、最適化済みの構築済みツールを利用できます。これらはすべて、モバイルデバイス上でも高性能なリアルタイムインタラクションを可能にします。
    • MediaPipeのグラフベースのパイプラインは高度にカスタマイズ可能で、Android、iOS、ウェブ、デスクトップ、バックエンドアプリケーション向けのソリューションを調整できます。
  • 選択基準:
    • ジェスチャー認識、ARエフェクト、フィットネストラッキング、アバター制御など、特にビデオストリームのようなライブセンサーデータに対して即座に理解し反応する必要があるアプリケーションに適しています。これらはすべて、入力の分析と解釈に焦点を当てています。

アプローチの選択:オンデバイスかクラウドか

 AndroidアプリにAI/ML機能を統合する際の初期の重要な決定事項は、処理をユーザーのデバイス上で直接実行するか、クラウドで実行するかです。ML Kit、Gemini Nano、TensorFlow Liteのようなツールはオンデバイス機能を可能にし、Firebase AI Logicを備えたGeminiクラウドAPIは強力なクラウドベースの処理を提供できます。正しい選択は、ユースケースとユーザーのニーズに特有のさまざまな要因によって異なります。

 以下の側面を考慮して決定を下しましょう。

  • 接続性とオフライン機能: アプリケーションがインターネット接続なしで確実に機能する必要がある場合、Gemini Nanoのようなオンデバイスソリューションが理想的です。クラウドベースの処理は、その性質上、ネットワークアクセスが必要です。
  • データプライバシー: プライバシー上の理由からユーザーデータがデバイス上に留まる必要があるユースケースでは、機密情報をローカルに保持することでオンデバイス処理が明確な利点を提供します。
  • モデルの能力とタスクの複雑さ: クラウドベースのモデルは、多くの場合、大幅に大きく、より強力で、より頻繁に更新されるため、非常に複雑なAIタスクや、より高い出力品質と広範な機能が最重要視される大規模な入力を処理する場合に適しています。単純なタスクは、オンデバイスモデルで十分に処理できる場合があります。
  • コストに関する考慮事項: クラウドAPIは通常、使用量ベースの価格設定を伴い、推論の数や処理されるデータ量に応じてコストが変動する可能性があります。オンデバイス推論は、一般的に直接的な使用ごとの料金はかかりませんが、開発コストが発生し、バッテリー寿命や全体的なパフォーマンスなどのデバイスリソースに影響を与える可能性があります。
  • デバイスリソース: オンデバイスモデルは、ユーザーのデバイス上のストレージスペースを消費します。また、ターゲットオーディエンスが機能を使用できるように、Gemini Nanoなどの特定のオンデバイスモデルのデバイス互換性に注意することも重要です。
  • ファインチューニングとカスタマイズ: 特定のユースケースに合わせてモデルをファインチューニングする機能が必要な場合、クラウドベースのソリューションの方が一般的に柔軟性が高く、より広範なカスタマイズオプションを提供します。
  • クロスプラットフォームの一貫性: iOSを含む複数のプラットフォームで一貫したAI機能が重要である場合、Gemini Nanoのような一部のオンデバイスソリューションは、まだすべてのオペレーティングシステムで利用可能ではない可能性があることに注意してください。

AI/MLソリューションガイドの活用

 AndroidプロジェクトにAI/ML技術を統合するための適切な開発ツールを特定するのに役立つ「ソリューションガイド」が提示されています。このガイドは、一連の質問に答えていくことで、最適な選択肢にたどり着けるようになっています。

〇選択ガイド:https://developer.android.com/ai/overview#ai-solution-guide

 主要な分岐点は以下の通りです。

  1. AI機能の主な目標は何か?
    • A) 新しいコンテンツの生成(テキスト、画像の説明)、または簡単なテキスト処理(要約、校正、テキストの書き換え)か? → 生成AI
    • B) 既存のデータ/入力の分析(予測、分類、検出、パターン理解)、またはリアルタイムストリーム(ビデオ/オーディオなど)の処理か? → 従来のMLと認識

 ここから先は、それぞれの選択肢に応じて、さらに具体的なタスクや要件(オフラインの必要性、プライバシー、コスト、Firebaseの利用状況など)に関する質問が続き、最終的に推奨されるツール(ML Kit、MediaPipe、LiteRT、Gemini Nano、Firebase AI Logic SDKなど)が提示されます。

 例えば、「生成AI」を選択し、かつ「オフライン機能、最大限のデータプライバシー、クラウド推論コストの回避が重要」である場合、「オンデバイス生成AI(Gemini Nanoを使用)」のセクションに進みます。そこではさらに、ML Kit GenAI APIで提供される特定のタスク(テキストの要約、校正、書き換え、画像の説明生成)に合致するかどうか、トークン制限(AIモデルが一度に処理できるテキストの単位、通常は単語や文字の一部)は十分か、といった質問を通じて、ML Kit GenAI APIとGemini Nano Experimental Accessのどちらが適切かが判断されます。

 同様に、「クラウド生成AI」を選択した場合は、Firebaseとの統合の容易さを優先するか、最大限の柔軟性/制御を求めるかによって、Firebase AI Logic SDKか、カスタムクラウドバックエンドとGemini APIの組み合わせかが推奨されます。Firebase AI Logic SDKを選択した場合でも、必要なパフォーマンスプロファイル(速度重視か高品質重視か)やタスクの種類(テキスト生成か画像生成か)に応じて、Gemini Flash、Gemini Pro、Imagenのいずれかが推奨されます。

 このガイドを利用することで、開発者は自身のプロジェクトの具体的な要件に基づいて、Googleが提供する多様なAI/MLソリューションの中から最適なものを体系的に選択することができます。

まとめ

 本稿では、Googleの「Find the right AI/ML solution for your app」という記事を基に、アプリケーションにAI/ML機能を統合するためのソリューション選択について解説しました。 重要なのは、まず解決したい課題やアプリの要件を明確にすることです。その上で、オンデバイス処理とクラウド処理の特性、生成AIと従来の機械学習の違いを理解し、Googleが提供するML Kit、LiteRT、MediaPipe、Gemini Nano、Firebase AI Logic SDK(Gemini Pro/Flash、Imagenを含む)といった多様なツールの中から、最適なものを選択していくことになります。

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